雪解け前のモノローグ
2025年2月。ざわめきと熱気が渦巻く、東京の夜。
私は、テーブルの上のグラスに残った、形を崩していく氷を意味もなく指でつついた。ひやりとした感触だけが、酔いで火照った指先にやけにリアルだ。周りの賑やかな声や、友人たちの楽しそうな笑い声も、どこか遠くに聞こえる。私の意識は、この小さな氷の塊と、目の前にいるはずの――いや、心の内にずっと居座り続ける「彼」との、見えない壁に吸い込まれていた。
(私たちの間にあったはずの何かは、もうこの氷のように、とっくに形を失くしてしまったのだろうか)
ふと、彼の声が聞こえた気がした。いや、実際に彼が口にしたわけではないのかもしれない。それは、私の心の中で何度も反響する、彼の言わなかった言葉であり、私が聞きたかった、あるいは聞くのが怖かった言葉の残響。
「――勝手にいなくなって。みやは、ずっと僕が……好きだったくせに」
その声は、吐息に紛れるくらい朧で、アルコールで霞む頭の奥深くに直接響いてくるようだった。グラスを持つ手が、気づかないうちに微かに震える。
(……それ、どういう意味なの?)
喉まで出かかった問いは、いつも熱い何かと一緒に無理やり飲み下してきた。今さら、どんな言葉で確かめられるというのだろう。この7年、私はずっと、本当に聞きたいことを聞けずに、現実の痛みから目を逸らし続けてきた。
初めて彼と一線を越えた夜も、私は彼の「ちゃんとしたい」という言葉の重みから逃げた。「好きだ」という、たった一言が喉元で凍りつき、朝の光の中に溶けて消えた。それが、私たちの最初の、そして修復不可能なひび割れだったのかもしれない。
何度も手放しては拾い上げ、そのたびに形を変え、歪んでいったこの関係。気づけば季節は数えきれないほど巡り、私は今、彼の隣で笑いながらも、決して埋まることのない空虚を抱えている。
私たちは、ずっと、ずっと間違い続けているのだろうか。それとも、これが私たちの唯一可能な繋がり方だったのだろうか。
溶けきってほとんど水になったグラスの中を、カラリと音を立てて最後の氷片が揺れる。
今更、どんな言葉も、どんな行動も、もしかしたら、もう――虚しいだけなのかもしれない。




