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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

テレキネシスストーン

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 復習しよう。ルネサンスの三大発明とは、何だったかな?

 ――そう、火薬、羅針盤、活版印刷術だったね。

 ルネサンスといえばヨーロッパ。世界史となるとヨーロッパの歴史にスポットが多くなりがちだが、これら三大発明のもとは中国に存在する。

 中国だと、火薬は7世紀には製造がはじまっており、羅針盤に関しては11世紀の時点で航海に使えるレベルに。もともとの磁石にかんしては紀元前の時点で、すでにその性質の発見と利用がなされていたという。活版印刷もまた11世紀には方法が確立していたようだ。


 なにがいいたいかというと、有名になるきっかけの場と、技術誕生の場は必ずしもイコールにはならない、ということだ。

 みんなもすでに、自分だけの大発見をしていて、もしこれが知られれば一躍有名人になれるかも、と想像するレベルのものを抱えているかもしれない。しかし、もろもろの事情でそれを内緒にしているがために、世界には知られていない……というのもあるんじゃないかな?

 一度知ってしまうと、それを知らなかったことにはできない。記憶をぶっ飛ばすような手段でも用いない限りはね。

 実は先生も昔に奇妙な法則を知る機会があってね。いまのところ再現はできていないが、またいつ条件が整うときがくるとも分からない。ちょっと話を聞いてみないか?


 テレキネシス、といったら超能力の中でも特にポピュラーなものだと思う。

 サイコキネシスと一緒に扱われることもあるが、サイコ~が念力で動かしているのを重視しているのに対し、テレ~のほうは離れているものを動かしているのを重視しているらしい。

 ゆえに念の力を有さず、遠くのものを動かせるならテレキネシスと呼んだほうがいいかもね。そのテレキネシスらしきパワーを、先生たちは昔に使うことができた……といったら信じるかい?


 あれは先生たちが当時、作っていた秘密基地での出来事だった。

 とある工場が持つ、だだっ広い倉庫のひとつ。そこと隣接する田んぼとの間にある茂みの中に子供数人が居座れるくらいの空間ができており、そこが先生たちの秘密基地だったんだ。

 入口となる茂みの切れ目以外の方角は、がっしりと緑の壁ができ上っていて、外から中をうかがい知ることはできない。ゴミなどの持ち帰りは徹底し、できる限りその場にいる証は残さないよう努めたが、持ち込む品事態は公序良俗に反しない限り、なんでも構わない。

 で、このとき友達のひとりが、今回の話題にあがる不思議な石だったのさ。


 それは学校の授業で使った磁石のように、その細長い胴体の半ばほどで赤色と黒色に分かれて構成されていた。

 それを前腕にこすりつける。何往復も何往復も。そうしたあとに、さっと手をかざしてみると、その手にものがひとりでに引き寄せられて、飛び込んでくるといった感じさ。

 はじめ、友達に実演してもらったときには、基地内に転がっていた石が対象となった。

 友達と石の間は、実に7メートルほどは離れており、事前にトリックを施した様子も見られなかった。それがふわりと浮き上がり、本当に磁石で引かれたかのように開いた手のひらの中へおさまったんだ。

 居合わせた先生たちは、開いた口が塞がらなかったよ。友達はぐっぐっと確かめるように石を握ったあと、ぽとりと足元へ落とした。


「名付けて、テレキネシスストーン、てね! 家の裏庭で見つけたんだよ」


 そんなベタなところからなんて、あるもんか。

 そう思いつつも、先生たちもこのテレキネシスストーンを体験させてもらった。

 引き寄せるものを選べない、という点においては超能力がなせるそれには、大きく劣ると言わざるを得ないだろう。

 でもかざした手の先に、選ばれた対象があるなら、向こうから自動的に飛び込んでくる、というのはなかなか痛快な体験だった。

 葉っぱ、木の枝などなど、それらを近づかずに引き寄せて握りこむのは、文字通りの掌握。自分が高みに立っている存在だと感じさせるに、十分な体験だった。

 それからも先生たちは、連日のようにテレキネシスストーンを使って遊んでいたよ。

 とはいっても、ほんの5日程度だったんだけどね。


 何が起きたのかって?

 これまで基地内の運用に限られたんだけど、はじめて外でこのテレキネシスストーンを試してみたんだ。

 実験は先生がやった。このときの先生はすっかりテレキネシスストーンに入れ込んでいて、持ってきた当の友達よりもテレキネシスを味わっていたからね。

 丹念に、力を込めて右前腕をストーンでこすりまくる。100回くらいは気合を入れてこすっただろうかね。

 けれど、いざ腕をかざしたとたん、先生自身もまわりにいた皆も目を剥くようなことが起こった。

 先生の腕から、ぱっと肉が消えて骨だけが残ったんだ。理科室で見た骨格標本の腕そのままだったから、驚いたよ。

 それでも長くは続かない。

 そばに停まっていた乗用車が一台。ふわりと浮いて、こちらへ猛然と迫ってきた。

 骨だけになった手が、それを平然と受け止める。ボンネット部分に手をつけたまま、重力にあらがって、ぴったりと張り付いていた。

 それがタイヤごと、ふっと消えてしまったかと思うと、先生の腕は元通りになっていたんだ。

 またもみんなで目をぱちくりさせている間に、背後でエンジン音が響く。

 振り返ると、消えたはずの乗用車が先生たちの背後にいたんだ。ただし、その運転席に座る……いや、立っていたのかもしれない。

 ヘッドレストのてっぺんからのぞくのは、先生の前腕の手のひらだったんだ。それがさよならをするようにひらひらと揺れながら、動き出した車に運ばれて、かなたへ去っていってしまったんだ。

 そしてあのテレキネシスストーンも、いつの間にかひらひらする手のひらの真下の手首部分に張り付いていたんだよ。


 先生の腕、あれからいろいろ調べてもらったけれど、異状はないということだけど……信じられずにいる。

 テレキネシスストーン、いやあいつはストーンの姿を模して、先生たちに超能力まがいのことを味わわせて、集めていたのかもしれない。

 ああして、自らの意思で走り出す瞬間のために。

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