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壊れかけの絆  作者: リン
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能力#4 【能力感受】 後編

 日比野と相原が待つ教室に、斉藤が戻って来た。

「能力の伝え方を失敗したかな? それほど万能じゃないみたいよ」

「とりあえず、使ってみてどんな感じか教えて下さい」

 斉藤はいまいちだという反応を見せたが、相原は気にしていないようだ。

「まず、能力を知りたい相手が視界に入っていないとダメみたい。能力者を見ると、そのヒトの能力を感じ取るの。で、どんな能力なのかがわかる」

「顔を合わせないと使えないってことですか」

「いや、そうとも限らんだろう。一方的に見たって使えるかも知れん」

 日比野が言葉を挟むと、それに答えるように斉藤が続けた。

「そうなの。校庭に真野君達のグループがいたんだけど、熊谷さんだけがヒトの心を読み取る能力を持っていたわ。距離は遠くても見えればいいみたいね」

「あの加納ってヒトは、今朝応接室に入ってなかったか? 能力持ってないのか?」

「そうみたいね。ただ入るだけという訳にはいかないはずだから、誰かと同じ能力を望んでしまったということでしょう」

「他に能力者はわかりますか?」

「吉村君、だったかな。貴女や朝比奈さんと一緒にいた男のヒトなんだけど、魔法のように火や水を使う能力みたい。私の後に応接室に入ってた」

 日比野は「下らねぇ」と呟き、鼻で笑った。

「彼が出て来てから続けて朝比奈さんも入ったようだけど、私はそこで教室出て来ちゃったから、彼女の能力はわからない」

 相原は斉藤の言葉を聞きながらメモを取っている。

「あの、赤茶色の髪のヒトは見ませんでした?」

「肩くらいまでの長さの? あのヒトはもういなかったね」

 教室で会話もせず、黙って一人で出て行った女のことだろう。相原は協力しようと考えているのかも知れない。

 日比野が呆れたように口を挟んだ。

「結局、副作用の手がかりがないんじゃないのか。どうするつもりなんだ」

 斉藤は、自分にはわからないという風に首を振った。相原は苦笑いしながら答えた。

「私の考えだと、能力のメリットを一部打ち消すようなデメリットが副作用のはずなんです」

 日比野は「つまり?」と詰め寄る。

「……予想するしかないです。すみません」

「こうなると思ったぜ。で、アンタの予想ではどんな副作用なんだ?」

「能力を見抜くメリットはいくつかありますが、ゲームとして捉えた場合、副作用を見抜き易いことだと思うんです。だから、能力を奪えないとか……あれ? だったら副作用を見抜けた方が良かったのかな」

 相原が困ったように頭を捻る横で、斉藤が苦笑いをしている。

「いや、いい線なんじゃないか。能力を奪えないか、そうじゃなければ、奪っても能力が使えないとかな」

 相原がほっとしたように微笑む。

「でも、チャンスは一度……よく考えないといけませんね」

「いや、二度だ。候補を二つに絞れば何とかなる」

 斉藤が「二度?」と繰り返した。日比野が頭を掻きながら答える。

「まずは、俺が指摘するんだよ。そうすればチャンスが二度になる」

「それが当たってしまったら……そうか、私が日比野さんを指摘すればいいんだ」

「ヒトから奪った能力を更に奪えるの?」

 斉藤が心配そうに尋ねた。日比野は少し考えて、答えた。

「ゲーム性を考えると、多分できる。そうじゃないと、ヒトから奪った能力しか持ってないヤツが有利過ぎる」

 相原が「そういえば」と前置きをして二人に話し始めた。

「ゲーム性って聞いて思い出したんですけど、脱落したらどうなるんでしょう? お二人は最初から脱落するつもりだったみたいですけど、怖くないんですか?」

「最初に俺が質問したの覚えてるか? 闇の返答からして、脱落しても何もないさ。ただ日常に戻るだけだろうな」

「そんな! だったら最初からみんなでそうすれば良かったじゃないですか!」

 相原が少し責めるように言う。日比野は続けた。

「それは無理だな。まず、このゲームで得られる能力と賞が魅力的過ぎる。現に、それに誘惑されているヤツがほとんどだろう。あとは、無事だという確証もないのに、脱落する勇気があるか。おいしい餌を目の前に残し、リスクまで冒してわざわざ脱落しようってのは、俺達くらいなんだよ」

 相原はそれ以上追及しなかった。寂しそうな表情をしながらも、日比野の言うことも納得がいくからなのかも知れない。

「さて、そろそろ勝負に出るか。特にいい案がなければ、指摘の候補は【能力を奪えない】と【奪った能力を使えない】でいいか?」

 斉藤と相原が頷く。日比野は今一度考えを整理しているようだ。

「よし。それじゃ俺が失敗したら後は任せるぜ。斉藤。アンタの能力の副作用は、奪った能力を使えないことだ」

 日比野が言い終わるのを待っていたかのように、斉藤の姿が消えた。

「やっぱり……か」

「日比野さん、さすがです! 私だけじゃ思いつきませんでした」

「いや、その話じゃない」

 日比野が表情を曇らせている理由が、相原にはわかっていないようだ。相原は「どういうことですか?」と聞き返した。

「アンタ、俺達に隠してたことがあるだろう」

 相原はびくっと身を震わせた。

「言わなくても構わないが、斉藤も気付いていたはずだぜ」

 相原は顔を伏せ、そのまま黙っている。

「言えないか。まぁ、責める気はない。結果的には同じことだし、この能力が思っているのと違う効果なのかも知れないしな」

 相原は日比野の言葉をじっと聞いている。

「ただ、本気で信頼関係を築きたいと思うなら、嘘と隠し事はダメだ。嘘をついたなら、それを真実に変えろ。隠し事をしたなら、最後まで悟らせるな。それができなければ、本当の信頼関係なんてできやしないぜ」

 相原は顔を上げた。何かを言いかけたのを日比野が止めた。

「いいか。もう遅いんだ。斉藤にアンタの声は届かない。だから、言うな。俺も斉藤も、アンタが能力を持っていないって事実だけを持って消える。余計なことは言うな。約束通り、この能力を奪って、俺を脱落させてくれ」

 相原の目からは、止まることなく涙が零れ続けている。震える声で、日比野に対し副作用を指摘すると、日比野の姿は消えた。

 斉藤も日比野も、消える直前は笑顔だった。その表情が語っていたことを、相原は忘れることはないだろう。

 相原は涙を拭い、応接室のある教室へと向かって行った。

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