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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#6 【好意収束】

 朝比奈は教室を出たところで、相原と出くわした。

「あ、朝比奈さん。お待たせしまし……あれ?」

「どうかなさった?」

「吉村さんはどうしたんです?」

 朝比奈は一瞬の間を置いて答えた。

「少し単独行動を取りたいそうよ。お手洗いかも知れないわね」

「嘘……ですよね」

 朝比奈はほんの一瞬顔を歪めたが、すぐに笑顔を作り、「本当よ」と返した。

「朝比奈さん。隠す理由はわかりませんが、話せる時が来たらちゃんと話して下さい。私、朝比奈さんのこと信じてますから」

 相原はそれだけ言うと、その場を離れて行った。


 稲垣は響に付いて歩いていた。やがて部屋に入ると、響に促されるままに腰を下ろした。

「どういうつもりなんだ?」

 稲垣の問いかけに対し、響は本当に不思議そうに「何が?」と短く返した。

「わざわざ俺を連れて、何をするつもりなんだ?」

「ああ、言ったでしょ。寂しくなったらお願いするって。私、寂しいのよ」

 冗談なのか本気なのかわからない態度で、響は楽しそうに話す。

「話し相手でも欲しかったのか? 悪いが、俺はそういうのに向いてないぞ」

 響はふふ、と笑いながら、服を脱ぎ始めた。

「おい、よせ! 俺はそんなつもりはない!」

「いいのよ。嫌だったら放って行ってくれればね」

 響は話しながらも脱ぎ続けている。稲垣は部屋を出ようとして、背を向けたまま聞いた。

「誰でも、いいのか?」

「そんな訳ないでしょ。誰にでもこうするような女に見えるなら、そう思ってもらっていいよ」

 窓を開く音に反応して稲垣が振り向いた時には、響は窓の枠に足をかけていた。そのまま躊躇いもせずに飛び降りようとする響を、稲垣が後ろから左腕で抱きしめるようにして止めた。

 響が艶っぽい声を漏らすと、稲垣は慌てて手を放した。

「私はどっちでもいいの。貴方が抱いてくれなければ、ここから飛び降りるだけ」

「冗談はよせよ」

「嫌、なの?」

「そういう問題じゃ……」

 稲垣が口ごもると、響は唇を重ねた。


 朝比奈は神谷を見つけ、声をかけた。

「随分探したのよ」

「お前か。少しは生き方を覚えたのか」

 朝比奈は首を傾げた。

「貴方、私を見て何とも思わないの?」

「何も。用はそれだけか? もう行くぞ」

 朝比奈は慌てて「待って」と声をかけた。

「貴方、何か能力を持っているのかしら」

「俺が応接室に入るのはお前も見ただろう。あるのかないのかは自分で判断しろ」

「貴方の能力を教えて」

 神谷は鼻で笑った。

「何の為に? 俺がお前に能力を話すメリットがない。間の抜けたことを言うな」

「私の能力と、副作用を教えるとしたら?」

 神谷の表情が変わる。

「現実的じゃないが、面白い話だ。そこまでして俺の能力を聞いてどうするんだ」

 朝比奈は黙った。何かを訴えるように、神谷を見つめている。

「いいだろう。ただし、先に話すのはお前だ。それを聞いて、俺が真実だと判断すれば、俺の能力も教えてやる」

「それで構わないわ。私が今持っている能力は二つ。一つは火や水を手元に集めて放つ能力。もう一つは……周囲の人間が私を好意的に見る能力」

「下らん能力だ。副作用を聞くまでもない。嘘をついている訳ではなさそうだから教えてやるが、俺の方は限界まで力を発揮するという能力だ。信じるかどうかはお前の勝手だ」

 そこまで言うと神谷は背を向けたが、朝比奈が再び「待って」と声をかけると、向き直った。

「貴方が嘘をついていないとしたら、どうして私に好意的にならないのよ? ずっと素っ気無い態度のままじゃない!」

 神谷は深く長く息を吐くと、呆れたように言った。

「これから話すのは全て俺の憶測だ。鵜呑みにしないで自分で考えろよ」

 神谷は一旦言葉を切り、考えを整理するようにしながら話し始めた。

「お前の能力は、俺には効いていない。それは間違いない。それが副作用なんだろう」

「副作用って……私はてっきり、人間以外の生物に敵意を向けられるものだとばかり……」

「それもあり得ん話じゃないが、俺に効果がない以上、その説ははずれだろう。好意を得る代償は、好意を向けられないことだ」

 朝比奈が絶句する。両手で口元を押さえると、その場にへたり込んだ。

「一つ、お前は誤解しているようだから言ってやるが、お前が俺に抱いている感情はまやかしだ。好意だと信じているからこそ副作用の対象なんだろうが、一過性の感情でしかない。お前は多分、裕福な生まれで、ずっと腫れ物扱いされて、本気でぶつかる相手がいなかったんだろう。偶然、お前とぶつかったのが俺だっただけだ」

 朝比奈は目に涙を溜め、それでも零れ落ちないように我慢しているようだ。身体は、ずっと小刻みに震えている。

「……よく、わかったわ。所詮、私は独りなのよ」

「いつまでも甘えているなよ。お前はわかっていない。プライドが高いのは結構だが、独りになったのはお前自身の問題だ。その能力もそうだ。お前は周囲を見下してばかりいるようだから気付かなかったんだろうが、好意を寄せる相手に効果がないということは、お前が心を許した相手から効果を失うんだ。お前が変わらない限り、心を許した相手は次々と離れて行き、見下しているヤツばかりが取り巻きに残るんだ」

 朝比奈の涙が溢れた。一旦溢れたらもう止まらず、しゃくり上げるようにして泣き出した。

「信頼関係やらを求めるなら、自分で努力を重ねるしかないんだ。俺のように自分しか信用していない人間に迂闊に話したのはお前の失敗だな。俺はお前をいつでも消せるというのは忘れんことだ」

「今……消して」

「俺は下らん能力に用はない。消えたければ他を当たれ」

 神谷は背を向け、朝比奈を残して去って行った。

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