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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#3 【人物操作】 後編

 稲垣は、拳を床に打ち付けた。血が滲む拳の横には、成瀬の顔がある。

「くっくっく。ご苦労さん。なかなか楽しそうだったじゃねぇか。さて、稲垣。お前にもう用はねぇ。そこの窓から飛び降りろ」

「……てめぇ! くそっ、待て! 今ここを離れる訳に」

 稲垣は廊下の窓を開けて枠に足をかけると、躊躇いもせずに飛び降りた。

「さぁ、成瀬ちゃんよ。本番といくかね。とりあえずそこの部屋にでも入れや」

「……そうね。この際、私も楽しませてもらうことにするわ」

 成瀬の意外な返事に、江藤の笑みは歪みを増した。


 神谷は突然走り出した。人間離れした速度で校庭を横切ると、校舎の傍で腰を落として構えた。丁度そこに、稲垣が降ってきた。

「随分と楽しそうだな。お前、何やってるんだ」

「助かった。礼は必ずする」

 それだけ言って行こうとする稲垣を、神谷が止めた。

「待てよ。誰かの能力にやられたんだろう。誰のどんな能力かくらい話しても罰は当たらんぞ」

 稲垣は言いかけた言葉を飲み込み、しばらく考え込んだ。顔を上げると、落ち着いた様子で話し始めた。

「思い通りにヒトを操る能力。能力者は江藤だ。今も狙われているヒトがいる。恐らくさっきまでの場所にはいないが、俺は探しに行く。時間がないんだ」

「副作用に心当たりは?」

「ない。同時に複数を操るのは無理なようだったが、他に弱点は見当たらないな。もう行くぞ」

 稲垣は最後に「ありがとう」と付け加え、走って行った。

「無敵の能力なんかあるはずがない。ゲームになるような副作用があるはずだ。使えそうな能力だし、狙うか」

 神谷は稲垣の後ろ姿を眺めながら呟いた。稲垣の姿が見えなくなると、飛び降りてきた窓に目をやり、逆の入口から校舎へと入って行った。


 日比野と斉藤は応接室のある教室へ来ていた。教室には誰も居らず、薄暗い電灯と月明かりが入り混じって青白く照らされている。

「もっと早く、脱落していれば良かったな」

 日比野が言うと、斉藤が微笑みながら「そうね」と返した。

「今からでも、敷地外へ出てみるか?」

「やめよう。それは脱落条件じゃなかったはずよ。罰を受けるだけ。試す価値はあるかも知れないけど、危険な賭けになる」

「やっぱり、誰かの副作用を適当に指摘するのが一番か。安全な能力者を見つけなきゃならんな」

「能力者じゃないヒトを指摘しても何も起きなかったもんね。私たちが能力者になったとしても、どっちかが残っちゃうしね。相原さんに脱落させてもらう形でいいんじゃない?」

 日比野は何か引っかかるというような様子で考え込んでいる。ふと、視線を前方に釘付けた。斉藤も釣られてそちらを見やった。


 掲示板

 参加者 16/19

 脱落者 平松光良 大須賀英輔 江藤祐一


 斉藤はそれを見て再び微笑むと、日比野にもたれかかり、やがて微かな寝息を立て始めた。日比野は入口に視線を移し、注意深く見据えていた。


 長く感じた一日が過ぎ、朝の九時を再び時計が示した。その瞬間、参加者全員が揃った。

「これは……どういうことかしら」

 真っ先に朝比奈が口を開いた。他の面々も周囲を見回している。それもそのはず、直前まで教室内にはいなかった者がほとんどなのだから。

「そのまま黙って聞け」

 声のような音が響く。闇の気配も感じられる。昨日と違うのは、人数が減っていることくらいだろうか。

「まず、罰を与える。【物理的暴力による直接殺傷】の該当者は稲垣。傷害の代償として、使用部位の機能を失ってもらう」

 その言葉に反応するかのように、稲垣の右腕がだらりと垂れた。稲垣は動かそうとしているようだが、身体の動きに合わせて腕ごと揺れるばかりだ。

「次に、【学校の敷地外へ脱出】の該当者は岡田、瀬戸。脱出の代償として、寿命を失ってもらう」

「待って! 私は岡田さんに言われて仕方なく」

「嘘よ! 瀬戸さんがちょっと出てみようって」

「黙って聞けと言ったはずだ。失う寿命は敷地外にいた時間に伴う。一秒につき一日分の寿命が失われる」

 二人の顔から血の気が引いている。約一時間で十年分の寿命が失われる計算なのだから、敷地外にいた時間が八時間もあれば、平均寿命全てを失うようなものだ。二人は生まれたばかりの赤ん坊でもない。青ざめるのも当然と言える。

「ただ外にいただけなのよ! 何もしていないの!」

 必死な様子からも伺える通り、敷地外にいた時間は長いのだろう。二十代だったはずの二人の女性は、みるみる老いていく。肌に皺が増え、顔の肉が垂れ、髪は白く染まり、背筋が曲がっていく。そのまま膝から崩れ落ち、二人とも息を引き取った。

「出鱈目だな……!」

 神谷が呟いた。

 最初は同じことを感じていた者も多かっただろう。元々経緯もわからずに突然ここに居て、訳のわからないゲームに参加させられているのだから。しかし、各々が知る常識に当てはまらないことは、既にいくつも起きているはずで、何が起きても不思議じゃないという感覚にさえなっている者は多く見受けられていた。元々の常識を失わずにいることは、並大抵のことではない。

「さて、ゲームは継続するが、ここで終了条件を開示する。【参加者が三人以下になること】【参加者の一人でも能力の所持数が五つに到達すること】【能力を得るもしくは脱落する者が一日出ないこと】でゲームは終了する。ただし、三つ目に関しては午前九時から翌日の午前九時を一日とし、この条件が満たされた場合は、参加者全員を脱落とする」

 終了条件を伝え終わると闇の気配も消えた。

「状況は悪化しましたね……」

 加納が呟いた。真野が表情を曇らせる。

「要は、脱落者が増えないとゲームは終わらない……ということなんですよね」

 熊谷が確認するように言った。真野と加納が頷く。

 全員が示し合わせたかのように、前方を見やる。


 掲示板

 参加者 14/19

 脱落者 平松光良 大須賀英輔 江藤祐一 岡田朋子 瀬戸志穂

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