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第四章:やきう(その一)

ゆい「・・・暑い」


斜陽にさらされながら、マウンドに転がってくる白球を熟練のライン工のような手捌きでセカンドへ送球する。

セカンドがファーストへ送球し、ゲッツー。ゲッツーシフトがうまく刺さり、なんとか1点に抑えることができた。

次はもう、延長10回裏。1点ビハインドの状況で、

ってそもそも何で野球をやっているんだっけ。


確か・・・



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ゆい「ここ・・・かな?」

まさみ「ええ、間違いありません」

4つ目の”部品”を集めている途中の私たちは、至って普通の工場の前でバイクを停めた。


4つ目の”部品”はどうやらここに保管されているらしい。伝説のバイクの部品を保管しているというのだから、工場といっても、4大バイク会社の下請けの、それなりに立派な工場を想像していたのだが、見る限り、至って普通の町工場だ。


まあ、2つ目の部品も、普通の商店の主人が保管していたのだ。ここでも、それなりに雰囲気があって、それなりに”おかしな”ライダーが部品を保管しているのだろう。


まーちゃんは、商店の主人である”ひかり”ちゃんのお父さんを、普通の立派な人だと言っていたが、まーちゃんの言うことは当てにならない。多分、どこか変な人だろうと思う。


まさみ「とりあえず、そこに見えている事務所で聞いてみましょう」

ゆい「そうだね」


トラック搬入口の横の階段を上り、事務所の扉を開く。

事務員「ご用の方はこちらまでどうぞ」

声のする方を向くと、受付があった。


まさみ「バイク協会から、”部品”の受け取りに来たのですが」

事務員「バイク?ああ、もしかして、工場長のお客さんですかね?すみません、工場長の方が今、不在でして・・・」

まさみ「何かご用事とかですか?また後でお伺いしても?」

事務員「ああ、いえ。今日は毎期恒例の部署対抗草野球大会の日でして。一日、作業員ごと出払っております」

まさみ「そうですか・・・。では、その大会を行なっているグラウンドとかは分かりますか?そこに行ってみます」

事務員「でしたら、北の河川敷グラウンドですね。ずっと北の方に行くと、大きな川がありますので、それに沿って少し北西の方向に行くと、見つかると思います」

まさみ「ありがとうございます、行ってみます」

事務員「ええ、お気をつけて」


事務所を出て、再びサイドカーに乗る。


まさみ「出発しますよ」

ゆい「うん、いいよ」

エンジンがかかり、バイクが動き出す。


ゆい「ねぇ、まーちゃん」

まさみ「ん、なんですか?」

ゆい「やっぱり、私の言った通り、バイク乗りの工場長も変な人の可能性、大だよ」

まさみ「なんでですか。事務所は普通だったじゃないですか」


確かに、彼女の言う通り、事務所内は普通だった。

“アットホームな職場”が強調された見本の求人の張り紙と、”復唱一日三回!”と張り紙された社訓の額縁を除けば、

至って普通の事務所だ。


ゆい「さっきの事務員さんだけどさ、まーちゃんがバイク協会だって名乗っただけで、すぐ工場長のお客さんだって気づいたじゃん?やっぱり工場長は、すぐ”それ”って気づくような、バイクに関する奇行を日頃から行ってるんだよ。フルフェイスかぶりながら作業してるとかさ」

まさみ「へ、変な推理を披露しないでくださいよ。ただ単に、工場長だけがバイクで通勤してる、とかかもしれないじゃないですか」

ゆい「・・・確かに。今回は見逃してあげるよ」

まさみ「何をですか・・・」


しばらく行くと、背丈の高い雑草の向こうに大きな川が見えてくる。

いいなぁ。こんなに暑いと、川に飛び込みたくもなる。


事務員さんに言われた通り北西の方に向かうと、背の高い雑草が、これまた背の高い向日葵に代わり、手前にグラウンドが見えた。

ゆい「あ、あれじゃない?」

まさみ「そうですね」


グラウンドを少し通り過ぎたところに駐車場があった。


ゆい「・・・どかち?」

まさみ「ドゥカ◯ィですよ。外国の高級メーカーです」

ゆい「(このバイク、まーちゃんが乗ったらカッケェだろうなぁ・・・)」

端っこの方に止まっていた高級そうなバイクの隣に我々のバイクを止め、グラウンドの方へ向かう。


どうやら、今は試合はやっていないようだ。ベンチの方に人だかりが見える。

とりあえず、近い方のベンチに向かう。


まさみ「すみません」

ユニフォーム姿の男性「はい?」

まさみ「あの、工場長はいらっしゃいますか?少し用があってお伺いしたのですが」

ユニフォーム姿の男性「ああ、工場長は向こう、製造部の方ですよ」


ユニフォーム姿の男性はもう一方のベンチを指差す。

まさみ「失礼しました」


一礼してから、もう片方のベンチに向かう。

後方からは、”今年はもらったな”や、”あの怪我じゃ、もう無理だろ”などの、”いかにも”な話し声が聞こえてくる。


まさみ「すみません、工場長、いらっしゃいますか?」

工場長「ん?なんか用かいな」

髪を後ろで束ねた、ユニフォーム姿の女性が返答する。


まさみ「あの、バイク協会から来たのですが」

工場長「ああ!会長が言ってたあれな。今、持ってくるわ」

工場長は隣の倉庫の方に歩いて行き、見覚えのある小箱を持ってくる。


工場長「すまんな。いつ来るかわからんから、持ってきてもうた。こればっかりは事務員さんに預けとくわけにもいかんしな。ご足労おかけしました」


まさみ「いえいえ、大丈夫ですよ。こちらこそお手数おかけしました。それでは・・・」

踵を返し、駐車場へ向かおうとした時、工場長に声をかけられる。


工場長「なぁ、嬢ちゃんたち、少し頼まれてくれんか?」

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