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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#7 【位置特定】 前編

 稲垣は居心地が悪そうにうろうろと歩き回っている。同じ室内で下着姿の響が、笑いながら眺めている。

「稲垣君、落ち着いてよ。ちょっと座らない?」

「何で平気なんだ。たった今まで、俺達は……」

 響は笑いながら、「俺達は?」と先を促した。

「何でもない。それより、話が聞きたい。アンタの目的や、能力のこと、話してくれないか」

「あら、稲垣君。一度くらい身体を許したからって、女を自分のモノだと思うと火傷するわよ」

 そう言って響がウインクをすると、稲垣はうな垂れて頭を抱えた。

「全然わからん。一体アンタは何を考えてるんだ」

「私は日常に戻りたいだけ。貴方を誘ったのは、本当に寂しかったからよ。他意はないわ」

 稲垣は確認するように響の目を見て、再び目を伏せた。

「とりあえず服を着てくれないか」

「何言ってるのよ。さっきまでお互い裸だったでしょ。今更下着くらい見て何を恥ずかしがるのよ」

 大きな溜め息をつく稲垣とは対照的に、響は楽しそうに笑っている。

「……能力は?」

「意外と積極的じゃない。いいわ、貴方になら話しても。私の能力はね、参加者の誰がどこにいるのかを知ることができるの。ゲーム終了まで身を守る為の能力よ」

「その能力で19人目の居場所がわかるのは納得できる。だが、姿が見えないとか会話をしていないとか、それはなぜわかった?」

「だって、さっき貴方達といたのよ。私が声をかける前、確認したわ。間違いなくそこにいたけれど、貴方達と会話している風でもなかったし、姿も見えなかった」

 稲垣は「そうか」とだけ呟いた。脅威でないことを確認したかっただけなのかも知れない。 

「アンタ、さっきここから飛び降りようとしていただろう。本当に日常に戻ることが目的なのか?」

「あれは演技に決まってるじゃない。貴方は絶対に助けに入るってわかってたもの」

 再び、稲垣が頭を抱えた。

「もういい。俺がアンタのいいようにされているのはわかった。礼だと思って、一つ頼みを聞いてもらえないか」

 響は「なぁに?」と、作ったような表情で続きを促した。

「成瀬という女性の居場所を教えて欲しい。今朝の表情が気になる」

「あの美人ね。やっぱり男はみんな、ああいうヒトがいいのかな」

「そういうことじゃないんだ。頼めるか?」

 稲垣は響の態度にも慣れてきたようで、いちいち反応を示さなくなった。

「うーん。副作用に関わる話だから伏せておこうと思ってたんだけど、私の能力って結構大変なのよ。少しの間、席を外してもらえるかな」

 稲垣は頷くと、部屋を出た。響はそれを確認すると目を閉じ、数秒も経つと肩で息をし始めた。顔は青白く、真っ直ぐ座っているのもやっとという状態だ。身体が少し傾いたかと思うと、そのまま椅子ごと倒れ込んだ。

「おい! 大丈夫か!」

 稲垣が音に反応して飛び込んで来た。響の様子を見てすぐに飛び出すと、水を持って戻って来た。響の口に流し込むようにして飲ませると、噎せ返ってはいたが、顔色が少し良くなったようだ。

「ここまで大変だとは知らず、無理を言って悪かった。少し休んでくれ」

「大丈夫、落ち着いたから。彼女は、ここにいるわね」

 響は見取り図を指差しながら言った。稲垣は自分の見取り図に印をつけると、礼を言った。

「これで貸し借りなしね。結構急ぎなんでしょ? 私は大丈夫だから行って来たら?」

「何を言ってるんだ。俺はアンタに協力する約束だろう。用事が済んだら戻って来るから、ここで大人しくしていてくれ」

 稲垣は響をそっと放すと、印をつけた場所へ向かって走って行った。


 相原は、朝比奈を目にし、声をかけた。

「朝比奈さん……? 泣いてる? 何があったんですか?」

「貴女、遠慮を知らないわね」

 朝比奈は何かを諦めたような笑みを浮かべ、ハンカチで涙を拭った。

「心配ですから。よかったら、話してくれませんか」

「相原さんは吉村さんのことを気にしていたわね」

 相原は一瞬戸惑ったが、「はい」とはっきり答えた。

「彼は、私がゲームから脱落させたの」

「……知ってました」

 相原の反応に、朝比奈は「何だ」と小さく笑った。

「ねぇ、お願いを聞いてもらえないかしら」

「私にできることですか?」

 朝比奈は、自分の能力とその副作用を相原に伝えた。そして、続けて言った。

「私をゲームから脱落させてもらえないかしら」

 相原は返事を迷っているようだ。朝比奈が言葉を重ねる。

「私にはもう、能力も賞も必要ないの。自分の力で、本当の信頼関係を築きたいのよ。その第一歩が貴女。嘘も隠し事もないわ。今更だけれど、応えてくれるかしら」

 朝比奈の言葉を聞いて、相原は涙を零した。同じ言葉を残した男を思い出したのかも知れない。

「それを、朝比奈さんが本気で望んでいるなら……応えます」

「ありがとう。貴女には能力が効いているみたいね」

 相原は泣きながら笑顔を作り、首を横に振った。

「貴女には邪魔になってしまう能力かも知れないけれど、ごめんなさいね」

「大丈夫です。私、みんな好きですから! 朝比奈さんの得た能力は、ここでお終いにするんです」

 朝比奈は「嫌味も言うのね」と笑った。相原はそんなつもりはなかったようで、慌てて否定した。

「ありがとう。それじゃあ、お願いできるかしら」

 相原は頷くと、朝比奈の能力の副作用を指摘した。その姿は、温かな陽射しに溶けるようにしてあっけなく消えていった。


 真野と熊谷は、闇が用意した食料を摂取していた。文字通り、摂取であって、食べているのではない。煙のようなものを体内に取り込んでいるようにしか見えない。

「これ、やっぱり物足りないですね」

「そうか? 腹も膨れた気になるし、栄養も摂れてるんじゃないか、多分」

「食事はやっぱり、口から食べないと。それも楽しみの一つじゃないですか」

 熊谷は一生懸命話すが、真野はあまり取り合っていないようだ。

「加納さん、遅いですね」

「まぁ、一人になりたい時もあるだろう。あのヒトは一人でも大丈夫だから心配ないさ」

 熊谷は少し考えて、意を決したように言った。

「実は、加納さんの考えていることが読み取れなかったんです」

「まさか、使ったのか?」

 真野の剣幕に、熊谷は「ごめんなさい」と謝った。

「副作用がわかるから、使わないようにする約束だっただろう」

「あ、でも、読み取れなかったってことは、私の心理も伝わってないんじゃ……」

 真野は考え込んだ。熊谷は言葉を探しているようだ。

「とりあえず、今後は使わない方がいい。加納さんに限らず、だ」

「加納さんの能力って、他のヒトの能力を無効にするんでしょうか」

「その可能性が高いな。自分の身を守る能力、か……」

 真野は再び考え込み、それ以上言葉を出さなかった。熊谷も真野を見て遠慮したのか、口を噤んだ。

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