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77.修学旅行の終わりと小さな嫉妬


 修学旅行最終日となる四日目は、午前中は、先ず銀閣寺(慈照寺)を参拝した。


 日本最古の書院造りとして有名な観音堂を見て、歴史の深みを感じたり、庭園で波打つような白砂の『銀沙灘』と富士山の形をした『向月台』の月に照らされたようなデザインを見て、ロマンチックに浸ったりした。


 次に訪れたのは、哲学の道で、紅葉に色付く疎水沿いの美しい並木道をそぞろ歩くなどした。


 昼食は、錦市場で食べ歩きして、午後からは、京都駅周辺で自由行動となり、和咲と父さんにお土産を購入し、帰路へ。


 道中、朝倉などは、告白が一応の成功を収めた事で、まさに浮かれポンチ状態だった。ホント鬱陶しい。



   §



ねーじゅ『それじゃあ、今回の修学旅行において課されていた第十二ミッションの振り返りミーティングを始めるとしましょうか』


 怜愛が切り出す。


 修学旅行から帰ってきた日の夜。

 いつもの如く、俺と怜愛はRainで繋がっていた。


 バックミュージックとして流れているのは、米澤穂信の古典部シリーズが原作のアニメ『氷菓』のオープニングテーマ。

 ChouChoがその透明感のある声で歌う『優しさの理由』──。


 初夏のような爽やかさと、過ぎ去る時間への切なさを感じさせるナンバーだ。



ブルー『今回、俺は大した事はしていなかったな』

ねーじゅ『総決算的なものだって事前に言っていた訳だけど、君、あんまり目立った動きはしようとしなかったもんね。二日目の京都での自由行動では、私があの芋男に付き纏われてるのを、黙ってスルーしてたし』

ブルー『悪かった。だってあいつ、目が血走ってたんだもん。巻き添えを食らいたくなかったんだよ』

ねーじゅ『いいよ。それでも、三日目の京都での夜には、ピンチに駆け付けて助けてくれたからね。それでチャラにしておいてあげる』

ブルー『そうしてくれ。君に拗ねられるのは、地味に堪えるからな』

ねーじゅ『そう言えば、メインのミッションでは余り成果は得られなかったけど、サブミッション的なイベントでは、一応の成功を収めたんだったね。朝倉君達の告白をサポートするっていう』

ブルー『ああ、そうだったな。おかげで朝倉のスキンシップが前にも増して激しくなって、辟易とさせられたよ』

ねーじゅ『私も予想外の結果だったけど、一軍グループの結束は、より強固になったんじゃない? 芋男を除いて』

ブルー『だな。クラスの雰囲気もより明るくなるだろうな』

ねーじゅ『あぁ、それと、ネットシンガーのアリスと繋がりを持てたのも大きいね』

ブルー『さっき、数曲だけだけど、配信で彼女が歌っている動画を見たよ。なんていうか、一言で言い表すとしたら、まさしく”ギフト”と呼ぶのに相応しいオーラを感じさせる歌声だった』


 特徴的な透明感のある澄み切った、それでいて少し掠れたハスキーボイス。

 彼女の発声は、囁くような吐息混じりで独特だ。

 けれど、歌声では、その囁きに始まり、重みのある低音の発声から、感情に訴えかけるロングトーン、獣のような唸りまで、ビブラートとファルセットを巧みに操って、一曲の内にまるで虹のような複雑な表情を見せてくれた。

 

ねーじゅ『凄いよね、彼女。人気が出るのも迷いなく頷ける』

ブルー『普段は飄々としてるんだけど、歌ってる姿は後光が差してるみたいに神々しいよな』

ねーじゅ『彼女が紡ぐ歌詞もいいんだよねぇ。叙情的で、抽象的なだけじゃなく、五感に訴えかけてきて、光や風、音、匂いなんかが感じられて』

ブルー『曲作りも洗練されてると思ったな。綺麗なメロディの選び方や、モチーフの操り方、起伏の付け方なんかプロのそれと遜色ない巧みさがある。アリスの歌声にも合っていて、その魅力をより引き立ててもいるしな』

ねーじゅ『そうそう。アリスが可愛いを連呼してたそのエリカっていう妹ちゃんにも会ってみたいよね。歌詞以外の行程は、全部任せてるって言ってたし、私達より年下なのに、凄いスキルの持ち主だよ』

ブルー『ああ。アリスの妹っていうんなら、その子も凄い美少女なんだろうな』

ねーじゅ『お? 君が口頭で認めるって事は、相当だね。ねぇ、私とアリスでは、どっちの方がより美少女だと思う?』

ブルー『カテゴリーが別だな。同じ幻想に生きているような美貌だけど、君は、俺に接する時は愛嬌がある。それに対して、彼女は淡白でクールだ。どっちが上とかじゃないよ』

ねーじゅ『むぅ。私とは言ってくれないんだね。まぁ私も彼女の容姿がとびきり優れてるっていうのは認めているところだけど』

ブルー『俺が今連載中の『ふるリア』にも、彼女をモデルにした美少女ネットシンガーを登場させようかなぁ。需要がありそうなキャラだ』

ねーじゅ『それはいいアイデアだね。修学旅行編にいいアクセントを加えられそう』

ブルー『そう言えば、明日から休日に入るけど、君はどう過ごすんだ? 暇なら、その『ふるリア』の書き溜めてあるエピソードを読んで意見をもらいたいんだけど』

ねーじゅ『あー、ごめん。明日は作家の先輩と会う事になってるんだ。インパクトノベル大賞の授賞式で挨拶してから、何度か顔を合わせていてね。前に、君は私に唯一嫉妬を自覚させた作家って言ったよね? その先輩の彼は、嫉妬まではしないけど、作品の内容は好きだし、何より人柄が誠実で好感が持てるんだ。明後日の日曜なら空いてるから、その時に読込にいくよ』


 『誠実で好感が持てる』──。


 その言葉を聞いて、ちくりと針で刺されたように胸が痛んだ。


 それが、嫉妬だと気付いたのは、彼女とのトークを終えた後になってからだった。




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