その二
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??「いかにも!!私が國見道場永久師範代”國見真紀子”である!!先代の"ハーレーの道を極めよ"という教えを胸に、日夜、ハーレークイーンになるべく研鑽に勤しんでいる。気軽に”マッキー”と呼んでくれて構わんぞ。愛車はハレルヤ・ダビデことハーレーダビッドソンだ!」
門下生「キャー!國見様〜!はぁ・・・、今日もお美しい」
少し離れたところから門下生と思わしき少女達がこちらを覗いている。
國見「喝!!お前たち、ベタ塗りは終わったのか!」
門下生「す、すみません〜」
門下生と思わしき少女たちが走り去る。
ゆい「うわ、また変な人来たよ」
まさみ「し、失礼ですよ!ゆいさん!」
ゆい「いーや、今度という今度は言わせてもらうけど、バイク乗ってる人、変な人多すぎ!」
まさみ「そ、そんなことは・・・」
”國見真紀子”と名乗ったその人は、ティアラに道着という中々奇抜な服装をして道場の玄関口に仁王立ちしている。
ゆい「いやほんと、ここに来るまでに何人かバイク乗りに出会ったけどさ、変な人しかいないじゃん!すれ違うときに、ヤエー?とかいうのをしてみたら、わざわざ追っかけてきてVTECHはどうだの、Lツインがなんだの、しまいには指の角度が〜とか」
まさみ「あ、あれは、バイク協会にマナー講師の魔の手が伸びてきた時にですね、彼らを揶揄するかのように協会の方で一策講じたら、ミイラ取りがミイラになってしまった感じでして・・・」
ゆい「まーちゃんの師匠は、まーちゃんに変なことばっか教えてるし、極めつけはあのUFOみたいな形した銀色のバイクに乗ってる人ね。まーちゃんも見たでしょ?パーキングエリアで、周りをチラッと見て誰もいないことを確認して、アイスクリームをバイクにわざとこぼして舐めようとしてたところ!!」
まさみ「あ、あの人たちは”特別”ですから」
國見「UFOみたいな銀色の、ということはカタナか!確かに、やつらは特別だな」
國見永久師範代は納得したように頷く。
まさみ「ええ、そうなんですよ、ゆいさん!バイク乗りがみんな、ああというわけではありません」
ゆい「どういうことよ・・・」
彼女はこちらに、ジトーッとした視線を向けている。
まさみ「・・・彼らSUZU◯I乗りの中にはですね、SUZU◯Iを愛しすぎるあまりに行き過ぎた行動をとる人々、通称”鈴菌感染者”が存在するんですよ。Vスト◯ーム や ジク◯ー といった”普通”のバイクに乗っている人々は比較的普通なのですが、カタナのようなバイクに乗っている人はL5(Level5)、すでに手遅れの可能性が高いです・・・」
ゆい「なにそれ・・・」
まさみ「ええ、一説によると彼らはですね、古代、宇宙人が地球に飛来し、人間を創造、文明を授けたという”古代宇宙飛行士説”を支持し、SUZU◯KIという素晴らしいモノを生み出す文明を授けてくれた宇宙人に対し尊敬の念を持って、彼らの乗ってきた宇宙船を模したバイク、カタナに乗り、崇めているそうです。ただですね、これが実は宇宙人ではなく”鈴菌”という宿主の行動を操る未知の細菌だったのではないか、というのが現在のバイク学会における定説でして・・・」
ゆい「なにその、全体的に”ひぐ◯し”の三四号文書みたいなトンデモ話は」
國見「いやいや、これがあながちトンデモというわけではなくてだな、旧約聖書エゼキエル書の第一章には、”神が車輪のついた乗り物で現れた”という記述があり、一部のオカルトマニアはこれをUFOだと言っているが、500年前にラファエロがその姿を描いた絵に写っていたものは、まさにSUZU◯Iカタナであったらしい・・・。さらに聖書には、”神は6日で世界を作り、7日目にその世界をバイクでツーリングした”という記述もある。宇宙人であれ、神であれ、この奇妙な類似が意味するものとは一体・・・。参考文献は”ばく◯ん!!”だ!!」
ゆい「漫画を参考文献にすなー!!それ、まーちゃんがコンビニで買ってたギャグ漫画じゃん!」
まさみ「最近、新刊出ましたよ」
國見「なに!早速買いに向かわなくては」
國見永久師範代は早速自身の愛車の方へ歩き出す。
ゆい「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!先に部品くださいよ」
國見「部品?」
まさみ「ええ、わたしたち、バイク協会のほうから伝説の二輪の部品を回収に来たんですけど」
國見「・・・ああ、そうだったのか。それはそれは。こちらとしても渡したいのは山々なんだがな・・・」
そういって國見永久師範代は、列島で一番の高さを誇る山の頂上に目を向ける。
國見「あれは、天からの授かり物だからな。あそこに置いてきた」
まさみ,ゆい「え」
國見「悪いが、取りに行ってくれ。登山道具はウチから貸し出そう」
まさみ,ゆい「・・・」
まさみ「あ、じゃあ、私、行きますよ。あの山に登った経験なら何度かありますし」
“眺める山であって、登る山ではない”とも言われるような、かの山であるが、私は登るのも嫌いではない。良い景色、非日常な空間の中で自分と向き合う時間を作れるというのはなかなか貴重なのだ。
國見「そうか、では登山道具は一セットでいいか?」
ゆい「・・・いや、二人で行きます。ただし、別々に」
まさみ「え?」
ゆい「勝負だよ、勝負。先に頂上ついて部品を手にした方の勝ち」
まさみ「なんでですか・・・。二人で一緒に行けばいいじゃないですか」
わざわざ別々に行く必要がどこにあるのだろうか。
ゆい「まぁまぁいいじゃん。負けた方は勝った方のいうことをなんでも一つ聞く、っていうのはどう?」
まさみ「普通に行きましょうよ・・・」
ゆい「私が負けたら本当になんでも言うこと聞くよ?約束」
まさみ「私が負けたら?」
ゆい「まーちゃんが負けたら、旅はここで終わり。まーちゃんには、私と結婚して、死ぬまで隣で幸せな人生を送ってもらう。もちろんバイクは降りてもらうよ。危ないからね」
まさみ「ええ・・・」
彼女はおどけて答えるが、目には真剣さが垣間見える・・・、気のせいか。
國見「ほう、面白い。その勝負、私が取り持とう」
まさみ「まだ、受けるとは言っていませんが」
國見「ゆいにゃんがここまで言っているのに逃げるとは・・・、おまえそれでも男か?」
まさみ「女です」
ゆい「ゆいにゃん・・・」
國見「男なら一発、意地見せてみろ。バイク乗りが聞いて呆れるぞ」
まさみ「女です」
何を言っても聞き入れてもらえそうにない。
まさみ「登山で勝負は危ないですよ」
ゆい「もちろんそこは安全第一。登山中は走るのは禁止ね。それと高山病対策に、5合目より上で、7時間以上の休息を取るっていうのでどう?」
まさみ「うーん、まぁそれなら・・・」
ゆい「よし、決まりね!」
國見「そうと決まれば早速、登山用具を持って来よう。すこし待っていろ」
そういうと國見永久師範代は道場の中へ入り、一まとまりにされた登山用具を持って戻ってきた。
國見「サイズはこのぐらいだろうか。キツかったり、大きかったりしたら言ってくれ」
軽く試着し、問題がないことを確かめる。
まさみ「大丈夫です、問題ありません。ありがとうございます」
ゆい「こっちも大丈夫、ありがとうございます」
國見「よし、じゃあよーいどんだ!」
國見の掛け声と共に、”ゆい”が走り出す。
まさみ「乗って行かないんですか?」
スペースの空いたサイドカーに目をやり、問いかける。
ゆい「うん、作戦があるからね」
まさみ「そうですか・・・」
では、お構いなく、とバイクのエンジンをかけ、颯爽と走り去る。
この時期はマイカー規制のため5合目までの乗り入れはできないものの、麓のシャトルバスまでの時間で大分アドバンテージをとれるだろう。まさに勝ち戦だ。
走りを禁止して、安全第一の登山をするのであれば、この差はそう簡単には埋まらないはずだ。彼女の言う”作戦”は気になるが、負けることはまずないように思う。
勝ったら何をお願いしよう。とりあえずこの汚れたバイクの洗車でも手伝ってもらおうかな、それから・・・。
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國見「伝説の二輪の部品・・・か。まぁ部品と言えば、部品か。しかし、そうなると・・・、またアレが見られるのだとしたら、少し楽しみだ」