表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第十四話:断罪

「ボクはノーザンクロス国王直属の騎士団長、ヴァシリー。査問官さま、とりあえず話を聞いてくれる?」


ヴァシリーさんは、人懐こい笑みを浮かべて言った。

査問官さまは、振り上げた拳を渋々と下ろす。


「隣国の騎士団長様がなぜここに?」


「そりゃ、手紙を受け取ったからさ」


「オーギュスト殿から? やはり……」


「いやいや、オーギュスト伯爵はこんな可愛らしい文字、書かないでしょ」


そう言って査問官さまに手紙を差し出す。

訝しげに受け取る査問官さま。


「では結局、誰が?」


いい加減しびれを切らした査問官さまが、再び苛立ちを見せた。

そこに、ドアのノック音。


「失礼します。アルバート辺境伯の従者、セドリックです」


「まったく次から次へと……入りなさい」


セドリックさんが部屋に入ると、その手には、たくさんの紙束が抱えられていた。

それを見たリビエラ様が、血相を変えた。


「あなた!? それをどこで!?」


「おやご存知ですか、リビエラ伯爵令嬢」


「う、ぐ……」


セドリックさんの言葉に、リビエラ様は喉を詰まらせた。

その様子を見て、セドリックさんは首を振る。


「お認めになってください。これらはあなた様の部屋から見つかったのです。

そうですよね?」


「ああ、間違いないよ」


セドリックが振り返り問いかけると、そこから顔を出したのは……。


「マーサ!?」


「クラ様、久しぶりだねえ」


私はマーサに駆け寄った。

マーサはメイド服を着てなかった。


「何があったの? 他のみんなは?」


「あんたが嫁いですぐ辞めたよ」


いったい急になぜ?

いろいろと聞きたかったけど、私はぐっとこらえた。

セドリックさんが続ける。


「この手紙はマーサさんが見つけ、我々に連絡をくださったのです。

内容はどれも書きかけ、書き損じと思われますが、概ねヴァシリー騎士団長がお持ちの手紙の内容と同じです」


「スパイと取引してた、だっけ?

きっと、うちからここへ密入国してる誰かに手紙を預けたんだろうね。

普通、手紙屋さんに王様宛の手紙なんか渡しても届くわけないからさ」


ついに、証拠を見つけてしまった。

リビエラ様は、目を見開き、わなわなと唇を震わせた。

みるみるうちに、顔が赤みを帯びていく。


「乙女の部屋に入るなんて! あなた達やっぱりどうかしてるわ!!!」


リビエラ様の金切り声にも似た叫び。

しかし、あまりに哀れで、誰も答えられない。

周りの様子を見たリビエラ様は。


「どうしてうまくいかないのよ……どうして思い通りにならないの……?」


その場に崩れるリビエラ様。

その疑問に答えられる者は誰もいない。

しかしリビエラ様は急に立ち上がった。


「あなたよね……」


「え……?」


「全部! 全部全部全部!!!

あなたが悪いんでしょおおおおおおお!」


そう叫ぶと、近くにあった花瓶を掴んだ。

振りかぶりながら走ってくる。

その矛先は、私?


「あなたがいなければぁぁぁ!!!」


「ひっ……」


ガシャン!!!!!


突然のことに、足がすくんで、思わず身を屈めた。

しかし、いつまでも衝撃は来なかった。

ゆっくりと目を開けると、目の前にはアルバート様の背中。


「ッ……気は済んだか?」


リビエラ様の表情が一変し、怯えている。

手に持った花瓶は割れ、その破片をアルバート様が被っている。

リビエラ様の振りかぶった花瓶を、アルバート様が防いでくれたみたいだけど……。


「怪我はないか、クラウ」


「あ、ッ……」


私は言葉を失った。

アルバート様の横顔から一筋。

血が流れてる!


「アルバート様!?」


「大丈夫だ。すぐ止まる」


誰もが顔面蒼白の中、アルバート様だけが涼しい顔で立っていた。

そして、まるで何事もなかったのように、話し始めた。


「さて、リビエラ。素直に認めればまだ酷いイタズラで済む。そろそろ終わらせないか?」


額から流れるものを気にも止めず、アルバート様はリビエラ様に向き直った。

リビエラ様はというと、自分のしたことに怯え、座り込む。

しかしやがて顔を歪ませると、涙をこぼしはじめた。


「だって、あのメイドがッ、クラウが悪いのよ!

辺境伯のことも私から奪ったの! だから私は、復讐してやろうと思ったのよ!」


奪ったなんて、人聞きの悪いことを言う。

私という身代わりまで用意し、自分から断ろうとしておきながら、逆恨みにもほどがあるわ。

私はかける言葉が見つからなかった。

口にこそ出さないものの、周囲も呆れ返っている様子だ。


アルバート様とヴァシリーさんは、仕事を終えたとばかりに一息ついた。


「やれやれ。ようやく認めたね。

あの手紙を書いたのはリビエラ伯爵令嬢。

クラウディア・ハルファストという人は隣国を攻めようなんて考えてないし、そもそもここにはいない」


「ああ。調べによるとハルファスト家のお嬢さんは、随分前に亡くなったと聞いているな……」


査問官さまも頷いた。


「ではありもしないことで隣国の王に迷惑をかけたと? なんとお詫びすればよいか……」


子供のように泣きじゃくり、カチュア様に縋るリビエラ様。

オーギュスト様は、落胆しながらつぶやいた。

カチュア様が、いつものようにリビエラ様を庇うことはなかった。


クラウディア・ハルファスト。

その名前を聞いた時から、明らかに顔色が悪い。

アルバート様もそれを察したのか、雑に額の血を拭うと、カチュア様に向き直った。


「……カチュア伯爵夫人。そろそろ話してくれませんか」


カチュア様はびく、と肩を震わせた。

しかし少しの沈黙の後、カチュア様は深く息を吐いた。

アルバート様は畳み掛けるように言った。


「教えてください、クラウディア・ハルファストについて」


「……、……、分かったわ」


憔悴しきった、全て諦めたような顔で、夫人はゆっくりと近くの椅子に腰掛けた。

すんすんと膝の上で泣くリビエラ様を撫でてやりながら。


「クラウディア・ハルファストを殺したのは、私」


妙に落ち着いた声が、部屋に響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ