プロローグ 【自他 ―別離―】
「――嗚呼」
「――神よ。今、お傍に――」
―――……。
……ただ、何も変わらずに、全ての喧騒や静寂をすら飲み込み、廻り続ける世界へ。
……この、比べられない位にちっぽけな僕らから。
伝えなきゃならない想いは、ありますか?
―――……。
幼き日、真理を垣間見た騎士。
過去、知恵の実が堕ちた世界から。
失われてしまった、回帰の地へ。
「―――罪。俺はその言葉が嫌いだ。罪を無くす方法はないのか?教えてほしい……」
―――……。
血分けも尚、逃げ惑う乙女。
一人歩む、孤独な闇夜の深淵から。
歩みを止めた、光に満ちる朝霞の海へ。
「私は闇の中から抜け出せるのでしょうか?」
―――……。
木漏れ日の中、枯れ行く幼樹。
空へと、手を伸ばせない今から。
枝を広げ、日の輝きへと触れる未来へ。
「今、存在している意味は何だろうか?」
―――……。
巣立ちを待たず、羽を広げる雛鳥。
何も帰って来ない、朽ちた巣から。
止まり木を求める渡り鳥へ。
「本当の自由とは、なんですか?」
―――……。
消え行く揺らめきを、見送った篝火。
雨音から逃れられない雲の下から。
自分の傘を見つけた場所へ。
「この命は何のために一つ残されたのですか?」
―――……。
湖面を臨む、哀れな獣。
盲た目には、気付かない荒野から。
声が聞こえる、抱いた腕の中へ。
「この空っぽなわたしに、あなた達は何をくれますか?」
―――……。
月女神。
幹へと触れる手を待つ、月桂樹から。
一人ぼっちな、寂しい月へ。
「ここに、いるよ」
―――……。
己が歩む道すら知らず、今日まで歩んで来た意味すらも解らずに、明日もまた、どこかへと歩を進める。
それは恐らく、己が自身へと向けた問い、その答えも尚、いつか訪れる決意の日の為に。
しかし、今日もまた答えは見付からず、哀れな子らは歩みを止めない。そして、己が問いすらも見失う。
だか、真実は……
不変の世界に、答えなどありはしない。