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だから大変なんだよな。

あんまりネタがありません。ほとんどシリアスな展開が続いていきます。



「すいません。遅れました」


遅れた時に必ず言う殺し文句を一言。それで始まる筈だった。

自分の思い描いたシナリオ通りに。


―――が、そんな稚拙なシナリオ等、彼らには通じなかった。


いや、通じる訳が無かった。

だって何故なら―――


クラス全員が躍起になってA4サイズの紙を食い入るように見て、「これには無い!」「こっちもだ!」「これが新しい分だ!」と、何処かの編集部よろしく大騒ぎになっていたからだ。


先生が授業にきた形跡はあるが、ただ黒板に大きな字で『自習』と書かれていた。


「な………なんなの………?これは一体………?」

マヤは引き戸の入り口で固まってしまった。




「伊吹ぃ!流石に10年前のリストには乗ってない!!裏付けが取れた!!」

政が資料をガサガサとまとめあげながら言う。

「なに!?そうなのか!!じゃあ、皆ーっ!!」

伊吹の大声に反応してクラスが一旦、静まり返る。


「皆!10年前の資料には無い!!9年前以降の資料を中心的に見てくれ。それから、今、10年前の資料を見ているやつは政に回してくれ!!」


『オオーーーーッ!!』


「じゃあ再開っ!!」


『オオーーーーッ!!』


再び教室は先程の喧騒を取り戻した。




しばらく呆けていたマヤは慌てて伊吹達の元に駆け寄る。


「伊吹君っ!こ、これは一体、何の騒ぎなの!?」

「ん?ああ。マヤさん。おはよー!」

「伊吹君!この資料何だけど…」

マヤの隣から静が手元の資料をズイッ、と伊吹に出す。


「これ、ここのグループは確かまだ活動を辞めていない筈よ。組織が分裂してついさっき検挙されたばかりだから、新しい資料が必要よ!」

「なんだって!?…政!新しい資料が必要だ!!現段階までのやつ。コイツだけでもいい!印刷できるか!?」

「大丈夫だ!!今、携帯から印刷組の神宮に伝えた!!多分、配達組に渡って2分以内に来るはず!!」

「わかった!!ありがとう静さん!!ニュース組は今みたいなヤツをリアルタイムでどんどん見つけてくれ!!」

「任せて伊吹君!!私、頑張る!!」

静が意気込んだ時だった。


教室の引き戸が開き、作業用のカートで昌子が入ってくる。

「配達組でーす!!今日の午前7時30分〜8時00分までの分でーす!!名前分けはしてません!!」

「わかった!!ライン組、恭志郎に不必要な名前に全部赤線引いてもらって!!」

「了解でーす!」

サッ、と恭士郎の机に資料を置き、教室から出ていった。


「おい、伊吹!流石に量が多すぎる!!もう少し減らしてくれ!!」

恭士郎が積み上げられた資料を1枚1枚見ながら赤ペンでラインを引きつつ文句を言う。

「わかった!調査組の竹下!!恭士郎を手伝ってやれ!!」

「はいっ!!」

眼鏡の男子生徒が大声で返事をし、恭士郎の手伝いを開始する。


「田中!一旦休め!集中が切れてきてる!」

「わ、わかりました。伊吹さん」

お下げの女子生徒が、やっていた作業を中断し机に突っ伏す。


「佐藤!その資料には載っていそうか!?」

「いえ!!載っていないであります。軍曹殿っ!!」

迷彩服(ツッコんだら負け)を来た男子生徒が敬礼して答える。


ガッシャアアアアアアン!!

廊下でものすごい衝突音が響いた。


「鈴木!配達組の昌子がコケたらしい!すぐに救助に向かってくれ!」

「はっ、はい!」

鈴木と呼ばれたショートカットの女子生徒が廊下に飛び出して行った。


「宮下!大丈夫か!?顔色青いぞ!!」

「大丈夫です。自分はまだやれ………バタッ」

宮下と呼ばれた丸刈り頭の男子生徒が倒れる。


「横山!宮下を邪魔にならないように動かしておいてくれ!」

「ああ。わかった!!」

横山と呼ばれたポニーテールの女子生徒が宮下を担ぎ上げ、壁に寄りかからせた後、自分の作業に戻る。


異常なほど統制のとれたクラス…いや、もはや軍隊レベルにまで達していた。

迅速かつ、正確に、無駄が無い連携。

たった3日でここまで連携がとれるものなのか?

普通に考えればとれないだろう。

なのに…こいつらは………


「い、伊吹君!!」

「あ、ごめんごめん。なんだマヤさん」

ようやくマヤに気が付いた伊吹が一旦手を止める。


「これはいったい何の騒ぎなの!?」

「ああ。これはね、政が警察で検挙された金銭関係の詐欺グループの過去10年間まで遡ったデータの中から『松下』と名字がつく人を全て探し出した資料なんだ」

「何のために?」

「マヤさんのその借金が不正にかけられたものじゃないかと思ってね。政の話だとあと100件は家にあるみたいだから、頑張れば全て見終わるかもしれない」

「だアホ。さっきも言ったが、どうせお前のことだからなんも考えてないと思って俺が用意したんだ。勘違いすんなよ。自分の手柄みたいに言いやがって」


「ああ、すまんすまん」

「ったく…。ま、俺にはお前みたいにここまで的確な指示は出せないけどな」

「そうかぁ?」

「そうだよ」


政と伊吹はそう言ってにこやかに笑うが、二人とも既に眼が真っ赤に充血していて、顔色も青ざめていた。

他の全員だってそうだ。

立ち上がると同時に目眩を起こして倒れる人や、自分の頬を叩き眠気を飛ばそうとしている人、壁に寄りかかって寝ている人。

全ては全部、松下 マヤというクラスメイトを救うための行動。


「………ないの…?」

「ん?なんだ?マヤさん」

伊吹がマヤのほうを向く。


「あんたたち馬鹿じゃないの!?なんでここまでする必要があるの!?私が嘘を言っているのかもしれないのよ!?」

「もしそうだとしたら、昨日のアレの説明がつかないな。普通、金目当てで自分の学校の校長には行かないだろ。水商売、もしくは援助交際で稼げばいい。そっちのほうがバレるリスクは低い。まあ、意外性を除けば別だけど、マヤさんの昨日の様子からじゃ、その意外性に当てはまるような性格じゃないからね。」

とても一般の学生が話すような内容ではない。


だが、伊吹のその口調からは自信に満ち溢れた説得力があった。


だからこそ、止めさせないといけないとマヤは思った。

ならば、ここで一瞬にして全員のやる気を削ぐセリフを言い放てばいい。

絶対に悟られない。悟らせてはいけない。そのために秘策として考えていたセリフを。




「ぷっ…あはははははははははははははははははははははははははははははははははは!はははっ!ははははははははははっ!!」

突然大声で笑い出したマヤにクラス全員の注目が集まる。


「あんたたち馬鹿ね!!ほっんと大馬鹿よ!!まさか、ここまでするとは心底感激するわ!!」

クラス全員の動きが止まり、静まり返った。


「実はね、これは単なる私の遊びなのよ。人がどうしようもない脅威にさらされたとき、他の人はどうするのか見物するためのね。そのために私はわざと借金を背負った可哀想な女子生徒を演じたわ!!


もちろん簡単にエサは食い付いてきた。そこの『上野 伊吹』と『宇尾間 政』って言う偽善者二人組!!


傑作も傑作よ。私が校長室で体を売ろうとしていた時に、ドアぶち破って飛び込んできたわ。


最っっ高に面白かった!あの必死な顔!!面白すぎて、泣いて誤魔化すのにとても苦労したね!しかもそれだけじゃない。私を助けるために『斉藤 真琴』まで呼び出して偽善者って罵られてた!


ああ、可笑しかった。女子に叩き伏せられても必死になって『助けたい!助けたい!』って喚いていたわ。みっともないったらありゃしない!それで最後にこの騒ぎ。今までにないくらいに最高の被検体よ、あなたたち。


本当は全員の貯金でも集めて私に献上してくれたら一石二鳥だったんだけど、まあ、おかげでいいサンプルだったわ!!だからこそあなたたちみたいな被検体に命令してあげる。


『そんな作業を辞めて、とっとと金出せ屑ども!』」





言い切った。言い切ってしまった。これでもう後には戻れない。ぐちゃぐちゃに犯されようが、ボコボコにリンチされようが構いやしない。どうせ私はこれから死ぬのだから。


松下 マヤという人間はこの世で最低の扱いを受けてから自殺する。


超悲劇のヒロインじゃんか。私は。…やった…やったよ。天国のお父さん、お母さん。私、明日新聞欄に載るんだ。

最期はちょっと褒めてもらえないような終わり方だけど、でも問題ないよね。皆から悔やまれないで、惜しまれないで逝くんだから。…笑ってお別れはできなけど、いいよね。

ちょっとだけ皆を巻き込んじゃったけどごめんね。許してもらえないのはわかってる。けど皆、ごめんね。本当にごめんね。


真琴さん。ありがとう。私に気づかせてくれて。でも、伊吹君も政君も決して偽善者なんかじゃなかったよ。だから、仲直りしてね。


政君もごめんね。ここまでして私を助けようとしてくれていたのに。その心遣いを思いっきり踏みにじっちゃってごめんね。


伊吹君…ごめん。本当にごめん。あなたをあそこまで蔑むようなことを言っちゃって。謝っても謝りきれないよね。多分あなたは私を一生恨むと思う、殺したいくらい恨むかもしれない。

だから、もしできる事なら、許されることであるのなら、


あなたの手で私を殺してほしい。


だって…貴方のことが好きになっちゃったから。

校長室に飛び込んできた時、すごくかっこよかった。私を助けるって言ってくれた時、すごく嬉しかった。一緒に帰ってくれた時、とても心が暖かかった。今だって、私を助けるために必死になってくれてるんだもんね。


…気づいて無いと思うけど、今だって、心がドキドキして頭がおかしくなりそうなんだよ。体中が火照って今にも爆発しそうなんだよ。…もし、違う生き方ができたのなら、私たち恋人に成れたのかもしれないね。


………ダメだよね。そんなこと考えちゃ。だって貴方は私のことが嫌いになっちゃうんだもんね。こんなこと誰も許さないもんね。



あ~あ。なんでこうなっちゃったんだろう。悲しいな…泣きたいくらいに心が痛いな…。

………おかしいな。もう決めたはずなのに。死ぬって決めたはずなのに。この世に悔いは無いはずなのに…今になって後悔するなんてどうかしちゃったのかな?私。

でもそういうもんか。死ぬ寸前ってのは。

だからこそ心の中で言わせて…。悔いを残さないためにも…。




ごめんなさい。

そして、



ありがとう。




読んで頂き誠にありがとうございます。


初めてパソコンを使って投稿するパソコンど素人の作者です。

…ので、誤字脱字があれば言ってください。超即行で直しますので。


さて、結構引っ張っていますが、あと3~4話くらいでこの『松下 マヤ』編は完結します。

…長くなってしまうのは小出しにしている作者のせいです。スイマセンorz

でも、「そんな作品でも構わねえよっ!!」というノリがいい方に読んでいただけたら幸いです。


これからもこんな作者をよろしくお願いしますm(__)m。

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