怪奇事変 仕事
今回は色々な接点がある話となります、事前に第三怪と第二十四怪を見て置いた方が人物像が頭に浮かぶと思います。また、まだ作中には登場していない外伝の話とも繋がる重要な内容となる話となります。
第四十八怪 仕事
シャワーを流す音が室内に響く。
頭に温水を被りながら女性はただひたすら置物の様にされるがままだ。
やがて十分な湯を終えた女性は蛇口を捻り浴室から洗面所へと移動し、髪をタオルで拭いているとインターホンが鳴り響く。
女性は何の身ぐるみも羽織らないまま、扉を開けるのであった。
「注文したデリバリーの——」
そこに立っていたのは男だった。
成人の年齢だろう、だが男は固まっていた。
女性のその立ち振る舞いに、何せ彼女は——
「あ?」
「……お届けに参りました」
全裸で出ていたのだから。
「寒いんだけど」
「あのー……」
「あー金ね、どこやったか……」
自身が全裸であること、見られた事に対しての羞恥心など持ち合わせてないかのように財布を探し出すも、結局目的の物は見つからず、男の真正面に立ちいきなり肩を組む。
「金ないからさ、アタシの身体じゃダメか?」
「え!?こ、困ります!」
「せめーこと言うなよ、身体で売るって言ってんだから受け取れよ」
「い、いえ、げ、現金で!」
だが——
「困ったな、金が見つからない以上これしか方法はないんだが」
「げ、げんき——げ、げ、げ、げ、げげえげーー」
「あん?」
「げ、げ……げ……」
「ゲロゲロってカエルに愛着でもあんのか?」
「げ——」
「あ、しまった、絞めてたわ」
重い音を立てて崩れ落ちる成人男性を傍らにリュックから品物を受け取り、鍵を閉めてそのままリビングに向かい、買い取った食い物を素手でく散らかす。
ただのBGM替わりにテレビを掛けるのは彼女の趣味。
やがて通知された着信が流れるのを予見していたかのように、気だるそうに携帯を取る。
「もしもし」
『久々だね、元気にしてた』
「キモ、彼氏面みたいな声色で声かけてくんなよ」
『ああ、こっちの方が君に嫌がらせできると思って』
「要件がないなら切るぜ」
『実はあるんだよ、あるモノをある場所において欲しいのと、静岡に行って欲しいんだ』
「ハッ!」
嘲笑した声が出てしまう。
「本場の茶でも飲んで来いって?面倒くさいな~」
『なら最初に言った依頼が通るかもね』
「……」
この電話越しの人間はいつもこんな感じで、あえて自分の掌で動かすタイプの人間だと言う事を彼女も分かっていた。
二択に見せて一択、狙いを見定めた誘い文句であったのだ。
「んで、何しろってんだよ」
『そこで』
——何十人か殺して欲しい——
ある場所……と言うのは山奥にある病院であった。
まだ廃墟にはなっていないが、有名な医師が居るとの事で遠路はるばる此処を受診してくる患者も多いらしい。
そこで今回、電話主から渡されたあるモノとは“呪物”と言う物である。
それを地下の遺体が眠る霊安室に隠して欲しいとの事だ。
「面倒だな」
100円玉を弾きながら歩く女性は、家に居た時は違い洋服を身に纏っていた。
当然と言えば当然だが、彼女を知っている人物ならでは全裸で歩くなどやりかねないとの事だ。
弾いていたコインを徐に横に向けて弾くと、丁度その先にあった自販機のコイン口に見事入り、100円で購入できる商品のランプが点滅する。
「こ~ラ」
コーラを選択肢、中から物が落ちる音と共に赤いラベルが目に付く。
彼女はプルタブを開けてコーラを口いっぱいに飲み干していく。
これは彼女が仕事をする前の儀式の様なものだ、そして目的地に着くとそこは内装が綺麗で静かな場所だった。
「……まぁ良いか」
何処か納得の行かない彼女の様子は此処で人を何十人か殺して欲しいとの話だった。
だがあまりに静かすぎて騒ぎになるのが面倒と言った点だ。
幸い街からは1時間ほど離れた山奥ならば騒ぎを起こしてからでも問題はないが、警察と鉢合わせする可能性が高いと思ってしまう。
「あの、何処か分からない場所でも?」
看護婦が声をかけてくる。
「そうだな、頭に異常があるんだ、見てもらえないか?」
看護婦を1人暗殺した、遺体は適当にトイレの掃除置き場に投げ捨てておいた。
今更ナースの服装に身を包んだとしても似合わないし、スパイ活動などは性に合わないと思った彼女はそのまま行動をした。
霊安室の場所は地下にあるとのことで、乗り込みの看護師に適当に遺族と会いたいと嘘をついて、手続きをする事になりそうだったので、エレベータ内で絞殺した。
地下に潜ると簡単に霊安室の場所までたどり着き、空いている場所に先ほど殺したナースを詰め込んで置き、更にまだ腐っていない肉体に“呪物”を埋め込んだ形で隠れ蓑にする事にした。
「あとは——皆殺しか」
その日はこの病院にとって悪夢と言える日となった。
暦で見れば大安吉日、より良い日とされる日に殺人は行われ、その日に病棟に居た患者は誰一人として生き残らせてもらう事は必ず故人となった。
帰り際、コインを弾きながら帰る彼女とすれ違うパトカーや機動車、職質を受ける事はなかった。
何せ死んだ数は100人を超えている殺人事件、警察はパニックになっていたはずだ。
特に機動車が来てるって事は、武装している警官も何人か配置されているはずだ。
そう思っていると、一台の車がそこに止る。
パトカーではなく、普通の乗用車だ。
「どちらまで」
「んじゃ地獄まで」
「お客様一名入りまーす」
そう言って乗せられた車が発進し、Uターンする場所で警察が来た道へと引き返す。
「どうだった?」
「呪物は埋め込んだ、肉眼じゃ見えねーんだろ?アレ」
「うん、でもあの病院に置いてきたんだよね」
「……」
「え?」
「ウザかったからエレベータに乗り合わせた職員の身体に埋め込んだ」
「え!?ちょ!」
「チッ、だから面倒な仕事こっちに押し付けるなって言ってんだろうがよ」
「確かにマズイことになったかも、特例科の連中に見つかったらな~特に草薙さん辺りは」
「んじゃ今から殺しに行くか?」
「いや、今日も良い景色ですね、お客様」
「フン」
不満を垂らしながらポケットに入っていた煙草を取りだし、ライターで火をつける。
一服しながらストレスを解消していくうちに明かりが見えてきた。
そろそろ街だ、多分此処で降ろされると思った彼女は身支度を整えようとしたところで、車がゆっくり停車する。
「なんだ?やりてーのか?」
著初的な笑みを見せる彼女に微笑みを返す男性はあるモノをこちらに渡してくる。
それはタブレットだった。
そこに映し出された女性の姿を見て、疑問が浮かぶ。
「コイツは?」
「静岡県にいる女性、まだ学生だけど見える?」
「霊力があるってだけだろ」
「でもこの子の家系が面白い事をしててね」
「……住職か?」
「そんな所、ただ問題はその住職が何故ソレをやっているかについてってところかな」
「それで、アタシに何をしてほしい」
「なーに、静岡に行って美味しいお茶を飲んでもらいながらソレを始末してもらいたい」
「アタシ等にプラスになる話じゃねーのかよ?」
「そうなんだけど、多分その子ってそっち系じゃないと思うんだよね、何より2ページ目に背負ってる彼女の木刀」
「……」
「一般人には木刀に見えるけど本来は祀られてるご神刀ってところかな、そんなモノを持ち歩いてる子がその計画に参加しているとは思えないんだよね」
「なるほど、やらなくても良い掃除作業をされる前に掃除した方が見のためって事か」
「住職とは事前に連絡を取ってあるけど、流石にご息女を殺されるってなれば目の色も変わるかもしれないからね」
「嫌だね、他の奴に頼みな」
乱暴にタブレットを地面に投げ捨てると、男はある提案をした。
「前金で5000、成功で5000の1でどうだい?」
「……」
5000とは5000万円の事で、1は1億円の事を指している。
流石の金額に彼女も顔色を変える。
たかがガキを殺すためにこの金額なのは恐らく男の計画に関係しているからだろう。
金も惜しまず成功させたい何かがあるからこそ、これだけの金額を出そうとしているのだろう。
「(危険度はねーと思うが、乗るか降るかは自由ってことか……うぜぇな)」
この男は相変わらず他人を掌で遊ばせるのが得意。
最初に提示した後に上手い話を提示させる手が、そしてそれを簡単に実現できてしまう手が。
「もう前金は振り込んだよ」
「……てめぇ」
「嫌だな、投資だよ、投資。君が仮に降りたとしてもそれは俺からの日ごろの感謝として受け取って欲しい」
「……良いぜ、残りの半分は用意しとけよ」
「ありがとう、必要なモノがあったら連絡くれれば渡せると思うから」
「ハッ、別に期待してねーよ、金だけ用意しとけばそれで良い」
「そう、それじゃ頑張ってね」
そう言って車は静かに発進していく。
降ろされた彼女は帰路につく訳ではなく、そのまま暗がりの道を歩いて行く。
河童憑きで活躍した花岸佳織と彼女が会うのは時系列的にも前の話に当たる。
この時、まだ花岸佳織も彼女の事は知らなく、そして力も到底彼女には及ばない存在であった。
それはまた別の話として登場するだろうが、彼女との因縁は何かしらある運命にあるのだろう。
そして、第三怪目に登場した捨てられた廃墟となったのはこの病院になる。
そこに4人の男女のグループが現れたのはまた別の話である。
第四十八怪 殺し屋
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