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メイちゃんはレベルが上がった!

 それぞれが最初に行った事は奇しくも、いや、必然として等しかった。

 武器への属性付与。ドラゴニュートのユーリは剣の腹にさらりと手を滑らせて。ミノタウロスのメイは斧槍の斧の部分に手を当てて。

 しかし、同じなのはそこまでだった。

 それぞれ眩い光を帯びた得物、ユーリはそれですぐに剣を振るう。様々な速さで、様々な軌道を伴って光の刃がメイへと襲い掛かる。それはユーリの得意とする戦法。

 メイはそれに対して、ただ斧槍を持ち直す。細心の注意を払いながら、光の刃が如何なる軌道を以て襲いかかってくるかを全て記憶するように。それはせめて一矢報いる為の、最善だと考えての行動。

 最初に届いた刃はメイの胴の高さに幅広く。足を大きく開き、身を伏せて避ける。


 ココココッ!


 石畳に響く足の爪の音、ユーリが襲いかかってくる。


「ふっ!」


 目にも止まらぬ、連続した突き。まだ属性付与が途切れていないそれは、ユーリの気まぐれによって突きがそのまま射程を伸ばす事も、斬撃が飛んでくる事すらあるものだった。


「うっ、い゛ゔっ!」


 理詰めとメイとは比べものにならない戦闘経験の差。

 重点的に足捌きを鍛えられて来たとは言え、メイは避けきれない。脇腹に、腕に、深い刺突痕が出来ていく。

 でも、手加減されていた。その気になれば、一発一発がメイの振るう飛ぶ斬撃と同等以上の威力を出せる事を知っていたから。


「ゔあっ!!」


 メイは苦し紛れに斧槍を振るった。斧槍に溜めた聖なる属性を一気に放ったその斬撃は、とんでもない射程でユーリを両断しようとするも、ユーリは読んでいたかのように、するりと避ける。

 ただ、攻撃が一瞬止む。そうしなければもうそろそろ届こうとしてくる、最初に放たれた斬撃を避けられなかった。


「後8回までね」


 斬撃に当たって良いのは。

 それまでに一発も当てられなかったら、本来の威力で、という事だろう。

 メイは叫ぶように言う。


「いっつもそう!!」


 半年くらいでフロアボスになった。

 才能があったから成れたのもそうだが、それ以上に……単純にスパルタだったのだ。

 鍛えられている間も故郷では信じられない程のお金が支払われたし、故郷では見た事のないような様々な美味しいご飯も出た。

 厳しくとも自分の事を慮っている事も伝わって来たけれど……だとしても辛かった。本当に、本当に!!


「ゔっ、ゔゔっ!」

「はい、後5回」


 気付けば追い詰められていた。最も遅く、大きな弧を描いて届いて来ようとする斬撃が幾多に着弾する場所へと誘導されていた。

 だから、被弾覚悟で前へと出るしかなかった。


「ああ゛っ!!」


 斧槍を二度振るう。変わらず避けられるし、属性付与も消えた。

 けれど、突きが飛んでくるのに腕を敢えて合わせる事は出来た。


「い゛っ……、づかまえ゛たっっ!!」


 ユーリは引き抜こうとするも、びくともしない。そのままメイは、ユーリの顎に向けて足を蹴り上げようとして。

 しかし、ぱっと剣を手放したユーリは、蹴り上げる腕を迎え入れるように掴み取る。

 そのままメイの全身さえもがふわりと回転した。


「えっ?」


 ユーリが視界から消えた。

 後頭部を鷲掴みにされる。

 地面が一気に近付いてくる。


「あ」


 自分の頭が潰れる音を聞きながら、意識が途切れた。




「……翼を使わされるとは思わなかったなー。久々にちょっとだけ怖かったよ、メイちゃん」


*


*


 3日後。

 もうそろそろ、帰る日が近付いて来る頃。


 ジュアンと、それからユーリも一緒に今日もご飯を食べる。

 ダンジョンに挑む時のしっかりとした装備ではなく、簡単な布で要所を隠しただけの、恵体のミノタウロスらしい、ゆったりとした格好。

 更にメイの買う食事の量は増えていて、最早昼時の名物になってすらいた。

 そして、そんなメイに一泡吹かせようとしている人はもう一人たりとて居ない。


「今日もよく食べるねぇ。少しだけ背も伸びてる?」

「もぐ、むぐ……かも。

 それにもう、こんなご飯ともそろそろお別れだから。

 でも、あっちのご飯も少し懐かしくなってきた、かな」


 西のダンジョンは、色んなところからスカウトされて来ているから、こことはまた別に特徴的なご飯が色々出るのだ。


「そりゃあ嬉しい。

 ……メイちゃんさ、この街での生活は楽しかった?」

「んー……ごくん。嫌な事もあったし、サブマスターに殺されもしたけど、つまらなかった訳じゃないかな。

 それに、こんな場所で魂の質(レベル)が上がるとも思わなかった」


 目が覚めたら、何もかもがダンジョンに入る前の状態だった。

 魂の質(レベル)を除いて。

 それを実感したのは、お腹が空いたら、食べたい量がいつもよりちょっと増えていたから。

 ……体に起こった事柄は全てなかった事にされたにも関わらず。


「久々にあそこまで追い詰められただろうからね。

 ……でも、メイちゃんって強くなりたい訳でもないでしょ? 少なくとも最優先じゃない」

「うん。そうだね。むぐ、むぐ」

「じゃあ、メイちゃんの一番やりたい事って何かあったりする?」


 なんでいきなりそんな事……? と思うも、気付けばユーリはかなり真面目な顔をしていた。


「……うーん」


 食べるのをやめて、今やメイ専用に組み上げられた椅子の頑丈な背凭れに寄りかかって、これまでの事を少し考えた。

 ミノタウロスばかりの故郷で、両親に愛されて育った事。

 そして育つに連れて、先祖返りだとかで男顔負けのパワーと僧侶の力とが発揮されるようになって少しずつ同世代の皆から疎まれるようになった事。

 サブマスターとマスターがスカウトにやってきて、目玉が飛び出すような金額で働ける事が分かって、危険こそあるものの天職だとか言われて、疎まれていたのもあって飛びついた事。

 それから半年の間鍛えられて、2年の間沢山殺して、少し殺されて。

 街に来た。


「もし、サブマスターとマスターが私を見つけてくれなくて、ずっとあそこに居たら……そろそろお嫁さんになってたのかなあ。

 でも、誰とも私となんかは番ってくれなかったかなぁ……」

「そりゃあ、見る目ないねぇ」

「同感っ!」

「でも、お嫁さんにはなりたいかなあ。

 ……うーん、私、やっぱり戦うのが天職だと思うんだけど、でも普通な事も色々経験しておきたいのかなあって。疎まれていたからこそ?」

「じゃあ……どういう相手が良いの?」

「んー…………?

 うーん…………。うーん………?

 そうだなぁ……同じミノタウロスでなくても良いけど、私と歳が近くて……それから私と魂の質(レベル)も近い人が良いかな」

「そりゃあ……」

「やっぱり、居ないかなぁ……」

「どこかには居ると思うけどねぇ」


 ユーリは、それまでを聞いて、腕組みをすると体を大きく後ろに傾けさせて、空を見上げた。


「そーだなぁ。やっぱりメイちゃんは若いからねぇ。僕らなんかと違ってさ、何だかんだ枯れちゃった部分がある人じゃないんだよねぇ」


 ジュアンはまあ分かるけど、サブマスターが枯れているとはあんまり思えないんだけどな。

 そんな事を思いながらおにぎりを頬張る。

 このしょっぱくて酸っぱい具も、もう病みつきだ。具はかなり長期間保存が効くとの事で、沢山買って帰る事にしている。

 けれど。

 ユーリが再び体を持ち上げると、再び目を合わせて来て。


「じゃっ、メイちゃんクビね」

「……………………えっ?」

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