意外性は必要だね。
し、シリアスすぐる………!!
気絶した中年の男を猿ぐつわにし、取り敢えず掃除ロッカーにぶちこんだ伊吹達は同じクラスメイトの頼れる人に電話をかけ、学校に呼びだした。
「………成程ね。それで私が呼ばれた訳か………。」
学校に呼ばれた本人―――斎藤 真琴はその場を眺めて呼ばれた意図を理解した。
そしてまた、彼女は状況をよく理解してから動く人間。
つまりは知恵を授けてもらうにはこの上無いくらいの適任者であるが―――。
「………に、しても、あんたたち今まで寝ていたなんて馬鹿じゃ無いの?あのあとちゃんと起きないと思ってケータイの目覚ましまでいれといたのに。」
半ば呆れた口調で肩を竦める。
「や、それが、五月蝿かったから手探りで消したんだよね〜。」
「ああ。うんうん。」
二人が同時に頷き、同時に言う。
「「ケータイの電源☆」」
「ちょっとお前ら、歯ぁ食いしばれ………。」
「ちょっ!ごめんマコッちゃん!いや本当にごめん!だから、だからせめてグーで殴るのだけはよして!頼むからグーだ…ドブアッシャーーッ!!」
怒りの左ストレートをまともに食らった政はキリモミ回転をしながらぶっ飛び壁に激突して倒れる。
「政。見苦しい。じゃ、次、伊吹。」
凶悪な笑みで伊吹を睨む。
「はあ………ちなみに、どうしたら許してくれる?」
「うーんそうねえ………貴方の働き次第によって考えてあげる。」
「それ、本当?」
「当たり前じゃない。私が今まで嘘ついた事なんてある?」
「嘘は無いけど、殺されかけたことなら何回かあるね。」
「あ〜、そこは否定出来ないわね。」
(否定しないんかいっ!)
心の中で伊吹はツッコミをする。
「ま、殴られるよりましだよ。」
取り敢えず本音を言う。
「そ。なら約束ね。貴方がそれ相応の働きをしたらグーパンチを許してあげる。」
「ああ。分かった。」(まあ………もう二度とドアを貫通するような殺人ナックルは喰らいたくないもんなぁ………)
「今、なんか失礼なこと考えたでしょ。」
「全然考えてませんよ。全然。」
ブンブンと両手を横に振った。
「ふーん………ま、いいわ。………で、私にどうしてほしいの?」
「知恵を借りたい。」
「…内容にもよるけど。出来る限りの事はする。」
「………じゃ、マヤちゃん。話して。」
伊吹が後ろに居たマヤに説明するように促す。
マヤはゆっくりと話し出す。
「………明日、午後5時までに………100万円を銀行に振り込まないと………法的措置を執ると………電話で連絡があって………お願いです!!どうか私に力を貸してください!!」
「却下。」
それは冷血な程に感情の無い『拒否』。
「マコッちゃん!!」
伊吹が睨み付ける。
「悪いけど協力出来ないわね。不鮮明過ぎる。詐欺かもしれないし、マヤが持ち逃げするかもしれない。仮にもしマヤの言っていることが本当にそうだったとしても、今から明日の17時までに用意など物理的に不可能よ。ヤミ金から借りようものならそれ相応の法外な金額を要求されるし、銀行に借りようとしても、それなりの手続きが必要になる。借りれても、後の祭りになるわね。大人しく法廷で戦いなさい。十中八九、負けるけどね。」
細かく、かつ冷静に分析し導き出された答えは、あまりにも現実的でマヤの絶対的敗北を告げていた。
「そ、んな………。」
マヤが絶望し膝から崩れ落ちる。
「斎藤 真琴ォ!!」
伊吹が本気で殴りかかる。
真っ直ぐに振り抜いた右ストレートは真琴には当たらず、殴りかかってきた勢いを利用して背負い投げられた。
ドゴンッ!!
伊吹が床に叩きつけられた音が部屋中に響く。
「がっ………!!」
身体中に衝撃が駆け巡り、呼吸が止まりかける。
「私が間違ってると思ってるって顔ね。けどね、貴方だってそのありふれた偽善を振り撒いて他人を傷付けているのを知りなさい。その心遣いが、その気遣いが、その優しさが、他人を傷付けて、貶めて、堕落させている事にいい加減気付きなさいよ。」
伊吹を組伏せた上で更に頭ごなしに一方的に言い聞かせる。
「たっ………たとえそうだとしても『助けたい』って気持ちは嘘なんかじゃない!!」
伊吹は手足に力を込めて起き上がろうとする。
「お人好しもいい加減にしなっ!!」
真琴は伊吹の腕を捻りあげる。
「あなた程度の人間が、なにもできない人間が、自分の理想を他人に押し付けて綺麗事なんか並べるんじゃないっ!!」
「ぐうっ……………!」
伊吹が呻き声を上げる。
ギリギリと捻りあげながら更に続ける。
「あなたが救えるものなんてたかが知れてるのよ!!いつまでもガキでいられるわけなんて無いのよ!!」
けれども伊吹は必死に抵抗する。腕がネジ切れそうな痛みがしているが、全くお構い無しに。
「けどあんたはそれで良いのかよおっ!あんたは…」
「マコッちゃん。それくらいにしてやってくれや。」
殴り飛ばされていた政がようやく起き上がった。
「伊吹はただこの娘を―――マヤと言う人間を体を張って救おうとしてるだけなんだ。察してくれ。」
政が真琴に深々と頭を下げる。
「政!こんな冷血女に頭なんか下げる必要なんか…」
「伊吹!!少しは黙りやがれ!!」
初めて政が伊吹に本気で怒鳴った。
「少しはテメエの頭でも考えてみやがれ!!仮想と現実は違うんだ。ただ言葉だけ並べてれば済む問題なんかじゃないってな!!」
「っ………!!」
「俺達にも至らない所があった。頼む。この通りだ。許してくれ。」
政は膝を床について深々と頭を下げる額を擦り付け手を床に当てる。
―土下座―
多分それは政が生きてきた中でもう二度とすることは無いと思われる。屈辱的格好。
「政!お前っ!!」
「いいわ。貴方のその深い土下座に免じて許してあげる。」
そう言うと真琴は伊吹から退くように立ち、部屋を出る。
そしてその去り際。
「…忠告してあげる。もう二度とその偽善を振り撒くな。次はあなたを社会的ドン底に叩き込む!!」
大声で言い切る。
バタン!!コツコツコツコツ………
ドアを壊す勢いで真琴は出ていった。
そして二人―――、伊吹と政はゆっくりと立ち上がる。
「………………。」
「政!お前ってヤツは…ぐっ!!」
伊吹の顔面を政が殴り飛ばす。
重たい衝撃が伊吹を襲い、ぐらつく。
「てんめぇえええ!!」
怒りが沸点に達した伊吹は政に躍りかかる。
政は敢えて逆らわず伊吹を引き入れるようにして投げ倒す。
「今日はもう遅い。帰る。」
一言。そう言ってから、伊吹が起き上がろうとする前に政は部屋を出る。
「政っ!待ちやがれ!政!政あああああっ!!」
虚しく叫び声が部屋中に響き渡り、やがて静まり返る。
「………。」
そして無言で立ち上がると、呆けているマヤの近くへと赴く。
「…大丈夫か?立てる?」
「………うん。」
「…家まで送るよ。」
「………うん。」
何事も無かったように振る舞いながら二人は学校を出る。
しかしその足取りは重く、なかなか歩いても一向に家に着く気配は無い。会話などする気も起きない。
が、沈黙を破るようにマヤが喋り出す。
「………伊吹君………私………どうなっちゃうのかな………。」
「………わからない。けど、絶対に俺は諦めないよ………。」
「………うん。あ、私、此方だから………。」
「ああ。じゃあまた明日。」
「うん。また明日。」
手を振って別れようとするが、伊吹はマヤの肩を掴む。
「………?」
そして面と向かって言う。
「絶対になんとかしてみせる。だから………だから絶対に生きることを諦めないでくれ。俺からのお願いだ………。頼む。」
「………………うん。」
「ありがとう。じゃあ…な。」
「………うん。」
そこで二人は別れた。
数分歩いてから伊吹は全力で走りだした。
理由も何も無く。
ただ無力すぎる自分を吹っ切るが如く。
走り、走り、走り、ありったけの声で空に向かって叫ぶ。
「チクショオオオオオオッ!!!」
初めて味わう無力感は嫌悪感と絶望が入り乱れていた。
こんな展開誰が予想しただろうか………何故こうなったのか作者ですら理解できん。
流石にそれは投げやりか。
ちなみに前回と今回に出た中年のオッサンは実は校長だったりするのだ!!
ここテストには出ないかもしれないから黒板消しで消すといいよ。
相変わらずめんどくさい作者だなぁ。と思った人!!
あなたの感性は正常だ!!自慢するといい!!
………え?異常なヤツに言われても自慢できん??
………………作者泣くわ。
ではまた次回〜。