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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#8 【限界発揮】

 真野と熊谷は応接室のある教室へ戻った。夕方になっても加納が戻らず、屋内で待つことにしたのだろう。教室に入ると、二人に気付いた相原が声をかけた。

「真野さんに熊谷さん。加納さんは一緒じゃないんですか?」

「今は別行動中なんだ。相原さんは一人……なっ!?」

 真野は言いながら掲示板に目をやり、絶句した。熊谷が釣られて視線を向け、ほぼ同じ反応を見せた。

「一気に減ってしまいましたね。私、独りぼっちになっちゃいました」

「真野さん、相原さんとも一緒に行動しませんか」

 寂しそうな相原の表情を見たせいか、熊谷が真野に提案した。

「その前に、聞きたいことがある。脱落者の中に、相原さんが手を下したヒトはいるのか?」

 真っ直ぐ見つめる真野から、相原は視線を逸らさなかったが、返事はなかった。

「何か言いたくない事情か、言えない理由があるのか。じゃあ、質問を変える。稲垣さんと響さんが脱落した理由は知っているか?」

「わかりません。響さんとはほとんど顔を合わせていませんし、稲垣さんは真野さん達と一緒だと思っていましたから」

 真野が顔を伏せた。熊谷はその顔を不安そうに見ている。

「相原さん。意図的に脱落者を出して、ゲームを終わらせようとしているヒトがいる可能性がある。一緒に行動するか?」

 相原と熊谷の表情が同時に和らぎ、「いいんですか!」と声を揃えた。

「同行を避けたのは、熊谷さんの脱落リスクを減らす為だ。熊谷さんが望むのに俺が断る理由はないよ。それに元々は、俺も相原さんと同じでみんな無事に日常に戻れれば良かったんだ。今は、相原さんが一人でいる方が危険かも知れない」

「ありがとうございます! 凄く心強いです」

「加納さんの能力も頼りになりますよね」

 微笑みながら言う熊谷に、相原が驚いた眼差しを向けた。

「あの……。加納さんは能力者なんですか?」

「ああ。どんな能力なのかは秘密らしいが、何となく予想は付いている」

 相原は少し考えてから、真剣な表情で言った。

「実は私、能力者を見ると能力がわかるっていう能力を持っているんです。でも……」

「加納さんの能力が見抜けなかった」

「どうしてわかったんですか!?」

 真野の言葉に相原が驚き、その反応に真野と熊谷の表情が曇る。

「疑いたくはないが……加納さんは敵なのかも知れない」

 真野が顔を歪める。相原と熊谷は真野が言葉を続けるのを待っている様子で、場には沈黙が訪れた。


 神谷は屋上に行き、成瀬に声をかけた。成瀬は視線だけを向け、返事はしない。

「提案があって来た。俺はゲームを降りる。脱落方法は何でも構わんが、お前が望むなら俺の能力をやる」

「……なぜ」

「興味はあるようだな」

 お互いに相手の反応を見ているようだ。次の言葉を紡いだのは神谷だった。

「俺はこのゲームにもう用がない」

「私のところに来た理由は?」

 神谷は黙った。成瀬は神谷の言葉を促すように見ていたが、やがて言った。

「私もこのゲームに用はないの」

「それでいいのか」

 成瀬の表情が変わった。

「どういう意味?」

「それを望んでいないヤツもいるだろう」

「聞いていたの……!」

「能力の影響で偶然聞こえただけだ。で、どうする」

「答えになっていないわ」

 神谷は舌打ちをした。しばらく考えていたが、成瀬も黙っているのを見て、渋々という様子で口を開いた。

「俺はお前がどうしようが興味はない。だが、稲垣は信頼に足る男だった。ヤツの意思を酌もうと思っただけだ」

「彼の意思って何?」

「さあな。それは自分で本人に聞けばいい。二度と会えんかも知れんがな」

 成瀬は俯いた。脱落者がどうなるのかは、参加者全員、わかっていないだろう。

「貴方の目的は何だったの?」

「そんなことを聞いてどうする」

「ただの興味よ。私のことも聞いたんでしょう」

 成瀬は、不公平ではないのかと訴えるように言った。神谷は再び舌打ちをした。

「生き別れの妹を探すつもりだった」

「諦めたの?」

 聞き返した成瀬に、「いや」と神谷は首を横に振った。

「参加者の中にいた」

「どうしてわかったの?」

「母親そっくりだったからな。それに、独特の痣を確認した」

 成瀬は何かに気付いたような素振りを見せた。

「……彼女は貴方が兄だと気付いていなかったでしょう」

「向こうは知らない。離れた時は赤ん坊だったからな。無事でいることを確認して、兄としてできることがあればするのが目的だった。そして、それはもう済んだ」

「本当にそれでいいの?」

 神谷は呆れたように首を振った。

「もういいだろう。俺のことは関係ないんだ。ヒトに説教くれるくらいなら、自分のことを考えたらどうだ」

「……貴方はどんな能力を持っているの?」

「自分の能力を限界まで扱う力だ。副作用は推測でしかないが、一切の成長ができないこと」

 成瀬は考え込んでいる。その表情からは、しばらく前まであった絶望が消えている。

「私は、過去を失った訳でも振り切った訳でもない。稲垣さんや貴方の気持ちごと、結局命を捨てるかも知れない。それでも、いいのね?」

「それはお前が決めることだ。俺は不要になった能力をやると言っただけだ」

 成瀬は小さく「ありがとう」と呟いた。

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