手紙
拝啓 まーちゃん様
“あとがき”を書いてから、少し時間が経ち、もうすっかり冬の空気を感じられる季節になりました。
あれから、作文を提出して、実技試験もなんとか合格し、無事、普通自動二輪免許をこの手に収めました。
なんとか雪が降る前に取得できてよかったです。
作文を提出する時、10万字の原稿の束を見た職員の冷ややかな視線がひしひしと感じられましたが、意にも介さず、断固とした姿勢で提出することができ、また一つ強くなりました。
割とすんなり合格をもらい、拍子抜けでしたが、もしかしたら読まずにハンコを押したのかも知れません。
何はともあれ、これで同じ景色を見ることができるのだと思うと、別にいいか、という気になってしまいます。
この前、一発試験の帰りに、まーちゃんに似た黒猫に久しぶりに会いました。
相変わらず、同じ色をした目で、まだ空の低い位置にあるお月様を眺めていましたが、昔とは違って、その首には、なんと首輪がついていました。
少し隣に座って時間を潰していると、スーツを着た仕事帰りのOLさんらしき人がやってきて、脇を抱き抱えて帰っていきました。
抱き抱えられた時、一瞬目があったのですが、”疎ましい”といった表情をしているくせに、どこかまんざらでもなさそうで、出会った頃の”まーちゃん”を思い出しました。
その時、少し寂しくて、でも、やっぱり嬉しかったように思います。
前は、”なぜそう思ったのか”、”なぜそうするのか”など、色々と考えがちだったのですが、最近は、意外と”まあいいか”で済ませることも多くなりました。
別れる前、”どこかに消えてしまわないか心配だよ”と伝えましたが、
明日、生きている保証のない自分が考えても仕方ないか、と今ではそう考えています。
これからどうなるのかとか、
やっぱり、わからないことばかりですが、
いま、ここにいて、
いま、会いたくて、
少しだけ自分と似た、不思議な乗り物と共に向かっていて、
未来もないような自分と、この乗り物だけど、
多分、これが”今を生きる”ということなんだと、なんとなく思います。
それではお体に気をつけて、
会える日を楽しみにしています。
ゆい
おわり