62.体育祭の振り返りと文芸同人誌制作の進捗
ねーじゅ『またしても、君の秘められた力に感服させられてしまったよ。今回の第十ミッションは大成功だったね』
怜愛からのメッセージの後には、ゆるぺんくんが「参りました」と頭を床に擦り付けて土下座しているスタンプが押されていた。
夜も更けて今は十一時前。
いつもより少し遅い時間に始まった振り返りミーティングに華を添えるのは、YEN TOWN BANDの『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』──。
儚さと力強さ、希望が入り混じった映画と共に心に残るノスタルジックな名曲だ。
ブルー『あの色別対抗リレーは、自分でも信じられない展開だった。皆にもみくちゃにされて迎えられた時は、俺はこの世を悲観しないでもいいんじゃないかって気にさせられたよ』
ねーじゅ『お? お気に入りのペシミズムはもう卒業かな?』
ブルー『あくまでそんな気がしたってだけだ。基本的なスタイルをそう簡単に変える気はない』
ねーじゅ『まぁいいんじゃない? それでも君はこれからもっと飛躍していくだろうからね。でも、私の手が届かない程高みにいかれるのは、ちょっと寂しいなぁ』
ブルー『安心しろ。それはただの幻想だ。俺はいつだって底辺を這いずってる』
ねーじゅ『自虐的なところも相変わらず。でも、確かに実家に帰ってきたような安心感があるね』
ブルー『それで、体育祭の事は最高の結果で終われたって事でいいとして、第九ミッションの文芸同人誌制作の方についての進捗状況についてはどんな感じなんだ? 俺は考え得るアイデアは出し尽くした感があるし、後は君の執筆に任せるのみなんだけど』
ねーじゅ『今のところ良好だよ。慣れないファンタジーものだから多少手こずる事もままあるけれど、それでキーを打つ手が長く止まるって事はない。このままいけば、イベント一週間前の入稿締め切りには間に合わせられると思う』
ブルー『そうか。なら大丈夫そうだな──っとちょっと待ってくれ。メッセージがきた。和咲からだ』
俺は、その妹の和咲からのメッセージを確認した。
ブルー『和咲が、「私も二人とトークがしたいです」って言ってるんだけど、どうする?』
ねーじゅ『和咲ちゃんなら歓迎だよ。それじゃあ、私がグループを作るから、それに招待しよう』
怜愛が承諾し、急遽グループが作られる事になり、そこに和咲が招待されてトークに加わってきた。
俺と怜愛が、それぞれ文屋紡希とゆるぺんくんのスタンプで、「いらっしゃい」と迎え入れると、和咲が、頭に花が咲いた妖精のスタンプで、「お邪魔します」と返した。
咲き誇る時『すいません、無理を言って二人の時間に押し入ってしまって』
ねーじゅ『いいんだよ。和咲ちゃんは私の妹みたいなものだからね』
ブルー『おい、和咲は俺の妹だ。誰にもその立場を譲る気はない』
ねーじゅ『おっと、唐突なシスコン宣言。君も和咲ちゃんの事になると人が変わるね』
咲き誇る時『もう蒼兄さんたら。いつもそれくらい自分の気持ちに素直でいてくれていいんですからね』
ブルー『あまり言うと、君の方が歯止めが利かなくなるからな。自分なりに控えるようにしてるんだ』
咲き誇る時『そんな余計なセーフティは要りません。蒼兄さんは、もっと私とスキンシップを取るべきです。そう肉体的に』
ねーじゅ『ホント、仲がいいよね君達。よすぎて今にも禁断の恋が始まりそう』
ブルー『それで和咲、こんな時間に俺にメッセージを飛ばしてきたって事は、何か大事な話でもあったんじゃないか?』
咲き誇る時『私のアプローチは軽くスルーですか。まぁいいでしょう。その事については後日きっちり教えてあげるとして、今日連絡を取ったのは、また近い内に蒼兄さんのところに遊びにいこうと考えたからです。今日の蒼兄さん達の体育祭は、運の悪い事に模試が重なってやむなく諦めざるを得ませんでしたからね』
ブルー『またくるのか? 君、受験生なのに本当に大丈夫か? 青黎は一応進学校で通ってるんだぞ?』
そう。和咲は俺を追って青黎を受験するつもりでいるのだ。
咲き誇る時『一日二日程度羽根を伸ばしても問題ありません。模試では常にA判定です』
ねーじゅ『あ、そうだ! なら和咲ちゃん、今月の十六日に開催される文芸同人誌の展示即売会にきなよ。そこでネージュブル名義で私と蒼介君も作品を頒布する予定でいるからさ』
咲き誇る時『あの青黎祭を席巻したネージュブルの文芸同人誌だとぅ!? そんなの最古参として直にこの手でゲットするしかないじゃない!』
ブルー『また狂信者モードになってる⋯⋯』
ねーじゅ『もしまた模試が重なったりしたら無理だろうけど、そうなった時は、和咲ちゃんの分は、ちゃんと取り置きしておいてあげるね』
咲き誇る時『ううん。その時は、模試をぶっちしてでも参加するよ!』
ブルー『否、ズル休みは駄目だろ。それは兄さんとして認められません』
咲き誇る時『蒼兄ぃは、事の重大さが分かってないよ! あのねーじゅ先生の創作文芸同人誌だよ
! そんなの計り知れない価値を生むに決まってるじゃん! ファン同士の争奪戦だよ!』
ねーじゅ『一応、イベント会場で売り子をする時は、マスクと帽子で変装する決まりになってるけどね。それが勝負を仕掛けてきた蝶々ちゃんの出した条件だから』
咲き誇る時『またあの泥棒猫か⋯⋯性懲りもなく再びの負け戦を挑もうとするなんて⋯⋯』
ブルー『そんな訳で、名義も俺との共同ペンネームだし、彼女のファンに騒がれるなんて事にはならないと思うぞ』
咲き誇る時『蒼兄ぃは、私達ファンを舐めてるね。最古参の私であれば、例え一切の情報を秘匿されていたとしても、その文体だけでねーじゅ先生の作品だって見抜いて見せる自信があるよ』
ブルー『流石は狂信者。警察犬並みの鼻の利き方だな』
ねーじゅ『今度の作品は、今までの私の作風とはかなり毛色が違うけど、予想は裏切ったとしても、期待だけは絶対に裏切らないって約束するよ』
咲き誇る時『うん! 楽しみに待ってるね!』




