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91.再び挑んでくる転校生


 二月中旬の学年末考査まで、残り一週間となり、テスト週間に入った。


 この考査は、今まで一年間学んできた事の総決算であり、受験を意識して一・二年生の範囲から出題される為、それに応じていつもより勉強に取り組む時間も多く取らなければいけなくなる。


 俺が成績を向上させたのは、二年生になって怜愛の助けを得てからだから、一年生の頃の内容には、未だ自信がない部分も多いんだよな。


 だが、前回の期末考査で一位だった手前、みっともない点数を取る事は出来ない。


 今回も怜愛と放課後に視聴覚室で勉強会を開く予定だから、彼女の彼氏として相応しい男と言われるように、そこでしっかりと学ばねば。



   §



「それじゃあ、いこうか、蒼介君」


 放課後になり、怜愛が約束していた勉強会に誘いにきた。


 それに、「ああ」と頷き、一緒に教室を出ようとしたところ、


「待ってくれ」


 呼び止める声に振り向く。アイドル転校生の鴻上だ。

 嫌な予感がする。


「もう一度、君に勝負を挑みたい。マラソン大会では引き分けで、納得のいかない結果に終わってしまったからな」


 予感が的中してしまった。

 いずれまた、何かしらのアクションを起こすだろうとは思っていたが、今度は学力で挑んできたか。

 けれど、彼って、勉強は出来るんだろうか。

 自信ありげな様子を見た限り、上位に食い込むくらいの実力は持っていそうだけど⋯⋯。


「また、怜愛との事を賭けの対象にする気か?」


 心底呆れながら。問うだけ無駄だろうけど。


「当然、そうなる。ただ、君は前回の定期考査で一位だったそうだから、普通にやったんじゃ俺の負けは確定しているようなものだ。だから、君は一位を守り抜けるかどうか、俺は十位以内に入れるかどうかってところでどうだ? 俺は前の高校では、期末考査で十八位だった。偏差値は青黎の方がやや上だから、条件としては釣り合いが取れていると思う」


 それなりに真面な条件と言えるかな。

 俺がトップの座を守るのは難しい事だが、あれからも日々の学習は疎かにはしていない。

 彼も十位以内というのは、アイドル活動をしながらだろうから、限られた時間の中で結果を出さなければいけない事だからな。


「断った場合は?」


 そこで鴻上は、俺との距離を縮め顔を寄せると、囁くような声で、


「君が腰抜けだって事が公になるだろうな。俺の影響力を甘くみない方がいい。SNSで、クラスメイトに勝負を挑んだけど、逃げられたとでも呟けば、実名は出さずとも、俺の熱心なファンに特定されてしまう事もあり得るかもな」

「最低だな、君⋯⋯」


 吐き捨てるように呟いた。


「心外だな。俺はただ、怜愛さんと一緒の時間を過ごしたいってだけだ」


 悪びれる事なく、鴻上が言い返す。


「いいよ、蒼介君。その勝負受けちゃって」


 怜愛があっけからんとして促した。


「怜愛⋯⋯」

「マラソン大会では卑怯な手が使えたとしても、先生達の監視下にあるテストでそうそう不正は働けないでしょ。流石に先生を買収は出来ないと思うし」

「卑怯な手? 何の事だ?」


 鴻上が嘯くように、白を切る。まぁその疑いが強いってだけではあるが⋯⋯。


「分かった。その条件での再戦を受けるよ」


 渋々と承諾する。

 常々思う事だが、何でこう俺の意思は無視されて事が進んでいくんだろう。

 嘆かわしい事この上ない。



「よし。今から結果発表が楽しみだ。怜愛さん、必ず俺が君とのデート権を勝ち取ってみせるからね」


 キラリとその白い前歯を輝かせながら言う。


「余裕だね。せいぜいその夢だけ見て楽しんでおくといいよ」


 対して怜愛は、せせら笑うようにその言葉を切り捨てた。



   §



ねーじゅ『では、始めます。第十三回『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』会議!』


 怜愛が高らかに宣言した。


 現在午後九時過ぎ。

 彼女とは、つい先程Rainで繋がったばかりだ。


 部屋を美しくも力強いメロディで満たしているのは、米津玄師の『Lemon』──。


 ドラマの主題歌ともなったこの曲は、光が象徴的に用いられ、大切な人の死と向き合い、喪失の悲しみを乗り越えようとする、傷付いた人達を包み込むような優しさを湛えている。



ブルー『そのプロジェクト名も定着したもんだな』

ねーじゅ『続けて、第十六ミッション! 『学年末考査でトップの座を守り、腐ったキャベツの愚かな願いを阻止しよう!』』

ブルー『マラソン大会では、君に勝利を捧げる事が出来なかったからな。学年末考査では、そのリベンジだ』

ねーじゅ『意気込みは十分みたいだね』

ブルー『ああ。気力は充実してる。ただ、また同率にならない限り、俺がトップになると、必然的に君はその座から転落する訳だけど、それは何とも思わないのか?」

ねーじゅ「君の成長を見守ってきた者として、その君が私を超えるのは、本望だよ。勿論、自分が単独トップになったら腐ったキャベツとの勝負に勝つ事が出来なくなるからって、手を抜くつもりはないよ」

ブルー『そうか。本気の君に勝ってこそだからな』

ねーじゅ『うん。君になら出来るって信じてる』

ブルー『ああ。その期待に応えて見せるよ。それにしても、彼、やっぱり性格腐ってたな。自分のアイドルとしての影響力を盾に、勝負を強要してくるなんて』

ねーじゅ『何せ、腐ったキャベツだからね。そりゃあ中身までグズグズだよ』

ブルー『よっぽど君とデートしたいんだろうな。でも、トップアイドルなのにいいのかな。疑似恋愛ビジネスモデルな以上、そういう行為は御法度なんじゃないか?』

ねーじゅ『さぁ? 知らない。最近じゃそこら辺のルールも見直されてきてるみたいだし、あの傲慢な腐ったキャベツなら、事務所に止められていても、恣意的に破って好きなように振る舞いそうじゃない?』

ブルー『彼ならやりかねないな。ああ、そうそう。話を戻すけど、部活組について、今回の学年末考査では、事前の対策プリントは要らないそうだ。何でも、自分達の力だけでどこまでやれるのか、試してみたいんだとか。いつまでも頼ってたら、自力がつかないとも言っていたっけ』

ねーじゅ『へぇ、彼等も君と同じように成長してるんだね』

ブルー『ああ。受験生としての自覚が芽生えてきたんだろうな』


 その後は、学年末考査に向けての勉強時間を取るために、トークは早めに切り上げる事にした。




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