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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#2 【心理読取】 前編

 教室に残った者が相談を続けている。中心にいるのは真野だ。青の伊達眼鏡のせいで幼く見えるが、実際は二十代半ばというところだろうか。

「とりあえず、このゲームにどう対応するのかを決めた方がいいんじゃないか」

 真野の提案に周囲が同意する。加納が言葉を続ける。冴えない見た目とは裏腹に、自信に満ちた雰囲気は健在だ。

「では、伺いたいのですが、ゲームを放棄して終了を待つか、それとも」

「ゲームに参加して賞を得るか、ね」

 加納の言葉を遮ったのは、朝比奈。先ほどの狼狽ぶりが嘘のように、堂々として見える。が、見ている者は皆、それが虚勢だと感じていることだろう。

「難しいところですよね。終了条件がわからない以上、ただ待っていても終わらない可能性もありますよね」

 はきはきと話す相原の声に、皆の集中が注がれる。大人の集中力をも引っ張るというのは、天性のリーダーシップなのかも知れない。

「その通りです。能力に関しても、個人で扱うか、集団で扱うか、それも重要です」

 加納が感心したように相原に相槌を打つ。朝比奈は食ってかかるように続けた。

「能力は個人で扱うべきね。協力するとはいえ、完全に信用できるヒトなんてここにはいないのではないかしら」

「俺もそれは賛成だ。自分が必要だと思った能力を得て、それを生かして協力すればいいんだ」

 真野の言葉に、ただ聞いているだけの者達も頷く。加納は一通り見渡して、言った。

「では、特に反対の方もいないようなので、能力は各々で考えて扱いましょう。もちろん、必要ないと判断されれば無理に得る必要もないでしょう」

「じゃあ、私行ってきます」

 はっきりと言うその声は、声質が同じであったなら誰もが相原のものと思ったかも知れない。実際に言って応接室へ向かったのは熊谷だ。

 相談した訳でもないが、全員が黙って熊谷が戻るのを待った。ちょうどそこへ、響が戻って来た。

「あれ? お通夜みたいじゃない。何かあったの?」

「響さん。少し空気を読んでくれ。みんな真剣なんだよ」

 真野の声に掻き消されそうではあったが、稲垣が「無事だったか」と呟いたようだった。

「だからこそ、でしょ。そんな肩肘張って考え込んでばかりいても、良い案なんて出ないよ。はい」

 響が差し出した紙には、学校全体のものと思われる見取り図が描かれている。丁寧な線で、とても見易い。

「もう出来たんですか? 響さん、凄い! ありがとうございます!」

 相原の言葉に続いて、数人が響に礼を言う。響は照れる様子もなく、「まあね」とだけ返した。

「それじゃあ、私はこれで。それはあげるからみんなで使って頂戴ね」

 言うだけ言って教室を出て行こうとする響に稲垣が声をかけたが、響は振り返らずに出て行った。稲垣も追おうとはしない。

 その直後、応接室から熊谷が出て来た。また場が静まり返る。恐らく、誰もが同じことを聞きたいが切り出せずにいるのだろう。熊谷も、何も言わずに輪に戻って腰を下ろした。

 少しの間を置いて、相原が沈黙を破った。

「えっと、私も行ってきますね。地図はみんな写しておいた方がいいと思いますよ」

 そう言葉を残して、今度は相原が応接室へ入った。

「そうだな。自分で確認するにしても、この地図は役に立つだろう。必要なヒトは写し……」

 真野が全員に言うようにして、不自然に言葉を切った。全員がその不自然さを感じ取ったらしく、真野に視線が集まる。真野は隣の熊谷と目を合わせている。

 数秒の後、全員が見ていることに気付いた真野は慌てて言った。

「あ、っと、すまない。地図を写しておこう。俺も写させてもらう」

「あらあら、貴方、その子にお熱なのかしら。随分と気が早いのね」

 朝比奈がからかうように言う。真野は少し考え込むような素振りを見せたが、返事はせず、周囲も何も言わなかった。ただ、熊谷だけがやや赤くなっているようだった。

「ねぇ、熊谷さん。貴方が得た能力は、みんなに言える?」

 突然、成瀬が切り出した。全員の視線が一旦成瀬に集まり、同時に熊谷へと向き直る。熊谷は俯いて少しの間黙っていたが、顔を上げると、成瀬を見て「言えません」と答えた。成瀬も「そう」とだけ言うと、地図を写し始めた。

「案外、男の気を惹く能力だったりするのではないかしら」

 見下したような笑みを見せ、朝比奈が言うが、誰も反応しない。その反応を受けてつまらなさそうに地図を写そうとすると、相原が応接室から出て来た。

「失敗しちゃいました。これって、他のヒトが同じ能力を得ていると、貰えないんですね」

「どういうこと?」

 相原の言葉が終わると同時に、朝比奈が詰め寄った。

「えっと、私が望んだ能力は既に他のヒトが持ってて、その場合は私は能力貰えないんですって」

「この少人数で望んだ能力が被った? そんなバカな」

 真野が驚いたように言う。朝比奈は気にせず、相原に詰め寄る。

「それで、貴方は何も得られず仕舞いだと言うの? それは不公平でしょう。一体どんな能力を望んだの?」

「考えていることを読み取る能力です。能力を得られない代わりに、誰がその能力を持ってるのかは教えてくれたんですけど」

「誰がその能力を持っているの?」

 朝比奈は質問を続ける。相原は言いよどむこともなく、答える。

「よせ!」

「熊谷さんです」

 真野の叫びと重なりはしたが、相原の声は全員に聞こえたことだろう。

「え? まずかったですか? 私、元々みんなで使うつもりでこの能力を望んだんですけど……」

 真野が頭を抱え込んでいる。その様子を見て、相原が言葉を続ける。

「あ、あの、ごめんなさい! お互いを信用するには、本音を知ることが必要だと思って」

「相原さん、あまり色々言うものでは」

 加納が言葉を挟むが、相原は一層声を大きくして、続けた。

「だって、熊谷さんだってそうでしょ? 誰が何を考えてるのかをみんなに伝えれば、協力しやすいじゃない。そのつもりで望んだ能力でしょ? みんなで共有しようよ」

「ねぇ、副作用のことは考えた? 本来知ることのできないはずのことを知る。その見返りとして、例えば、その情報を外に出せない……とか」

 成瀬の言葉が場に沈黙を呼ぶ。ふいに、それまでずっと黙っていた男、大須賀が突然叫んだ。

「熊谷さん! アンタの能力の副作用は、ヒトの心から読み取った情報を漏らせないことだ!」

 その瞬間、稲垣が大須賀に掴みかかった。真野が止めようとすると、大須賀の姿が消えた。稲垣が掴んでいた服ごと、その場から消え去ったのだ。

「バカな男……」

 朝比奈が呟く。どの【男】に向けての言葉なのかは、きっと満場一致だろう。誰からともなく、教室の前面を見やる。


 掲示板

 参加者 17/19

 脱落者 平松光良 大須賀英輔

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