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壊れかけの絆  作者: リン
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遊戯終幕

 成瀬が教室に入ると、真野と熊谷が身構えた。成瀬は気にせず、声をかけた。

「少し、話さない?」

「俺達としても、できれば争いたくはない。成瀬さん次第だ」

「ゲームの終わらせ方を選んでもらいに来ただけよ」

 真野と熊谷が顔を見合わせる。真野が「どういうことだ?」と言葉を返した。

「終了条件は覚えている? あと一人脱落すれば、ゲームは終了する。つまり、誰が脱落するのかを貴方達が決めたらいいわ」

「俺達が成瀬さんを選んだらどうするんだ」

「もちろんそれで構わない。元々そのつもりで来たの」

 熊谷が真野に視線を向けると、真野は熊谷の方を見ずに首を横に振った。それを見ていた成瀬は小さく笑うと、言った。

「本音を確認するなら私の心理を読み取るのが確実ね……でも、それはできないの」

「構わない。もし、成瀬さんが俺達を脱落させるつもりなら、既に熊谷さんの副作用を指摘しているはずだ。今の反応からして、気付いているんだろう?」

「そうね。最初に様子を見た時に予想はしていたけれど、相手の思考を読み取ると同時に、自分の思考が伝わってしまう……そんなところでしょうね。今の貴方達の動きを見て、確信した」

 熊谷だけが申し訳なさそうに俯く。真野は成瀬から視線を外さず、「だが」と強く言った。

「俺は一人じゃない。念の為にも、アンタが敵対しないということを確認したい」

 成瀬が「いいわ」と呟き、熊谷に視線を移した。

「熊谷さん。両手を挙げなさい」

 成瀬の言葉に反応するように、熊谷が両手を挙げた。

「真野さん。両手を挙げなさい」

 今度は真野が、成瀬の言葉に反応するように両手を挙げ、熊谷は腕を下ろした。二人は顔を見合わせている。

「熊谷さん。両手を挙げなさい」

 再び同じ言葉を受けた熊谷は、何も反応しない。真野が腕を下ろした。

「今のは、江藤から奪った能力。本人の意思に関係なく、命令した相手を操ることができる。ただし、同じ相手を二度操ることはできないわ。対象を移さない限り効果は続くようだったけれど」

「確かに熊谷さんには効果が現れなかったし、俺達二人ともを対象にしたことで、事実上、その能力は無効か。更には副作用までさらけ出したんだ。本気のようだな」

 成瀬は「わかってもらえたようね」と呟いた。

「さっきの口ぶりだと、加納さんの能力も持っているのか? アンタが加納さんをやったのか? 相原さんや堀田さんはどうなんだ?」」

「彼を脱落させたのは相原さん。それを見ていた赤茶の髪の女性が、横取りするように相原さんから能力を奪ったのよ。私はそのやり口が気に入らなくて、更に能力を奪った」

 真野は、成瀬の言葉を一つ一つ確認するように聞いていた。成瀬が言葉を区切ると、少し迷ってから訊ねた。

「相原さんが加納さんから能力を奪ったのはなぜだ?」

 熊谷も答えを求めるように成瀬を見つめている。成瀬はほとんど躊躇せずに答えた。

「それは彼女にしかわからないわ。私は能力を奪った事実を知っているだけ」

 熊谷が悲しそうに俯く。真野は熊谷に視線を向け、何かを吹っ切ったように表情を変えると、成瀬に向き直った。

「なぜ、俺達に決断を委ねようと?」

「私は誰が脱落したとしても、同じ結末を迎えるはずだから、よ」

 成瀬の言葉に、真野と熊谷が無言で続きを促す。

「私はね。このゲームの賞で、あるヒトに会うつもりだった。けれど、自分で会いに行くことに決めたの。そして、その前にお礼を言わなければならないヒトが二人いる」

 成瀬は一旦言葉を区切り、ゆっくりと呼吸を置くと、再び言葉を紡いだ。

「だから、私は能力も賞もいらないのよ。自分の力で、自分の意思で、二人にちゃんとお礼をして、それから会いたかったヒトに会いに行く」

 熊谷が「あ」と声を上げた。真野と成瀬の視線を浴びると、恥ずかしそうに言った。

「それだったら……私が脱落したいです。私、私欲でこの力を得たんです。気持ちを知りたいヒトがいて……でも、そのヒトの気持ちを知って後悔したんです。私の気持ちも、伝えるつもりもないのに伝わってしまって、重荷にさえなってしまった」

 真野が一瞬だけ、熊谷に視線を向けた。言葉を挟む者はいない。

「もし、副作用が消えて、この力だけが私に残るとしても、怖いんです。本当は気持ちって、ちゃんと向かい合って伝え合わなければいけないのに、この力に甘えて独りぼっちになって行きそうで……」

「それで構わないわ。私は応接室に入っていない。ゲームの賞で能力を全て失わせてもらうから」

「二人がいいなら、俺もそれで構わない」

 熊谷が「ありがとうございます」と頭を下げた。

「俺も応接室には入っていないし、特別な能力は必要ない。ただ、できれば賞は能力の削除ではないことに使いたいから、副作用の指摘を成瀬さんに頼みたい。それでいいか?」

 熊谷と成瀬が頷いた。熊谷が真野と向き合い、もう一度「ありがとうございました」と頭を下げた。

 成瀬が熊谷の副作用を指摘すると、熊谷の姿は消えた。

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