さて、どうしたらいいのかな?
ご都合主義バンザーイ
時間が経つのは早い。
結局、伊吹は何もしないまま翌日を迎えた。既に時刻は朝の8時30分。ホームルームの開始は8時45分からだ。そろそろ登校しないと遅刻扱いにされる。
「………。」
伊吹は昨日から一睡も出来ずに着替えもしないで布団の上でずっと家の天井を眺めていた。
ちなみに父親はアメリカで仕事中。母親もフランスで仕事中。毎月、家賃や電気代や水道費は払っているらしいし、小遣いも送られてくる。
一応、兄と妹が居るが、兄は大学の寮。妹は母親に連れられてフランス。
つまりは独り暮らしである。
何時に帰ろうが、何も言われないので気楽ではあるが、こういうときが一番辛い。
電話で相談をしてみたが、父親も母親も一方的に『自分で何とかしろ』の一点張り。兄は電話に出ない。妹には流石に相談出来なかった。いや、意地でもしたくなかった。
要するに誰も当てに出来ない。
『忠告してあげる。もう二度とその偽善を振り撒くな。次はあなたを社会的ドン底に叩き込む!!』
未だに真琴に言われた言葉が繰り返し脳内で再生される。
「社会的ドン底って何だよ………人を助けることがそんなに悪いのかよっ………!!」
忌々しげに自分の手のひらを睨む。
ピピピピ………ピピピピ………ピピピピ………
目覚まし時計が鳴る。
「………学校に行くか………。」
先生に相談すればなんとかなるかもしれない。そんな淡い希望を抱いて愛用のチャリンコに乗って登校する。
〜教室〜
「おはよ〜う伊吹く………大丈夫?顔色悪いよ………。」
静が元気に挨拶をしかけて、すぐに不安そうな顔になる。
「ん?静か、おはよう。いやあ、昨日はゲームを徹夜でやっちまって寝不足なんだ。」
伊吹はあくまで心配させまいと明るく振る舞う。
「嘘。伊吹君はゲームで徹夜してもそんなに暗い顔にならない。」
一瞬で看破された。
「そんなことないよ。ちょっと感動系の鬱ゲームでね、ついつい暗くなっちゃっただけだよ。」
全力で誤魔化しにかかる。
「私を騙そうとしても無駄よ。いつもの伊吹君じゃないって分かるんだから。とっても重大な事を抱えてる時の顔だもん。」
「な、なんでわか………あ………。」
墓穴。
「伊吹君の未来の妻よ。分からない訳無いわ。」
どうやら勝ち目は無いようだ。
「っ………はあ〜。こいつは俺の負けだな。わかった。全部話すからその『未来の妻』は止めてくれ。」
「わかったわ。『未来の旦那さん』。」
「………もう何も突っ込まん。………松下 マヤって知ってるか?」
「ええ。」
「最近、彼女の両親が事故で亡くなった。その後、金融会社から電話がきて、300万円支払えと言ってきたらしい。支払えないと法的手続きを執ると脅してきた。マヤはそれに対して、親が残した全財産、200万円を支払った。あと100万円足りないんだ………期日は今日の午後5時まで。頼む力を貸してくれ………。」
「………成る程ね………。」
一通り説明すると、静は納得したように考え込む。
「つまりは今日の午後5時までに100万円を振り込まなきゃいけないんだ。」
「…そうなんだ。なんとか出来ないかな………?」
「うーん………真琴さんには相談した?」
「あんなやつ俺は知らないっ!!」
伊吹の中で『真琴』と言う単語に異常な嫌悪感が芽生える。
「………伊吹君らしくないわね。今まで真琴さんをここまで嫌うことは無かった。何か………あったのね。」
「っ!!………あいつはっ………見棄てたんだよ。マヤを。………更に、俺を『偽善』って言いやがった。人を助けることがダメだって言うのか!?自分は助けることもしないでマヤを見棄てたのに!!」
「伊吹君落ち着いて。真琴さんはクラスの仲間を見棄てる事はないはずよ。」
「けど、それが本当なんだ。事実なんだよ…。」
伊吹が悔しそうに自分の席に戻る。
「………うーんどういうことだろ…。」
「さぁな。」
「っひゃあ!!」
後ろから急に声が聞こえて思わず飛びのいてしまった。
「っ!!………でけえ声出すな。鼓膜が破れる。」
「ま、政君かぁ~…もぉっ!びっくりさせないでよ!!」
プンプンと目くじらを立てて怒る静に政は超冷静に対処する。
「悪い悪い。…で、ちょっとどいてくれないか?ここ俺の席なんだけど………。」
静が今現在立っている場所の近くの席を指さす。
「え…?あ…、ご、ごめん!今すぐどくね!」
「あー、やっぱいいわ。ちょっと用事がある。」
そう言って政は静を押しのけ、伊吹のもとに向かう。
「伊吹。」
「………なんだよ。」
不愛想に返事した時だった。
だんっ!!
政が鞄の中からA4サイズの膨大な数の資料を取り出して伊吹の机に叩きつけるように置く。そこには特定の人物の家族構成と家族の名前が事細かにびっしり載っていた。
「今日の午前6時までに日本で摘発された金銭関係の詐欺に関する被害者のリストだ。過去10年まで遡って『松下』と名のつかない人名を全てはじいてある。それでも数百件残っちまった。印刷に割と時間がかかってこれだけしか持って来れなくてな。まだ後150枚程俺の家に残ってる。」
唖然。
政が行ったことは、日本全国で詐欺被害にあった人名、10年分を全てパソコンに記録し、そこから何年…いや、何カ月という間の中で被害にあった人名を全て画面に出力し、『松下』とつかない人名を全てはじいていったのだ。
政と伊吹が帰宅した時間は違う。しかし、保健室では既に10時30分を過ぎていた。11時00分に帰宅してすぐにこの作業に取り掛かったとしても、何時間かかるだろうか…。仮にもしこの作業を今までしていたとするならば、7時間以上ぶっ続けでやっていたこととなる。
「お前…これ…いったいどうやって??」
「ああ。父が警官でな、『見せてくれ』って、ねだったら快く見せてくれた。」
普通は見せないだろう。プライバシーの問題的に。
「お前これ犯罪なんじゃ…。」
「大丈夫。ばれたら仲良く監獄行きなだけ。ばれなきゃいい。つまりは口外すんなってことだ。」
超スマイリーな笑顔で笑うが、顔は真っ青で目の下には隅ができていて、今にも死ぬかも知れないような状態に見えた。
「………ありがとな…政。」
「気にスンナ。ただ、後でなんか奢れ。約束な。」
ニカッと屈託なく笑う。
「…ケッ。ちゃっかりしてんな。」
「誰もタダじゃあ働かないってことさ。それと伊吹。」
「なんだ?」
「その…昨日は悪かった。ごめん。」
「じゃ、後でなんか奢れ。」
「なっ!!…かぁーっ!こいつは一本取られたか。」
頭に手を当ててやられたようなポーズをとる。
「お互い様さ。」
「ほんとだな。…さて、午後五時まで時間がない。探すのは家族構成欄に『松下 マヤ』と記載されている人物。このことが口外しないようにするため、俺たち二人だけで行う。死へのタイムアタックだ!!覚悟がないなら今から止めていいぞ。」
「ハッ!!いまさら後に引く訳ないだろ。」
「上等。じゃあ…始めるかぁ!!」
二人が一枚目の資料をつかんだ瞬間だった。
「ストーップ!!」
ガツン!ガツン!
「いてぇっ!!」
「痛いっ!!」
二人の頭頂部に激痛が走る。
「ちょっと伊吹君!私をのけ者にするなんて酷いじゃない!!」
静が頬を膨らまして文句を言う。
「し、静さん!?」
政が慌てて資料をしまおうとしたが、伊吹がそれを止める。
「…政。どうやら手遅れみたいだ………。」
「え…?」
辺りを見渡すと既にクラス全員の包囲網が完成していた。
「静さんと伊吹さんの話と政さんと伊吹さんの話を聞かせてもらいました。と、言うより、お三方の声が大きすぎて廊下まで響かないかヒヤヒヤしました。」
先頭の神宮が熱く語りだす。
「なので、口止め料として私たちも手伝います!!」
『オオーーーーーッ!!!』(全員)
「あー…これって強制参加のパタ-ンか…??」
政が苦笑いしながら伊吹に問いかける。
「諦めろ政。よくよく考えたら、学校でこんなことしてばれない訳がない。」
「確かに…。ま、毒を食わらば皿までって諺があるくらいだ。………じゃあ皆、俺たちに巻き込まれてくれ!!」
『当たり前だぁぁああああああああああああ!!』(全員)
「よっしゃあ!!じゃあ今から午後五時までノンストップで行こうぜ!!」
伊吹が異常にはりきって全員に言い放つ。
『オオーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
こうして、全員での総力戦が始まった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
なんか大事になってきた気がするが気にしない。気にしない。
しかし、3日程度で(正確には4日)ここまで連携できるものでしょうか………。
まあ作者の高校時代がこんなんでしたけど………。
………がっつり嘘ですwwwスイマセン。
さ〜て、続きを頑張って書くとします。