第二章:最高速度のランデブー(その一)
少女「お父さん、これ・・・」
少女の父「・・・」
少女の父は娘から重なった原稿用紙と封筒を受け取り、目を通す。
少女の父「・・・ダメだ」
少女「・・・ッ!お父さんのわからず屋っ!」
そう吐き捨てた少女は、封筒と原稿用紙をそのままに、玄関横に置いてあった鍵とカバンを掴み家から飛び出す。
ブォンとエンジンのかかる音が控えめに響き、聴き慣れた排気音が遠ざかっていく。
その音を聴きつけ、台所で食事の準備をしていた少女の母が居間に顔を覗かせた。
少女の母「あら、あの子・・・」
少女の父「・・・これだよ」
少女の父は机に置かれたままの原稿用紙と封筒を手渡す。
消しては書いて、また消して、そうした跡が残された原稿用紙の束を見て、少女の母は何かを察したようだった。
少女の母「あら、そうですか。通りであの子、ここのところ部屋に篭りっぱなしだったわけですね」
少女の父「どうしたものか・・・」
少女の父は、顰めっ面で首を捻る。
少女の母「私は良いと思いますけどね。最後の判断はあなたに任せます。印鑑はここに置いておきますね」
机の上に置かれた印鑑を見つめ、少女の父は何かを考え続けていた。
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?「やっちまうか?」
?「いいや、待て。県境でやっちまおう」
?「おうよ」
まさみ「・・・なにやってるんですか、1人で。それに、古くないですか?」
ファミレスの一角で、彼女は別テーブルの客にイージーでライダー的なアテレコをしている。
ゆい「だってこの状況、あれじゃん?イージーでライダー的な」
まさみ「よく知ってますね。古い映画なのに」
ゆい「映画はよく見るからね。まあ私的にはもっと爆発するやつがいいんだけど、ダイ◯ード的な」
まさみ「マッド◯ックス的な?」
ゆい「そうそう」
彼女と爆発的なやり取りをしているうちに、注文していた料理がやってくる。
猫っぽい機械「ご注文の商品をお取りくださいにゃー」
ゆい「やった!」
彼女は猫っぽい変な配膳用の機械から、注文したミックスグリルのセットを取り出す。
続いて私も、温泉たまごが乗ったドリアにビーフシチュー、それとほうれん草のソテーを取り出して机に並べる。
長年の試行錯誤を経て編み出したこの玄人御用達セット、我ながら完璧な布陣である。
ミックスグリルと白米のセットでこの陣に太刀打ちするのは流石に厳しいだろう。
陣を敷き満足したところで飲み物を取りに行くことにした。
まさみ「じゃあ、ドリンクバーに行きましょうか」
ゆい「あ、そっかドリンクバーも頼んだんだった。やった!」
軽快な足取りの彼女と共にドリンクバーへ向かう。
無難に麦茶しようか。いやしかし、せっかくのドリンクバー、コーラという手も・・・。
これは・・・どろり濃厚ジュース?
見るからに怪しい、一体誰がこんなの飲むんだろう・・・。
・・・私か。
こういう怪しげなものがあったらつい手を出してしまうのが私の悪い癖だ。
期間限定の妙なアイス、絶妙に美味しくなさそうな味のラン◯パック、「?」というラベルで隠されたお楽しみ自販機。
誰がこんなものを買うのだろうと多くの人が首を傾げているソレ、ついつい買ってしまう。
結局は後悔するのだが。
どろり濃厚ジュースと書かれたボタンの下にコップをセットし、ボタンを押す。
でろーんと、液体と個体の中間のようなジュースがコップに溜まっていく。
ゆい「うわ、なにそれ。もう飲み物じゃなくて食べ物じゃん」
まさみ「・・・」
流石に飲み物としての役割を果たすようには思えなかったので、別でお冷も汲んで席に戻る。
ゆい「じゃあ、いっただっきまーす!」
まさみ「いただきます」
手を合わせ、注文した料理に手をつける。
まずはビーフシチューからいただこう。
うん、ビーフシチューの味がしておいしい。
ドリアとほうれん草のソテーも、ドリアとほうれん草のソテーの味がして美味しい。
ふと彼女の方に目を向けると、美味しそうにミックスグリルを頬張る姿が目に映る。
無邪気な彼女にピッタリな注文だなぁとなんとなく思った。
どろり濃厚ジュースにストローを刺し、啜ってみる。
まさみ「お、重い」
ジュースがストローを登ってこない・・・。
早速後悔している。
まさみ「これ、いかがですか?とても美味しいですよ?」
まだ一口も飲んでないけど。
ゆい「ん?いらなーい」
彼女はコップに溜まったソレを一瞥し、すぐさま自身の手元に視線を戻す。
仕方ないので、スプーンで掬って口に入れる。
あれ、意外と美味しい。冷たく、濃厚な桃の味が体に染み渡る。
もはやスイーツではあるが・・・。
これは久々の"当たり"だな、などと考えていると、
“ブロロロロ…ガチャ”
どこか馴染みのある排気音が店の外から聞こえてくる。
まさみ「・・・!この音は」
ゆい「ん、どうかした?」
まさみ「すみません、ちょっと行ってきます」
彼女に一言言い残し、店の外へ向かう。
ゆい「え?あ、おーい!・・・行っちゃった」