能力#1 【時間停止】 後編
平松は頭を抱え込んだ。
「何であんな大火事なのに消防が動いてないんだよ! サイレンすら聞こえないし、さっきからあちこちで爆発も起きてるし……どうなってんだよ!」
その後も似たようなことを繰り返し叫ぶ内に、事態を招いたのが自身であることに気付いたらしい。
「そうだよ、時間だ! 時間よ、動け! 早く! 今すぐ動けよ!」
平松が何度そう叫ぼうとも、裸の女達は全く反応しない。平松以外の人間が動けないのだとすれば、当然、消防活動などされるはずもない。数分間叫び続けた平松は、諦めたのか、それまでとは一転して黙り、廊下に出て水を飲み始めた。
「食料と水分さえあれば、とりあえず死ぬことはないんだ。考えるんだ。今がどんな状況なのか。まずは時間を動かす方法を見つけるんだ」
平松はぶつぶつと呟きながら、本人にしか読めないような字でメモ用紙に何かを書き込んでいる。そして、闇の説明の時に取ったメモと見比べているようだ。そちらのメモも、他人が見て読めるものではない。
一時間ほど過ぎただろうか。外で続いていた爆音も止み、炎だけが静かに景色を赤く染めている。平松は何かに思い至った様子で、「まさか」と繰り返し呟いている。
「副作用……そんなのアリかよ! 止めた時間を動かせないんじゃ意味がないだろうが!」
副作用とは、闇の説明の中で出た言葉の一つだ。
『能力を得ることは利点だけではなく、副作用を伴う。と言っても直接心身に異常を起こすものではない。能力に応じて、固有の制限があるというだけだ』
平松の頭の中では、その言葉が響き続け、打ちのめされているのだろう。とはいえ、平松が得た能力は決して無意味なものではない。非常に大きな力であり、現に平松は自己の欲望を少なからず満たすことに成功している。
「くそっ! 誰か! 誰か助けてくれぇっ!」
全ての【誰か】の時間を自分で封じてしまったのだから、呼びかけに応える者はない。闇も応える気はないようだ。平松の叫びだけが、学校に響き渡っている。
――三日後――
「腹がっ腹が痛ぇよぉ! 兎の餌のせいか? ちくしょうっ」
――二週間後――
「頭がぼうっとする……薬が飲みたい……。病院に行きたい……」
――三ヵ月後――
「早く、雨……降ってくれ……。喉が渇いた……」
――半年後――
「……。ははは! ひゃっはっはっゴホッ! ひーっひっひっ!」
掲示板
参加者 18/19
脱落者 平松光良