表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

第四話:悲しみのメイドと迎えに来た辺境伯(1)

突然の結婚のことで屋敷はとてもバタバタしていた。

私はといえば、急いでドレスを縫ってみたものの、色の合う糸がなく、見るからにつぎはぎのドレスが出来上がってしまった。

こんなみっともない格好は嫌……。

でもメイド服なんて着て出れば、領主様に恥をかかせてしまう。

それはつまり、屋敷からの追放を意味する。


けれど、もう日が暮れてきた。

もうすぐ辺境伯がやってくる……。


私は諦めてドレスを着直すと、辺境伯を迎えるための大広間へと向かった。


☆ ☆ ☆


「クラ様! その恰好はどうしたんだい!?

いや、聞かなくてもわかる……リビエラ様だね」


案の定マーサは驚いたが、すぐに事情を察した。

私もさすがに取り繕う元気はなくて、素直に認めるしかなかった。


「ごめんなさい、私……これじゃお嫁に行けないかも」


「あんたが謝ることはないよ。あたしがもう少しついてやれば……」


私はすぐに首を横に振った。

マーサのせいじゃない。

リビエラ様の言う通り、浮かれていたところが油断になったかも。


大広間には辺境伯を出迎えるため、領主様と奥様、リビエラ様が扉の前で待っている。

そのそばには、従者たちが控えている。


私はその少し後ろ、つまり大広間の真ん中で待機するよう指示された。

このみっともない格好で、こんな目立つところにいなきゃいけないなんて……。


前にいたリビエラ様がこちらに気づいて、クスクスと笑った。

隣にいる奥様に何か耳打ちをしている。

私は気づかないふりで、必死に気持ちを抑え込んだ。


そして誰もが今か今かと、辺境伯の到着を待っている。その時だった。


「アルバート・フュージェネラル辺境伯のご到着です!」


ついにこの時が来てしまった。

従者が扉を開ける。

向こう側には……。


メイドと兵士がずらりと並ぶ。

そしてその先頭には、2mはあるのかと思うほどの大きな身体、高貴な装束、キリリと整った気品ある顔立ち。

間違いない。あの方がアルバート・フュージェネラル辺境伯。


辺境伯は、大広間を見渡した。

領主様、奥様、リビエラ様……そして少し後ろの私を見た途端。

目を見開いた。


目が合っちゃった?

こんなみすぼらしい格好に、驚いたのかも。

見られたくなかった……。


落ち込む私をよそに、辺境伯の従者が挨拶をしようと前に出た。

その時。

突然、それを制すようにリビエラ様が前に出た。


「ようこそいらっしゃいました、フュージェネラル辺境伯。

さっそくですが縁談についてお話がありますの」


そして、カツカツとヒールの音を鳴らして前に出ていく。

相手に挨拶をさせないなんて、無礼にもほどがある。

門前払いにも近いような形で縁談を断るつもりらしい。


しかし辺境伯は、怒るでもなくリビエラ様をただ見下ろしていた。

その目は冷たく、感情がない。


「な、何です?」


あのリビエラ様が、うろたえている。

すると静かに、辺境伯が口を開いた。


「どいてくれないか」


全員が唖然とした。

まさか、縁談の相手に対して「どいてくれ」って、どういうこと?

そう思っていたら、再び辺境伯と目が合った。

さっきから、こちらを見ている?


すると辺境伯はなんと、領主様や奥様、リビエラ様をかきわけるようにして進んできた!


「ちょ、ちょっと……きゃあ!?」


リビエラ様が辺境伯に押しのけられた。

よろけるリビエラ様を、奥様が支えている。


辺境伯がこっちに近づいて……

あっという間に、目の前で、止まった。

どかなきゃ、でも、怖い。


すると辺境伯は、なんと、私の前にしゃがんだ。

そして私の手を取り。


「約束通り迎えに来た」


低い声で囁いて、私の手の甲にキスをした。


「………………え?」


ええ~~~~~っ!?

と、周りの誰もが驚きの大合唱をしている。

でも、一番驚いてるのは私!


「ちょっと待っていただきたい、フュージェネラル辺境伯。

あなたが欲しかったのは、うちの娘リビエラではないのかね?

なぜメイドを……」


「何の話だ。誰だその娘は」


領主様の言葉に、またも衝撃的な返事。

周りもどういうこと?とざわついている。

そしてみるみるうちに顔が真っ赤になっていくリビエラ様。

苛立たしげに、足を踏み鳴らした。


「だ、だ、だ、誰ですって!? あなたが私に縁談を持ってきたんじゃない!」


「お、落ち着きなさい、リビエラ! はしたないですよ!」


わめきたてるリビエラ様を止める奥様。

しかし辺境伯は目もくれない。


「それよりオーギュスト殿、説明してもらいたいことがある」


領主様に向き直る辺境伯。

その横顔はどこか、ギラギラしている。

辺境伯、もしかして怒ってる?


いったいどうして……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ