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67.第十二ミッション


 不穏な気配しか漂わない末広がりオールスターの復活により、またしてもあの一軍グループと行動を共にしなければいけなくなった。


 来たる修学旅行という名の厄災。

 それを前に、いかに無難にやり過ごすかを、インスタントの味気ない珈琲(退院祝いにもらったちょっとお高めなドリップ珈琲は飲み尽くしてしまった)の安っぽい苦味に顔を顰めながら検討していると、スマホが鳴った。


 怜愛から送られてきたゆるぺんくんによる挨拶に、文屋紡希で返す。


ねーじゅ『今から何をするかは、言わなくても分かるよね?』

ブルー『プロジェクト会議だろ』

ねーじゅ『そう! という訳で始めます。第十一回「緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト」会議!』

ブルー『もうそんなに回数を重ねたのか。何だか、遠いところにきてしまった気がするな』

ねーじゅ『五月に「ひそリプ」を始めてから、もう半年以上が経つんだねぇ』


 二人して、感傷に浸る。


 暫くメッセージの更新は途絶えた。

 その場には、リュックと添い寝ご飯の、疾走感のあるサウンドに乗せて、エモーショナルな歌詞が歌われるナンバー『青春日記』が、その沈黙を切り裂いて駆け抜けていく。



ねーじゅ『何だか、しんみりしちゃったね』

ブルー『まだ終わりって訳でもないのにな』

ねーじゅ『じゃあ、今回はしっとりしたまま進行しようか。第十二ミッションは、『修学旅行で皆にいいところを見せよう』』

ブルー『シンプルだな』

ねーじゅ『やる事と言えば、会話を盛り上げたり、名所で豆知識を披露したり、後、姫歌が京都で着物レンタルするとか言ってたから、それを褒めたりとかだね。まぁ今までやってきた事の総決算的なものだよ』

ブルー『俺は、クラスメイトと四日間も寝食を共にすると思うと、戦慄を禁じ得ないよ。特にあの一軍グループ』

ねーじゅ『最近は、クラスの皆に話し掛けられたりして打ち解けてるじゃない。一軍グループとは、夏休み旅行にもいった仲なんだし』

ブルー『「僕が死のうと思ったのは、靴紐が解けたから。結び直すのは苦手なんだよ。人との繋がりもまた然り」』

ねーじゅ『唐突だね。君みたいに、コミュニケーションが苦手な人のネガティブな気持ちが込められたフレーズだ。何からの引用?』

ブルー『君の十八番を奪ってみた。邦楽ロックバンドの曲だとは思うんだけど⋯⋯ソースは分からない。ふと街中で流れてきたフレーズが、当時の俺が身につまされるような印象的なものだったから、それだけ覚えていたんだ』

ねーじゅ『ふぅん。で、その言葉を使った意図は?』

ブルー『皆は俺を好意的に見てくれるようになったけど、俺の本質は何も変わっちゃいないよ。今でも、人生ってやつは本質的に不完全で、痛みに満ちているものだと考えている』

ねーじゅ『へぇ、そんな事言っちゃうんだ。このねーじゅさんと共にいる世界を出来損ないのガラクタみたいに貶すなんて、不遜極まりないね。間違ってると思わない?』

ブルー『君といる事は、他の何物にも代え難いよ。でも、それで世界が完全なものになる訳じゃない。むしろ、輝かしいからこそ、その分綻びを浮き彫りにさせる事だってあるんだ』

ねーじゅ『「生きている限り、誰もが戦士なのだ。戦士に立ち向かえない敵など、いない」』

ブルー『さっきのお返しに引用か?』

ねーじゅ『今回はちょっと趣向を変えてラノベがソースだよ。「ムシウタ」の「06.夢導く旅人」から』

ブルー『俺に現実に立ち向かえと? 向こうは一向に寄り添ってはくれないのに?』

ねーじゅ『君、あれだけ今まで活躍して、赤井秀一か次元大介かってくらいに女子達のハートをバンバン撃ち抜いて於きながら、全く自覚してないんだね』

ブルー『そんな幻想には決して騙されない』

ねーじゅ『騙してるのは君自身だよ。そうやって自分を騙してる。君は人に対しては真摯で誠実、そして優しいのに、自分の気持ちにはそうじゃない』

ブルー『君は俺を人格者みたいにいつも言うけど、表向きはどうあれ、心の中じゃいつも毒づいてるぞ。特に朝倉とかに』

ねーじゅ『それでも、反りが合わなそうな相手であっても、理解しようと務めている』

ブルー『買い被りだな。俺は無難にやり過ごそうとしているだけだ』

ねーじゅ『君が認めたくないのは分かったよ。修学旅行でも、その無難ってやつを実践してくれさえすればいいから』

ブルー『ああ。非リアな陰キャなりのやり方ってのを見せてやるよ』

ねーじゅ『君はもうとっくにリア充化してると思うけどなぁ。知ってる? 君、学校の裏サイトで、男子の人気ランキング三位なんだよ?』

ブルー『何それ!? 俺知らない!』

ねーじゅ『一位は、あの芽が出て食べられなくなったジャガイモだね』

ブルー『来栖か。でもあいつ、体育祭の時やらかしたせいで、人気落ちたんじゃないのか?』

ねーじゅ『その投票、青黎祭前に行われたやつだからね。今やったら、多分だけど圏外になるんじゃない?』

ブルー『だろうな。それで、二位が誰かはいいとして、なんで俺なんかが三位なんだ?』

ねーじゅ『それこそ、なるべくしてなった結果だよ。球技大会、青黎祭、そして体育祭──そのどれもで一番目立ってたじゃない。そりゃあ女の子が放っておかないって』

ブルー『そんな馬鹿な⋯⋯俺の知らないところで、そこまで深刻な状態になっていたなんて⋯⋯』

ねーじゅ『君、騒がれたりするの苦手だもんね。私は掛け替えのない友人として鼻が高いけど』

ブルー『⋯⋯そう言えば、ラノベなんかじゃ、修学旅行と言ったら、告白の舞台になるのがテンプレだよな? 非常に不本意ではあるものの、そんなに女子人気が高いんだったら、俺、そういった危機に陥ったりするんじゃ⋯⋯』

ねーじゅ『ないとは言えないね。ご愁傷様。もしそうなった時は、慰めてあげるから』

ブルー『鬱だ⋯⋯』


 俺の受難は、これから先も続いていきそうで、ハンドルネーム通りのブルーな気持ちにさせられた。




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