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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#3 【人物操作】 前編

 江藤は獲物を狙う鷹のような鋭い目つきで、校内を徘徊していた。その眼光は、髪と同じ銀色の輝きを放っている。

「お。丁度良かった。くっくっく」

 廊下の先に成瀬を見つけた江藤は、その距離を詰めて行った。ある程度の距離になったところで成瀬が振り返った。

「何か用? 一応私は護身術も心得ているし、それなりの道具も持っているけれど」

「そう邪険にしなさんな。別に何もしねぇよ。ちょっとゆっくり話でもしようか」

「お断りね。貴方と話すようなことは特にないもの」

 再び背を向け行こうとする成瀬に、江藤は更に声をかけた。

「なぁ、成瀬。待てよ。こっちを向けって」

 成瀬は数歩進んだところで、振り返った。

「……どういうこと?」

「おお、気が変わったか。嬉しいねぇ。さて、落ち着く場所で話そうか。そこの部屋にでも入れよ」

 江藤が指差した部屋に成瀬が入る。江藤も続けて入り、扉を閉めた。

「まぁ座れよ。俺はアンタみたいな美女と話がしたかったんだ」

 成瀬が江藤の向かいに腰を下ろす。やや贅沢な椅子の様子から考えると、校長室や来客用の部屋というところだろうか。

 成瀬は江藤を見据え、再び問う。

「どういうこと?」

「だから、アンタみたいな美女と」

「そういうことじゃない。随分と厄介な能力を得たのね」

「便利な能力と言ってくれ。楽しませてもらうぜ」

 江藤の笑みが深くなる。成瀬は言葉を続けた。

「わかっていないようだけれど、能力が大きいほど、副作用も大きいはずよ。あまり調子に」

「黙れ」

 成瀬が口を噤む。

「いいか。俺は正直こんなゲームはどうだっていい。貰えるのかすらわからん賞もどうだっていい。だがな、目の前にこんなオイシイ能力があるのに使わない手はないだろう。俺はこのゲームを利用して楽しめればそれでいいのさ」

 成瀬は蔑むように江藤を見る。

「おお、いいねぇ。その表情を崩さないでいて欲しいもんだ。反応がないのもつまらんからな。喋っていいが、騒ぐなよ」

「……最低ね」

「ふん。その余裕もいつまでもつかな。とりあえず服を脱げ。しっかりと俺に身体を見せてみろ」

 成瀬は言われた通り、服を脱ぎ、江藤に全身を隈なく見せていった。

「思った通りの身体だな。メインは後で頂くとして、まずは俺の前に跪けよ。くっくっく」

 成瀬が跪くと、江藤は自分の服を脱いだ。


 二時間ほど過ぎただろうか。その間、成瀬は江藤に言われるがまま、全て言葉通りに自分から動いた。ただ、表情こそ歪めることはあったが、一度も声は漏らさなかった。

「ごちそうさん。随分と強情な女だな。まぁ、その内に声も出るようにしてやるぜ」

「今に地獄を見ることになる」

「ふん。お前はもう俺に何もできねえよ。さて、次の女でも食いに行くか」

 江藤は部屋を出かけたところで、思い直したように振り向いた。

「お前に地獄の入口でも見せてやるか。そのまま廊下に出て、誰かに触れられるまで両手を挙げてろ」

 成瀬は全裸のまま廊下に出て両手を挙げ、それを見届けた江藤はその場を去って行った。

 江藤と入れ替わりに、稲垣が廊下の端に現れた。稲垣はすぐに成瀬に走り寄り、目を逸らしながら自分の上着を差し出した。そのまま、数秒沈黙が続いた。

「おい、早く着ろよ」

「その前に触ってもらえない?」

「何をふざけたことを……!」

 稲垣は言葉にならないようなことをもごもごと口にした。成瀬は稲垣の様子を見て、言い直した。

「肩でも頭でもいいの。私に触れてくれればいいの」

 稲垣は戸惑ったが、遠慮がちに成瀬の頭に触れた。成瀬は稲垣が差し出していたままの上着を受け取ると、それを羽織って部屋へと入って行った。しばらくすると、成瀬は服を着て出て来た。

「これ、ありがとう」

 成瀬は稲垣の上着を差し出しながら言った。稲垣はそれを受け取らず、言葉を返した。

「誰かの能力だろう。相手は誰だ」

「それを聞いてどうするの?」

 稲垣は言葉に詰まった。恐らく、報復のようなことを考えていたのだろう。しかし、ここでは暴力は通じない。そして、言葉に詰まったのだから、報復に使えるような能力も持ってはいない。成瀬はそう判断しているようだ。

「次がないようにしたい」

 しばらく考え込んだ稲垣はそう答えた。

「つまり、私かその相手を四六時中見張るの? 不可能ね。気持ちだけ頂くわ。ありがとう」

「俺は、これだけの目に遭わされたにも関わらず、その態度でいられるアンタが気になって仕方ないんだ。勝手なのはわかってる。事情だけでも話してくれないか」

「じゃあ、一つ約束して。相手を知っても手を出さないこと。勝ち目がないわ」

 稲垣は一瞬の間を置いて頷いた。

「まず、相手は江藤。能力は行動操作。人間に限るのか、複数同時に操れるのか、副作用は何か、全てわからない。私は、自分の意思はあったにも関わらず、それを無視して江藤の言葉通りに身体が動いた。逆らうこともできなかった。今わかるのはこれだけね」

「誰に何をされたのかはわかった。だが、アンタの態度の説明にはなっていない」

「……貴方に話したのは失敗ね。借りは返したわ。約束、守ってね」

 成瀬は上着を稲垣に渡すと、立ち去った。稲垣は慌てて後を追った。

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