能力#0 【時空転移】
ゲームは終了した。成瀬は、言っていた通り、得た能力を全て失うことを望んだ。その姿が消えると、教室に残る姿は真野だけとなった。成瀬の時と同じように、声のような音が、賞で何を望むのか、真野に問う。
「俺は、真相を知りたい」
「いいだろう。何を知りたい?」
「19人目の参加者について聞かせて欲しい。一度も姿を見ていないが、本当にゲームのルールの範疇にいたのか?」
「姿を一度も確認できなかったのは、その能力の為だ。彼の者の能力は、時空転移。その存在を、座標軸、時間軸、ともに望む位置に行き来させることができる。つまり、望んでいる場面に存在できる」
「ということは、俺達にとっての同時刻に、別の場所に存在していた可能性もあるのか。だが、姿が見えなかったのは……副作用か!」
「その通り。時空転移の副作用は、この世界と互いに一切の干渉ができないこと。誰かと会話することも、姿を認識してもらうことも、触れ合うことも、何もできない。ただ存在し、出来事を知覚するのみ」
「だが、当然と言えば当然とは言え、ゲーム終了まで脱落しなかった。副作用を取り除いたのか?」
「彼の者がその能力を得た時点で、既に干渉は不可能だ。故に、賞を与えることもできない。今どこで何をしているのか、それさえも、最早わからない。彼の者が望む場面を行き来し続けているのだろうとしか言えない」
真野が辺りを見回した。
「そうか……。19人目は、最初から敵でも味方でもなかったのか。もしかしたら、今この瞬間もここに存在して、俺達の会話を聞いているのかも知れないな」
真野は、満足そうに頷いた。闇の気配が消えるとともに、真野の姿も消え去った。