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No Future For You!【バイク・ロードムービー】  作者: NS-1
第二章:最高速度のランデブー
8/20

その四

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



まさみ「あの、今日はこのキャンプ場に泊まりますから」

唐突にスマートフォンの画面を見せられる。ここから少し離れたところにある普通のキャンプ場だ。

まさみ「それから、この番号に電話かショートメール送っていただければ、繋がりますので」

そう言って、番号の書かれた紙切れを渡される。


ひかりの父「・・・?はぁ、そうですか」

彼女の行動を不思議に思いながらも、ガレージを後にする。

その意味がわかったのは、夕暮れ時、夕食の時間になってからだった。


ひかりの母「あなた、これ・・・」

妻が持ってきたのは、

“バイク協会の方達と一緒に行ってきます”

と書かれたノートの切れ端だった。


ひかりの母「ひかりの部屋で見つけたのですけれど、どうしましょう。とりあえず協会の方に連絡を・・・」

バイク協会に電話をかけようとする妻を制止する。

ひかりの父「・・・いや、いい。行き先は聞いてるよ、ひかりがついていくことは知らなかったけどね。近くのキャンプ場だから、あとで迎えに行くよ」

ひかりの母「そうですか」

ひかりの父「それに、バイク協会の方に連絡先も貰っている。あとで状況を聞いておくから・・・。迎えに行くのは明日の朝でもいいかい?多分、今頃は同い年くらいの女の子たちでキャンプを楽しんでいる頃だろう」

妻は少し考えてから答える。

ひかりの母「わかりました。ではこの件はあなたに任せますね」

ひかりの父「ああ、ありがとう」

妻は夕食の準備に戻る。

机の上には”ひかり”が置いていった封筒と原稿用紙がそのままにされていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



?「・・・さん、・・・ひかりさん、起きてください」

ひかり「・・・んあ?」

体を揺さぶられて目が覚める。あれ、どこだろう、ここ?・・・あぁ、そういえばテントで寝たんだった。

ゆっくりと体を起こす。


まさみ「ひかりさん、おはようございます」

ひかり「・・・あ、おはようございます」

“まさみ”がテントの外から顔を覗かせている。外は少し明るくなっているが、まだまだ暗い。


まさみ「ひかりさん、少し出てきてもらえますか?」

ひかり「あ、はい」

眠い目を擦りながら、テントの外に這い出す。


ひかり「・・・どうして」

テントの外で待っていた人物を見て、言葉に詰まる。


ひかりの父「まさみさんにバイクの部品を渡した時、今日はここに泊まるって聞いてね」

どうして今日泊まる場所を父に告げたのだろう、とまさみの方を見るが、話を続けたのは父の方だった。


ひかりの父「別に止めに来たわけじゃないんだ」

そう言うと父は何かをこちらに差し出した。暗くてよく見えないが何かの封筒と紙の束のようだ。

まさみ「これをどうぞ」

“まさみ”からLEDランプを渡される。眩しくないようにオレンジ色の光が灯されている。


ひかり「これ・・・」

父から渡されたのは、今朝、自分が家に置いて行った免許の申込封筒と作文を書いた原稿用紙の束だった。

封筒を開いて中を確認する。・・・やはり印鑑は押されていない。


ひかりの父「バイクっていうのは、危ない乗り物だ。怪我をするかもしれないし、それでこれからの人生が変わってしまうかもしれない。わかるね?」

ひかり「・・・うん」

俯いたまま返事をする。いつもはもっと喧嘩腰だが、このやりとりもすでに何回目かもわからない。


ひかりの父「だからな、乗る時も降りる時も、決めるのは自分じゃなきゃダメなんだ」

ひかり「・・・え?」

いつもは”ダメだ”と頭ごなしに否定されるだけだったが、今回返された言葉はいつもとは違うものだった。


ひかりの父「学校を決める時も、ウチの店を手伝うことにした時も、”ひかり”はいつも学校の先生や母さんの言うことに流されるままだっただろう。バイクの免許だってそうだ。もう親の許可なしで取りに行ける年齢なのに、許可をもらいに来ただろう。だから許可は出さなかったんだ。そうでないと、何かあったとき誰かのせいにしてしまうだろう?」

父から告げられた言葉は、自分にとって耳が痛いものだった。得意なことも、将来の夢もなかった自分は、確かに周りに流されるままに生きてきたし、そんな自分に自信も持てないでいた。誰かの言うとおりにしていれば、自分に言い訳ができたからだ。


ひかりの父「だからな、今回”ひかり”が、僕や母さんに内緒でバイク協会の方達について行ったのを知って少し嬉しかった。自分の選択の責任を自分で取る覚悟ができたということだからね。もう止めるつもりはない、行きたければ行ってもいいし、帰って店を手伝うというのならそれでもいい。もちろん免許を取るのもだ。ただ、自分で決めなさい」


改めて渡された封筒と原稿用紙に目を落とし、作文が赤で添削されているのに気づく。

ひかりの父「僕の時代には作文試験がなかったから、想像だけどね」

父は頭をかきながら照れくさそうに言う。


ひかり「・・・まさみちゃん。ごめん、帰ることにするよ」

まさみ「ええ、わかりました。ゆいさんには私から言っておきますね」

ひかり「うん、ありがとう」

まさみ「バイク置き場まで見送りますね」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



バイク置き場には、自分のバイクと他にスーパー◯ブが2台止まっている。

一つは旧型の年代物。もう一つはさらに古い、初代カブC100だ。


ひかりの父「娘ともどもお世話になりました」

ひかりの父が頭を下げる。

まさみ「いえいえ、こちらもひかりさんと一緒にキャンプができて楽しかったです」

ひかり「うん、またしようね。絶対」

まさみ「ええ、必ず」


ひかりの父がエンジンをかけようとしているところに声をかける。

まさみ「いいバイクですね」

ひかりの父「ああ、自慢の一台だよ」

まさみ「しばらく乗っていないという割には、やけに綺麗じゃないですか?」

ひかりの父「ははっ、鋭いね。ひかりが自分自身で免許を取ると決めたら譲ろうと思っててね、それまでは整備だけして封印しておいたんだ」


ガチャ、キュルルルル、ドドドド…

静かで、どこか懐かしい感じのする良い排気音だ。これぞヴィンテージといった感じがする。


振り返って、グローブを装着している”ひかり”に声をかける

まさみ「ひかりさん。私たち今日は銭湯に行って、それからゆっくり出ますから、よければ・・・」

ひかり「え?・・・あ、わかった!絶対行くよ、最高速度で!」

まさみ「ええ、お待ちしてます。試験、頑張ってください」

ひかり「うん」


ひかりの父「では、また」

ひかり「色々ありがとう、じゃあ、またね!」

まさみ「ええ、また」

それぞれのカブに跨った親子と別れの挨拶を交わす。


ブロロロロ…

小気味良い音を立てて遠ざかっていく2つの影が見えなくなるまで手を振る。

テントに戻る頃には、すでにあたりが見渡せるぐらいには明るくなっていたが、構わず寝袋に入り直す。

スマホのアラームはつけていない。たまにはそういう日があってもいいだろう。

なんとなく充実感に満たされながら、ゆっくりと瞼を閉じた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ブロロロロ…


ゆい「ん〜気持ちいー!なんか爽やかな気分。いい匂いもするしね」

彼女は自身の服の匂いを嗅ぎ、満足そうな顔を見せる。


ゆい「でもさぁ〜、私も起こしてくれてもよかったじゃん」

まさみ「すみません。気持ちよさそうに寝ていたもので、つい」

ゆい「ま、いっか。また会えるよね」

まさみ「ええ」


どこまでも広がっていそうな夕焼け空の下、広い道にバイクを走らせる。

こういう道をトコトコ走っているのが一番楽しい。


ゆい「あ、ついに来たね」

まさみ「ええ、そうですね。ここは私に任せてください」


関所員「ほいよ〜。二輪だがら、ほい。追加の排気税、払ってけろ」

関所員がこちらへ手を差し出す。

まさみ「見てください。サイドカーがついて、二人乗ってます。これはもう車と言っても差し支えないのでは?」

関所員「・・・はぁ〜?おめぇ、そったなこど言ってっと、バチ当たっど。お天道様ぁいつも見てっど〜」

そう言って関所員が顔を近づけてくる。


まさみ「あ、は、はい・・・。すみません」

関所員の気迫に怖気付き、すごすごと財布を開く。

関所員「ほいよ。気をつけでな〜」


ブロロロロ…

関所を抜け、バイクを走らせる。

?「おーい!」

後ろから声が聞こえる。

誰かが私たちを呼んでいるようだ。


ゆい「あ!ひかりちゃんだ、おーい!」

“ゆい”が後ろを振り向き、大きく手を振る。


ひかり「バイバーイ!頑張ってねー!!」

ゆい「うーん!またねー!!」


バイクを止めて振り返ると、”ひかり”が大きく手を振っているのが見えた。

商店の前掛けが、古い”スーパーカブC100”によく似合っている。

どうやら彼女も進む道を決めたようだ。


まさみ「また、お会いしましょう!」

私の声では届くか怪しかったので、大きく手を振りかえす。

それに合わせて“ひかり”がさらに大きく手を振りかえす。


再びバイクを走らせた後も、”ゆい”は後ろに手を振り続けている。

“ひかり”もずっと手を振ってくれているのだろう。

それを考えると、胸になんだか熱い思いが込み上げてくる。

ハンドルを握る手に力を込めなおし、ずっと続く道の先へ、いつもより少し速く、制限速度いっぱいでバイクを走らせたーーー。

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