57.体育祭の種目決めと第十ミッション、そして、習慣になった勉強会
今日は六限目を使ったホームルームで、一ヶ月後に開催される体育祭に向けて、各人の種目決めが行われる。
十一月開催というのは余り一般的ではないかもしれないが、気候のいい時期にやる方がいいので、俺は歓迎している。
ただ、体育祭自体は、陽キャがキャッキャする享楽的な場なので、アウェーの俺は、居心地が悪い思いをするばかりだが。
「えー、体育祭の組分けは、赤組、白組、青組、黄組の四組に分けられる事になります。それぞれどの組に振り分けられるかは、今配ったプリントに書かれてるから確認しておいてねー。ちなみに、私は赤組です。おらぁ、かかってこんかい、白、青、黄! けちょんけちょんにのしたるけぇのぉ!」
突如豹変したように、教壇に立つクラス委員長の秋里さんが、対抗する各組に挑戦的な態度で食って掛かる。
まぁ彼女が好戦的な面を内に秘めているのは、以前和咲とやり合った件で知っていた事だけれど。
だが、そんな彼女の一面を初めて見る者達は、普段の朗らかで落ち着いた皆の纏め役としての彼女とのギャップに面食らっているようだ。
なぜに広島弁? という突っ込みは入れてはいけない。
俺と怜愛は、幸運な事に同じ白組だ。
やっぱり彼女には白という色がよく似合う。
俺は青組じゃないが、そうご都合主義のように、上手いことその名にそぐう事はないだろう。
それに、そうなるよりも、怜愛と一緒の組の方が何倍も嬉しい。
どうやら黄組に振り分けられたらしい来栖から睨まれてしまったが、スルーしておいた。知らんがな。
後、出場する種目だが、玉入れについては、他の皆に混じって適当に玉を投げていさえすればいいので何も問題はない。
それはいいのだが、何故か部活組に誘われて騎馬戦にまで出場する羽目になってしまった。
「緋本、一緒に頑張ろうな!」
「球技大会で見せたようなスーパーな働きを期待してるぜ!」
「支えは俺に任せておけ!」
「全てを蹴散らして、最後まで生き残ってやるぜ!」
まぁ要は体のいい数合わせ要員だ。
騎馬戦は五人で一組なので、一人足りなかったと見える。
普段は定期考査の時しか相手にしようとはしないくせに、現金なものとしか言えない。
しかも、何故か俺が騎手にされている。
拒否権は認められないらしい。理不尽だ。
「えーっと、じゃあ白組の応援団には、私と大翔がなるって事で決まりね!」
他薦で体育祭の実行委員と白組の応援団に選出された白鳥が纏め役を務める事になった。
朝倉は自分での立候補だ。
お祭り人間だからな。こういう陽キャが輝くイベントには目がない。誘蛾灯に集まる羽虫みたいなものだ。
「んーっと、後はなんだっけ⋯⋯」
「姫ちゃん、男女混合色別対抗リレー」
進行の途中で突っかえた白鳥に、女子のクラスメイトが助け舟を出す。
「あ! そうそれ、男女混合色別対抗リレー! それに出場するメンバー男女一名ずつを選出したいと思いまーす!」
男女混合色別対抗リレーは、体育祭のラストを飾る最も盛り上がる見せ場と言える。
仮にそんな競技に出場させられようものなら、俺は、ペシミストらしくこの世を悲観して、絶望の余り首を括る事になるかもしれない。
とまぁそれは流石にオーバーだとしても、わざわざ死地に飛び込むような真似をする事もあるまい。
そう考え、存在感を消す事に於いては定評のある俺は、息を殺して身を潜めていたものの、ここで想定外の事態に。
「はい! 私は緋本君がいいと思いまーす!」
進行役の白鳥が、自ら元気よく手を挙げて俺を推薦してしまうという暴挙に出た。
──俺の気配遮断スキルを看破しただと⋯⋯?
などと、戦慄しつつ、ファンタジーラノベに登場する隠密キャラのような台詞を心中で呟くなど呑気な事をしていた。
そしたら、そうしている内に、あれよあれよと事は進み、気付けばメンバーに選出される事になってしまった。
──解せぬ。
§
星が夜空に瞬き出す夜の始め頃。
その静寂を小さく揺さぶるようにミニコンポが鳴らしているのは、菅野よう子が作曲し、新居昭乃が歌い手となった『VOICES』──。
そのピアノとストリングスが奏でる叙情的で切ない深く心に響くサウンドと反するように、怜愛の陽気な言葉が紡がれる。
ねーじゅ『さあ、青黎祭に続く大きなイベント体育祭に向けて、テンション上げてくよー! では始めます。第九回『緋本蒼介成り上がりリア充化プロジェクト』会議!』
ブルー『8888』
ねーじゅ『何、その動画コメントみたいなおざなりなリアクション』
ブルー『違います。これはエンジェルナンバーという天使からのメッセージです』
ねーじゅ『どこも上手くないよ。真面目にやって。せっかくこっちがテンション上げて取り組もうとしているってのに』
ブルー『俺は色別対抗リレーのメンバーに選ばれた事で荒んでるんだよ。けっ。体育祭なんて潰れて、皆滅んじまえばいいんだ』
ねーじゅ『拗らせてるねぇ。実行者の君がそんなんじゃミッション遂行が滞っちゃうよ』
ブルー『君はいいよな。百メートル走と借り物競争っていう安牌に出るだけでいいんだから。それに比べて、どうせ俺は、リレーでバトンミスとかして皆に笑われたり失望されたりするんだ⋯⋯不幸だ⋯⋯嗚呼、世界は痛みで満ちている⋯⋯』
ねーじゅ『ほら、スパイ小説の名言みたいな事言ってお得意のペシミズムに浸ってないで、リアルに戻ってきて』
ブルー『⋯⋯どうせ、次のミッションでは、体育祭のリレーで一位を取れ、とか言い出すんだろ』
ねーじゅ『はい! ではそういう訳でその次のミッションを発表します。第十ミッション! 「体育祭で活躍して、見事白組を優勝に導く立役者になろう!」』
ブルー『君は鬼畜だな。獅子の子落としかよ。ハードルは高くすればいいってもんじゃないぞ』
ねーじゅ『手強いなぁ。今日の君はいつにもましてシニカルだね。甘噛みする子猫ちゃんみたいだよ』
ブルー『十分手に負えているじゃないか。そこは建前でも猛獣あたりに例えておいてくれよ』
ねーじゅ『じゃあ、今度二人切りでいる時に、私に襲い掛かってみる? 男は皆獣だってね』
ねーじゅ『君にそんな乱暴な事する訳ないだろ。大切な友人なんだから』
ねーじゅ『おっと唐突なデレ。愛されてるねぇ、私』
ブルー『それで、第十ミッションでは、体育祭で活躍──つまり、俺が出場する玉入れ、騎馬戦、そして、男女混合色別対抗リレーでいい結果を残せって事だな?』
ねーじゅ『そうなるね。君、玉入れ得意でしょ? あんな距離からスリーポイントシュートを決めるくらいだし』
ブルー『夏祭りの輪投げじゃ残念賞だったけどな』
ねーじゅ『シニカルなのも程々にね。騎馬戦では、騎手に選ばれたんだよね? やったね。君の忍者ばりの隠密スキルを活かせば、最後まで見つからずに逃げおおせる事も難しくないよ』
ブルー『その代わり、一本もハチマキを奪えない訳だから、活躍したと言うのは憚られるけどな』
ねーじゅ『もう。揚げ足取りばっかり。穿った見方ばかりしてないで、もっとポジティブな視点で物事を捉えないと』
ブルー『それが出来ていれば、陰キャぼっちにはなってない』
ねーじゅ『最近は陽キャに囲まれても萎縮しなくなってきたと思って成長を喜んでたのに⋯⋯色別対抗リレーのメンバーなんて、皆に君のずば抜けた身体能力を披露するにはうってつけの役割じゃない。ここで奮起しなくてどこでするのって話だよ』
ブルー『俺の走り如何で、優勝するかどうかが決まるかもしれない大一番⋯⋯ガクガク、ブルブル⋯⋯』
ねーじゅ『文字を使って身体を震わせてないで、シャキッとしなさい!』
ブルー『⋯⋯分かってるよ。ちょっと己の不幸を嘆いていじけて見せただけだ。本番はちゃんと全力を尽くすし、バトンパスなんかの練習だってきっちりやる』
ねーじゅ『やっとで君の真摯で誠実な面が表に出てきてくれたね。それじゃあ、これで三つのミッションが同時に進行する事になった訳だけど、その全部においていい結果を残すくらいの意気込みで頑張っていこう!』
ブルー『おー』
青黎祭で聞いたようなものとは似ても似つかない、何とも締まらない貧相なコールに対するレスポンス。
そうなってしまいはしたが、まぁそれも御愛嬌だろう。
§
来月初頭の体育祭へ向けての気運が高まる中、その前に控えた一週間後の中間考査に向けて、視聴覚室で開かれた勉強会。
そこでは、樫井会長がお菓子を手に雑談しにくるなど、まぁいつも通りの展開を辿った。
部活組に、怜愛が作成した対策プリントを渡すのも同じく。
今回のテストでは、前回の五位を更に上回らなければいけないというプレッシャーもある。
だが、青黎祭の舞台で主人公を演じた事でそれなりに度胸もついたので、それ程気負わずに勉強に打ち込む事が出来た。




