actI 【常葉莉緒】
――杏葉の登校と同刻。グランドにて――
少女は思う。
――あれは誰?
また思う。
――ボクを見ているのは、誰?
「…緒? ど…し……莉緒?」
声が聞こえる。しかし、また思う。
――誰なの? 答え――
「莉緒!!」
「ひゃうっ!!」
声は先ほどより強く、思考は停止。
すっとんきょうな声をあげて飛び上がってしまった。
「もぅ 何ボーッとしてんの?」
「ゴ、ゴメン……。あっちだったよね?」
声の主は隣に居た少女。少しムッとした表情をしている。
少女――莉緒は、謝り、列につこうと確認した。
隣の少女は「うん」と言って首を立てに振った。「ありがと」と微笑み、莉緒は歩き出す。向かう先には“魔導工学科”の文字。プラカードのようなものが立っていた。
(……みんなおっきいなぁ)
そんな事を思いながら列につく。実際は自分が小さすぎるだけという事は棚に上げて。
また、視線を感じた。
先ほどと同じ事を何度も自問している内に、移動は始まっていた。
「まずは武術科から入ってください」
前に立っている先生が大声で指示をとばしている。それを各科の先生は聞き、体育館へと案内すれ。別に案内している先生が担任というわけではないらしい。担任は式で発表されるまで秘密だと莉緒は聞いていた。何かサプライズのつもりかな、などと家で聞いた話を思い出し、ぼんやりと考えてみた。
その思考の合間にふと見えた少年。
なにやら銀色のものを付けた、不思議な感じの少年。莉緒は何故か近しい感じがしたが、すぐに振り払った。
(ボクと近いわけないじゃん。だって男の子だし……)
などと考えて。いや、考えることによって、下らない、下らない、と自分に言い聞かせ、前を向いた。
「魔導工学科の人、入って下さい」
ちょうど時間だったらしい。前の人について、利緒も歩き出した。
移動中も様々な事を考えていたが、どれ一つとして答えは出なかった。
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式も無事終わり、担任に連れられ、教室へと向かう。
すでに何人かの人話をして、顔もかすかに覚えた。人見知りの激しい莉緒は自分から話しかけるこはできない。だから、話したと言っても全部話しかけられたのだった。
何分、容姿は逆の意味で目立つ。「ちっちゃくてカワイイ〜♪」と今までも散々なぶり物にされてきた。今回もそのパターンである。
教室に行ったらすごいんだろうなぁ、と思いつつ、
だんだんと重くなる足えお引きずりながら、歩くのであった。
「ここが教室です。早く覚えて下さいね。」
莉緒の心の中など露知らず。担任は無駄に明るく元気に言った。
皆、内心では「小学生でもあるまいし」と思っているだろうと勝手な推測をしつつ、教室へと入る。
席には律儀なことに名前を書いた紙が貼ってあった。莉緒の席は窓際の最前列の席だった。
(黒板見るのに苦労しなくて済みそうだね)
少しズレたことを考えながら席につく。そして、窓の外を眺めてみる。見えたのは、近くにある花壇とその奥の林。林には桜の木もわずかながら混ざっているらしく、所々に淡いピンクの花が見える。それは、深い緑の中でよく映えて。まるで、自分のようで。周りとは違う、自分のようで。
───見入っている内に、予想通り包囲されたいた。
「もうやめてぇー!!」
叫ぶも虚しく、誰も聞かず、されるがままとなった莉緒であった。