能力#4 【能力感受】 前編
参加者の面々は昨日と同じグループに自然と分かれ、今後について話しているようだ。岡田と瀬戸がいなくなったことで、相原達の輪には朝比奈と吉村しかいない。相原は昨日同様、朝比奈に任せ、日比野と斉藤を追って教室を出た。
二人を見つけた相原は声をかけると、三人で手近な教室へと入った。
「相原さん、本当にやったのね。見直したよ」
相原は言葉の代わりに笑顔を返した。日比野は何かを考え込んでいる。
「さぁ、約束通り、貴女の望む能力を得てくるよ。どんな能力なの?」
「ちょっと待ってくれ」
日比野が言葉を挟んだ。
「確認しておきたいんだが、その能力をアンタに譲るには副作用がわからないといけないだろう。それをどうするのかは考えてあるのか?」
「ある程度の目星はつけてありますが、あとは実際に能力を使ってみて、になりますね」
「チャンスは一度しかない。失敗した場合のことは考えてあるのか?」
相原が言葉に詰まる。反応からして、失敗は考えていなかったようだ。
「失敗はしません。お二人の力も貸して下さい」
「そういういい加減なやり方でどうにかなる世界じゃないってのは、アンタも見ただろう。悪いが、やっぱり俺はアンタの話には乗らない」
斉藤と相原が同時に日比野を見やる。
「協力しないとは言ってない。どのみち斉藤はアンタの話に乗るだろう。俺はそのリスクを抑える方法を考える」
斉藤と相原の表情が緩む。日比野はまた考え事を始めたようだ。
「それじゃ、斉藤さん。お願いしたいのは、【誰がどんな能力を持っているのかを知る能力】です」
「能力を知る? どうせなら副作用を知る能力とか、もっと強力そうな能力の方がいいんじゃないの?」
斉藤の言葉に対し、相原ははにかみながら答えた。
「これは私の想像なんですけど、副作用を知る能力だと、その能力の副作用で、能力を奪ったりできなくなると思うんです。だって、そうじゃないとゲームにならなくなっちゃうじゃないですか。それに、凄い能力ほど副作用が怖い気がするんです」
斉藤は「なるほど」と納得したようだ。日比野は少し笑いながら口を挟んだ。
「能力者が相手じゃなければ意味がないけどな」
「私は争うつもりはないんです。でも、全員が一枚岩じゃなくて、しかも終了条件のせいで、きっと争いは起きると思うんです。そうなったら、味方の能力をどう生かして、敵の能力にどう対処するか、能力がわかっているだけで随分違うと思うんですよ」
「まぁ、筋は通ってるな。ただ、本気で周りを蹴落とそうってヤツは、そんな生温い能力じゃないと思うぜ。それこそ、簡単に命を奪うようなレベルの能力を使ってくるだろうな」
少し考え込んでいる相原に、斉藤が「本当にいいの?」と確認した。
「はい。斉藤さん、よろしくお願いします」
相原が頭を下げると、斉藤は照れたように微笑み、応接室のある教室へと向かった。
真野達四人は、校庭の隅で話し合っていた。
「これでいよいよ、争いになってしまうだろうな」
真野の言葉に熊谷の表情が曇る。
「あの、私、迷惑じゃないですか? 頭が良い訳でもないし、大した能力も持ってないですし……」
「ここにいる者は皆、自分がそうしたくているんですよ。あまり気に病まないように」
加納が微笑みながら言う。熊谷は安心した表情を見せた。
「ところで、加納さん。さっき、何の能力を得て来たんです?」
真野の問いに一瞬の間を置いて、加納が言葉を返す。
「今は、伏せさせて下さい。必要になればお話ししますから」
「誰か信用できないのか?」
稲垣が割って入った。その言葉には棘が含まれている。
「そうではありませんが……そう取られても仕方ありませんね」
「はーい。また随分と辛気臭い感じになってるじゃないの」
突然の声に、四人が身構えるようにして視線を向けた。この緊張感を感じさせない話し方は響のものだと、全員が気付いているようではあったが、誰も気配には気付かなかったようだ。
「響さん。どうしたんです、こんなところで」
真野が何かを探るように問いかける。
「あら、随分ご挨拶じゃない。情報を持ってきたのに」
「それは興味深いですね。どんな情報です?」
今度は加納が問う。響は笑って人差し指を立て、口元に当てて「ちっちっ」と音を立てながら指を振った。丸顔と相まって、どこかコミカルな仕草に見える。熊谷は少し笑っているようだ。
「ただし、条件があるの。稲垣君、貴方が私に協力してくれないかな?」
「わざわざそういう言い方をするということは、こちらの輪から外れて貴女と行動する、ということになりますね」
「私は稲垣君に聞いているのよ」
加納に一瞥を向け、響は再び稲垣に向き直った。稲垣は真野を見やり、何かを確認すると、答えた。
「俺は構わない。アンタに協力するからといって、真野達と敵対する訳でもないしな」
「ありがとう、助かるわ。それじゃあ約束の情報だけど、19人目についてよ」
真野と加納が同時に声を上げた。相当に驚いたらしい。
「便宜上彼と呼ぶけれど、性別は不明よ。彼は常にこの学校の敷地内にいて、常に誰かと共にいる。ただし、姿は見えないし、会話しているとも思えない。目的はわからないけれど、何かの能力者なのは間違いないわね」
「何ですか、その訳のわからない情報は。姿も見えず会話もしないのに、なぜ存在を確認できるんです」
真野が詰め寄る。響は少し困った様子を見せたが、笑って答えた。
「うーん、私の能力のお陰かな。どんな能力かは秘密」
最後にハートでも付いていそうな言い方だ。
「それじゃあ、私達は行くわね。またね」
響は稲垣の腕を引き、連れて行くようにして去って行った。