actI 【霜月杏葉】
――春……。
別れがあり、新しい出会いもある。この季節が緋煉島にもやってきた。春の象徴である桜…この花びらが舞う道を一人の少女が歩いている。
少女の名は杏葉…。
空は青空で周りは桜とあたり一面の陽気に包まれている。しかし杏葉の心の中は違った。時間が凍ったかのように杏葉の心の中は未だ冬であった。黒いベールに包まれ、春を見付けることができていない。
モヤモヤが心を覆っている。しかし原因がわからない。
わからないからこのモヤモヤがますます積もってゆく。
(一体このモヤモヤは何?)
そう考えている内に学校に到着した。
―緋煉島 入学式―
校門にはそう書いた板が立てかけてあった。そう今日は緋煉島の入学式。だから杏葉も学校に来ているのだ。
校門を通り抜け少し歩くとグランドが見えた。グランドには新入生らしい少年少女が集まっていた。緊張した趣で肩慣れのしていない真新しい制服を着て…時刻は早いというのに…。
その中、一人の少女が杏葉の目についた。
その少女はとても背が低く、はっきり言って高校生に見えない。少女は友達と楽しそうにしているが、どこか心の奥底で考え事をしているような、そんな気がした。
(あんな子も居るんだぁ。どこの学科だろう…まっ、自分には関係ないか)
そう思いながら新入生集団の間をうまく通り抜け、教室のへと向かった。
杏葉の学校は普通科、武術科、魔導工学科の三つだ学科が1クラスずつある。因みにこの学校は島唯一の高校である。
だから学年が変わってもクラスのメンバーはあまり変わらない。変わると言えば担任ぐらいだ。
(怖い先生じゃなければいいな…)
杏葉はそう願いつつひたすら教室へむかって歩く。段々と教室に近づく―。
「魔導工学科2……っと、よしここだ」
扉の前で立ち止まりふと考える。
変わり映えのしないメンバーと一日。平和なことはよい。だけどやっぱりヒマ。何か面白いことでも起きないかなぁ〜。と期待しつつ、我にかえり扉を開けた。
「オハヨウ!!」
っと言って、自分の席―窓側の後ろから2番目―にむかった。
(ラッキー)
っと思いながら自分の席にすわる。その席からはちょうどグランドが見えた。そして杏葉の目には再びあの少女が映った。
(やっぱり気になるかな…。名前なんていうのだろう…)
そう思っている内に新しい担任がやってきた。
(よかった…先生怖くなさそう)
杏葉は一安心し、再び窓の外に目を向けた。
だがそこにはもうあの少女はいなかった。
(また会えるかな?)
そんなことを思いながら、杏葉の学校生活は始まっていった。