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その二

工場長「おお、似合とる似合とる!」

まさみ「そうですか?ありがとうございます!」

ゆい「なんでそんなに乗り気なの」

ユニフォームに着替えた”まさみ”は上機嫌ではしゃいでいる。


まさみ「ゆいさん。夏といえば、野球ですよ!」

工場長「せや!嬢ちゃん、なんでも楽しまなあかんで」

ゆい「・・・ま、いっか」

工場長「よっしゃ!」


確かに、”まさみ”のユニフォーム姿は、意外な組み合わせではあるが、よく似合っていた。


ゆい「一枚だけ写真撮っていい?」

まさみ「別にいいですけど・・・?」


カシャっと、彼女のスマホを借りて、彼女の写真を撮る。

なんで私はスマホを置いてきたんだ、と唇を噛み締める。

旅の途中で撮った写真は、いつか送ってもらおう。


工場長「ほな、まさみちゃんがライトで、ゆいちゃんがショートでええな?」

“怪我でメンバーが足りへんのや!”と泣きつき、半ば強引に私たちをメンバーに引き込んだ工場長は、勝手にポジションも決めていたようだ。


まさみ「はい、お任せください!」

ゆい「ショートって上手い人がやるポジションだって聞いたことありますけど、大丈夫ですか?私、野球の経験は学校の授業ぐらいでしかないけど」

工場長「かまへん、かまへん。準備運動見た感じ、運動できそうやからな」

ゆい「キャプテンがそういうなら」

この元気溌剌な工場長は、腕に白いキャプテンマークをつけている。


工場長「よっしゃ。ほな、”打倒、営業部!”や。日頃の恨み晴らして、優勝はウチらがもらうで!」

メンバー一同,まさみ「おー!」

ゆい「お、おー!」

工場長に続き、メンバーの作業員一同と共に声を上げる。


工場長「ほな作戦会議や。今年は"ビッグスリー"がおるから簡単に勝てる思てたけど、そうもいかんなった。決勝を前にして、二人離脱や。ただ、その代わり、バイク協会の二人が助っ人してくれることになった。皆、拍手!」

メンバー一同「おー!」パチパチ


どうも、とまーちゃんと共に軽く手を上げる。


工場長「ほな、”俊足のマサ”の代わりに、ライトに”まさみ”ちゃんを。”連投のケン”の代わりに高橋くんをピッチャーに入れて・・・」

ゆい「ちょちょ、ちょっと待って!」

あまりにも、”いかにも”すぎる呼び名につい、ツッコミを入れてしまう。

ゆい「その”俊足のマサ”・・・とか、”連投のケン”とかっていうのは?」


工場長「よう聞いてくれた」

工場長は、待ってましたとばかりに得意げに頷く。


工場長「さっき言った三人、”マサ”、”ケン”、”高橋くん”は、恒例の草野球大会におけるウチの部署の主力、通称”ビッグスリー”や。まあ高橋くんはうちの会社やないんやが、人数集まらんかったから特別な」


ゆい「”俊足のマサ”さんっていうのは・・・、足が速かったりするの?」

工場長「”俊足”は、毎日定時で帰ることから着いた異名や。足は速ない。ライトを守ってたんやが、肩いわしてリタイアや」

ゆい「速くないんかい・・・。じゃあ”連投のケン”さんは?・・・わかった、中2日で完投できるとかでしょ!」

工場長「いや、1日100球、中6日が限界や」

ゆい「なんでやねん!」

草野球にも限らず、繊細なプロのようなセーブの仕方をしているところに思わずツッコミを入れてしまう。


工場長「ええツッコミや。”連投”っちゅうのはな、毎日、”ネコネコ生放送”とかいうサイトで、同じコメントを連続で投稿してるとこからつけられた異名やな」

ケン「一度に6回以上やると連投規制を喰らうから、5回やって、少し待つのがコツだ!」

ゆい「やめーや」

工場長「ケンは今日の規定数を投げ切ってベンチや」


碌な奴がいないじゃん、とツッコミを入れそうになるのをなんとか堪える。

ゆい「じゃあ、その、高橋さん?っていうのは・・・?」


工場長「タイミーの高橋くんか?彼はやな・・・」

ゆい「タイミーさん!?会社の草野球大会の助っ人にタイミーさん呼んでるの!?」

まさみ「ゆいさん、タイミーさんは失礼ですよ」

工場長「せやぞ、嬢ちゃん。タイミーさんは失礼や。タイミーの高橋さんか、高橋さんって呼んだらええ」

ゆい「ええ・・・」

工場長「高橋くん、ピッチャー頼むで」

高橋「はい。自分タイミーなんで、大丈夫っす」


工場長が時計の方に目を配る。


工場長「お、話しとる間にええ時間やな。そろそろ行くで」

メンバー一同,まさみ,ゆい「おー!」


試合初めの整列に向かう。


工場長「どや?自信の方は」

まさみ「バッチリです。私、3ヶ月おきぐらいに、シチローさんのベストプレー集を見返していますから」

工場「おう、頼もしいな」

ゆい「頼もしいか?」

“シチロー”なんて選手名聞いたことないぞ、モノマネ芸人か?


一同「よろしくお願いします」

コイントスの結果、我々、製造部チームは裏の攻撃になったので、守備位置に向かう。

ショートなどやったこともないが、とりあえず2-3塁間、若干2塁よりに立つ。


工場長「っしゃぁ!気張っていくで!!」

メンバー「おー!」

しまっていけ。


審判のプレイボールの掛け声に従い、ピッチャーの”高橋”が振りかぶって、第一球を・・・


スパァンッ!

審判「ストライクッ!」

ゆい「はやっ!?」


初球、ど真ん中のストレート。

瞬きをする間もなく、ボールは綺麗な直線を描きミットに吸い込まれた。

明らかに草野球のレベルではない豪速球に思わず声を出してしまった。


高橋「自分、タイミーっすから」

ゆい「タイミーすごすぎるって」


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