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No Future For You【バイク・ロードムービー】  作者: NS-1
第六章:世界の片隅でも、ちゃんと確かに
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その二



・・・・・・

・・・

・・・



・・・アラームが鳴っている。

手探りで枕の辺りを探し、触れたスマートフォンのホームボタンを押す。

アラームが止まる。たまにスヌーズとかいう機能に切り替わって数分後にうるさくなるやつ、あれはなんなんだろう。


窓の外に目を向けると、まだ日は出ていないが、すでに明るくなりつつあるのがわかる。

いつもと同じだ。


眠い目をこすりながら、体を起こす。


・・・。

部屋の端に、一組の布団が綺麗に折り畳まれているのが目に入る。

辺りを見回す。


アコースティックギターに、そのケース、あとは私の荷物。

他に何もない。

アコースティックギターとケースがなければ、全部夢だったのではないかと思うほど綺麗に、”彼女”の存在がなくなっている。


・・・意外と、焦りはない。

なんとなく、こうなる予感がしていたからかもしれない。


寝起きで回らない頭をそのままに、布団から這い出る。

まずは、一階の洗面所に行こう。

朝の用意をしているうちに、目も覚めるだろう。


・・・・・・

・・・

・・・


二階の女性部屋に戻る。

先ほどと変わらない、なにかぽっかりと穴が空いたような感じの部屋。

自身が眠っていた布団を畳み、部屋の端の綺麗に畳まれた布団の横に置く。


旅の終わりを前にして、自身の荷物を一度整理する。

ゴミや不要なものは、ここで捨ててもらえるらしい。


荷物を必要なものと、そうでないものに分別する。

一通り整理し終わったところで、シーケンサーを手に取る。

このシーケンサーとアコースティックギターだけが、彼女の存在をこの世のものたらしめているように思える。


多少は慣れた手つきで、自身のソングデータを開く。

ほとんど完成している。あとは、編曲に少し手を加えるだけ。

2パターン考えてあって、どちらにするかで迷っている。

メロディとコードはすでに決まっている。


少し聴いてみる。

・・・電子音で、良し悪しはよくわからない。

彼女の言うように、パソコンに移して、録音なり、仕上げなりをすれば、それなりに聴けるものにはなるのだろうか。

正直、自信はないが、誰かに聴いてもらいたいと思った。できれば、彼女に。

彼女もこんな気持ちで音楽を作っていたのだろうか。

言葉で聞いたことは、言葉以上のものを教えてはくれないが、

このシーケンサーに入っている彼女のデモ曲を聴いていると、多分そうなんだろうなと、なんとなく思う。


・・・決めた。編曲は、こっちの素直な方でいこう。

ちょっと初心者感は強めだが、背伸びをしても仕方がない。

踵の高い靴は似合わないのだ。


手間取りながら打ち込んで、シーケンサーを荷物の中に突っ込む。

出発の準備はできた。

宿を出よう。



・・・・・・

・・・

・・・



あまり急がず、自分のペースで歩く。

朝ごはんも済ませて、日もすでに昇っている。

曇っていて、よくは見えない。


夏も終わりに近づき、曇り、しかも霧も出ているので、暑くはない。

標高がそれなりにあるのも関係しているのかもしれない。


それにしても、まるで火星を歩いているかのようだ、と思う。

少し赤みを帯びた土や岩が、見渡す限りの地表を占めている。

昔見た、映画の景色にそっくりだ。


そういえば、昔は宇宙飛行士になりたかったんだっけ。

その前は考古学者で、そのさらに前は、なんだったかな。

うろ覚えだ・・・。


残念ながら、私がまだ高校生だった頃、文理選択の際に文系を選んでしまったことで、宇宙飛行士の夢は儚く潰えてしまった。

確か、数1Aが全然わからなくて、数学の担当も受け持っていた担任の先生に押し切られる形で、文系を選んだんだっけ。

物理基礎と化学基礎は割とできていて、好きだったばっかりに、多少、残念だ。

数学って、なんであんなに難しいんだろう。中学の頃もあまりできていなかった気がする。

いろんな問題に出会うことが大事、と聞いて勉強時間の多くを数学に割いたはずが、数字と形が変わった途端にわからなくなる。

別の単元の問題を組み合わされたりなんかした日には、0が一つ少ないんじゃないですか?と問いたくなるような点数の答案が返ってくる。それは言い過ぎか。

かろうじて二桁はあったと思う、かろうじて・・・。


理系を選んでいれば、宇宙飛行士とは言わないまでも、大学に進学して、地学基礎、地学を専攻し、関係する仕事には就けたかもしれない。

結局、大学には行かなかった。

師匠は、”行ってもいい”と言ってくれていたが、学びたい学問は全て理系の方にあって、

一応好きだった歴史や哲学に関する興味は、趣味の範囲を超えないものだった。

それなら、早くうちの店を手伝うほうがいい、と思ったのだ。

まあ、いまさらどうということでもない。

今の生活には満足している。

別に、あの先生を恨んでいるとかでもない。

高圧的な人で、苦手ではあったが。


図鑑や本を読むだけでも楽しい。

コラムなどにぼんやりと書かれているずっと専門的な話を、私が理解できる日は多分来ないんだろうな、と思うと少し悲しくなったりもするが、全てを知ろうとするには、私の存在はあまりにも小さい。



この道の先に、彼女はいるだろうか。

いてほしい、と思う。

いなかったら、私はどうするだろう。

一人で最後まで走り切るのか、それとも、ここで終わりにして帰るのか。


道の先が霧で見えずらい。

いつかの山登りの時と同じだ。いや、あれは下りだったか。

あの時、彼女がどこかに消えてしまうような気がして、”約束”したんだっけ。

彼女が、約束を破ろうとしていることに、何か思うところがあるというわけではない。

彼女には、彼女の好きなようにしてほしいと思う。

もし、あの約束が彼女の足枷になってしまうのだとしたら、そんなものは忘れてもらって構わないとも思っている。

元々、一人で始めた旅なのだ。


ただ・・・。

一人で始めた旅のはずなのに、一人で終わらせることを迷ってしまうのはなぜだろう。


もう一度会って、この気持ちが何なのかを確かめたい。

全てを知ることはできなくても、自分のこと、そして、自分が選ぼうとしていることぐらいは、知りたい。

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