その二
店の外、自身のバイクを停めている駐輪場へ向かうと、そこには自分のバイク以外にもう一台”H◯NDAスーパー◯ブ”、通称”カブ”が停まっていた。
思った通り、年代物だ。
新型や比較的新しめのカブは今でもたまに目にするが、こうした年代物を目にすることはもうあまりない。
見られるうちに見ておくのが吉だ。
すでにエンジンは切られているようである。排気音を聴いてみたいなぁ。
個人的な意見ではあるが、カブの排気音は理想的な音だと思う。静かだし、明け方の配達のカブの音は安心感すら感じられる。
遺伝子に刻まれた音なのだ。
流石にDOHCではあるが、私が空冷4ストローク単気筒エンジンのバイクを選んだのも、その・・・
・・・誰にでもなく、語りすぎてしまった。
持ち主は近くにいないだろうか。
あたりを見渡すと、私のバイクを間近で張り付くように観察している少女が目に入る。
先ほどは、カブに気を取られて見落としていたようだ。
まさみ「あの、私のバイクになにか?」
かくいう私も人様のバイクをジロジロ見まくっていたのだが。
少女「あ、ごめんなさい。かっこいいな・・・って」
少女はすごすごとバイクから引き下がる。
“かっこいい”・・・いい響きである。どうやら悪い人ではなさそうだ。
よく見ると彼女は手にヘルメットを携えている。
あのカブは彼女のものだろうか。
まさみ「よければ中でお話ししませんか?」
ファミレスを指差し、少女に提案する。
少女「あ、じゃあ、ぜひ」
少女と共に店内の元いたテーブル席へと戻る。
ゆい「おっそーい!ってあれ、その子は?」
まさみ「大丈夫です、怪しい人じゃありません。いい人ですよ、わたしのバイクを見て”かっこいい”って言っていましたから」
間違いなくいい人のはずだ。
ゆい「なにそれ、怪しい人じゃん」
まさみ「・・・とりあえずお座りください」
自身の皿を”ゆい”の隣に写し、少女を対面する席につくように促す。
少女「あ、ありがとうございます」
・・・・・・
・・・
・・・
ひかり「そうなの!それでね、大学卒業したら考えてやるって言ったのに結局”ダメだ”って!もう、コースも覚えたし、練習もしたから絶対一発で合格できるのに。お店継ぐなら制限ないバイクに乗れた方がいいのにね」
“ひかり”と名乗った少女は興奮気味に語っている。
ゆい「うーん、やっぱり親としては堅実に生きて欲しいんじゃない?ほら、原付ならまだしも、バイクって"アレ"じゃん?」
まさみ「"アレ”とはなんですか、まったく!・・・もう成人しているのなら、勝手に取りに行ってしまえばいいのでは?」
ひかり「ん〜、内緒で行くのはな〜・・・。なんか悪いことしてる気がするし」
まさみ「そうですか」
ひかり「それに実は一回、作文だけ先に出してみたんだけど、普通に落とされてその場で返されちゃってさぁ」
ゆい「作文って本当にあるんだ!」
“ゆい”は目をまん丸にして驚いている。
ひかり「うん・・・。あ、そうだ!まさみちゃんはどんな作文書いたの?」
まさみ「わ、わたしですか!?さ、さあ、どうでしたっけ・・・」
危うく食後のお冷を吹き出すところだった。あんなものを知られてしまっては一生の恥である。
まさみ「私も何度も返されましたから、トライアンドエラーあるのみですよ」
ひかり「う〜ん、そっか〜」
プルルルル・・・
彼女の悩みを聞いていると、自分のスマートフォンが鳴った。
まさみ「あ、すみません。電話です」
画面を見ると、師匠からのビデオ通話だった。
ひかり「ら、らくらくスマホ・・・」
まさみ「もしもし」
師匠「もしもし、まさみか?私だ。元気か?」
まさみ「はい、元気ですよ。師匠もお変わりありませんか?」
師匠「うむ。体も良くなってきてな。ついに商売を再開したぞ」
まさみ「そうですか、それはなによりです」
師匠「ああ。ゆいくんも、元気そうで何よりだ」
隣に座っていた"ゆい”が、いつの間にかビデオ通話に顔を乗り出していた。
ゆい「うん、元気元気!」
まさみ「それで、どうかしましたか?」
軽く挨拶を済ませたところで、電話の訳を聞く。
師匠「いや、なに。前に電話をもらってからしばらく経ったからな。顔を見ておこうと思っただけだ」
まさみ「そうでしたか。二人とも問題なく、順調にやってますよ」
ゆい「うん!今は、”試される大地?”とかいうのを突破したお祝いなんだよ」
師匠「ははっ、そうか、それはよかった。どうやら順調なようだな。それがわかっただけで満足だ。では、また、何かあってもなくても連絡を・・・」
ゆい「あ、待って!」
電話を終えようとしたところを彼女が遮る。
師匠「ん、どうかしたか?」
ゆい「あのね、今ね、バイクの免許を取りたいんだけど、作文で落とされて困ってる子がいるんだよ。何かアドバイスあげて」
そういうと彼女は私の手からスマートフォンを、ひょいっと取り上げて、”ひかり”に手渡す。
ひかり「あ、は、はい!私です!」
いきなりカメラを向けられた少女は戸惑いながら返事をする。
師匠「あ、あのまさみに友達が2人も・・・!今日は赤飯だな」
まさみ「え!?い、今、出会ったばかりですから!」
いきなりこちらに矢が飛んできたことに驚く。
まさみ「おほんっ。えーとですね、彼女は今、旧型のカブに乗ってまして、実技の方は大丈夫だと思うのですが、作文の方がまだなんともといった感じでして・・・」
師匠「ほお旧カブか、なかなかいいセンスだな。とはいえ作文については私もわからんのだがな、私の頃にはまだなかったから・・・。あ、ただ、まさみの作文は覚えているぞ!」
ま、まずい!
まさみ「し、ししょ・・・むぐっ!」
サッと“ゆい”が私の口と体を押さえつける。
ひかり「お、教えてください!」
師匠「うむ、まさみの作文はだな。まず、バイクで空を飛んでいる夢の話から始まるんだ。雲を超えたところからひゅーっと、この列島に降りてくるところから始まってな、そこで私と出会うんだ。その後は、実際に私の運転するバイクの後ろやサイドカーに乗って色々なところに行った思い出とか、原付で私とツーリングした思い出とかがいっぱい書いてあってな。最後に、”だからバイクの免許が欲しいです”って書かれてあるんだ。あれを初めて読んだ時は流石の私も感動の涙が止まらなかったな。どうだ?いじらしくて、可愛らしいだろう?」
“ゆい”と”ひかり”がこちらに生暖かい目を向けて笑っている。
師匠「あの作文は今でも大事に保管している。うちの家宝だぞ!来たら見せてやろう」
押さえつけられていた手が離され、解放される。
まさみ「うぅ・・・。もう生きていけない・・・」
ゆい「可愛すぎ!」
“ゆい”が抱きついてくる。
まさみ「し、仕方なかったんですよ!”配達に使う”とか、”趣味で”とか、なに書いても受からなかったんですから!」
真っ赤な顔で必死に弁解をする。
師匠「だからな、君も素直に、君自身がバイクに乗りたい本当の理由を書いてみてはどうだろうか」
ひかり「は、はい、わかりました!頑張ります」
師匠「うむ、健闘を祈る。では皆、元気でな」
そう言って師匠は電話を切る。
まさみ「と、とんだ災難だった・・・」
そう言って机に突っ伏す。
頬を"ゆい"がツンツンつついている。
ひかり「うーん、私自身がバイクに乗りたい理由かー。なんだっけなー」
ゆい「そういうのって、なかなか難しいよね」
“ゆい”と”ひかり”の話に、机に突っ伏していじけながら横槍を入れているうちに、そろそろいい時間になっていた。
ゆい「まーちゃん、そろそろ行く?」
まさみ「そうですね」
ひかり「どこ行くの?」
ゆい「この辺の◯×商店ってところ。伝説のバイクの部品取りに行くんだよ」
ひかり「やっぱり2人のことだったんだ!うちだよ、そのお店。バイク乗ってるから、そうかなーって思ってたんだ」
“ひかり”は嬉しそうに答える。
まさみ「そうでしたか、それならよかったです。お店まで案内してもらえませんか?」
ひかり「もちろん!あーあ、私も一緒に行けたらなあ」
まさみ「・・・一緒に来ますか?サイドカー付きのバイクなので、原付でも全然ついて来られると思いますよ?」
ひかり「うーん、でもお店が・・・。それに、お母さんは大丈夫だと思うけど、お父さんが許可出してくれるかなぁ」
ゆい「内緒で来たらいいじゃん!善は急げ。思い立ったが吉日、以降は凶日だよ!」
ひかりは悩んだ末、覚悟を決めたように頷く。
ひかり「そ、そうだね!私、行くよ!」
ゆい「やったね」
ひかり「バレないように荷物用意して持って来ないと・・・」
まさみ「・・・そこは私にいい考えがあります」
話がまとまったところで、ファミレスを後にする。




