9話 村の中は……
中に入ると、意外に村はかなり明るかった。
周りには魔力を使って明るくさせる電球――魔道具が設置されていた。
便利なのはいいが、こんな山奥に明るくさせて大丈夫なのか?
明かりを目指して魔物が絶対に来るぞ。
そう思っていると、違和感に気づいた……。
アタナト以外、大人を見かけていないことだ。
子どもだけで外に設置している台所で調理をしていた。
ユーディアの出迎えもそうだアタナト以外、姿がない。
出稼ぎに行っているとはいえど、多少は残るはずだ。
「なあ、大人はいないのか?」
「さっき言ったけど、みんな商会に行って働いているよ。この時期は忙しいからね!」
ほんとんどではなく全員かよ……。
いや、忙しいでも限度はある。
「ちなみに、大人が帰ってきたのはいつだ?」
「3ヶ月前かな」
はぁ? そんなにいないのはおかしいだろ……。
「みんな寂しくないのか?」
「もちろん、大人が出稼ぎに行って寂しいよ。村のためだから仕方ないと理解しているよ。忙しくて少人数しか帰ってこなかったけど、みんなわかってくれて我慢している。逆に大人が泣いて再び行ったけどね。ちょっと悲しい顔していたけど……」
悲しい顔してまで出稼ぎに行く必要があるのか?
噂ではヘールズ商会は従業員には優しく、融通のある職場だと聞いている。
忙しいからと理由で村の大人を出稼ぎに連れていくわけがない。
どうも裏がありそうだ。
『レオ、この村怪しいわよ……。少し調査したほうがいいかも……』
頭の中からフローラから声が聞えた。
念話を送ってくるほどフローラも怪しんいるみたいだ。
契約してフローラと念話ができるようになり、ここ最近は使っていなかった。
使う場面がなかったしな。
確かに、あのアタナトは本当に商会の人なのか疑っている。
変なことには巻き込まれたくはないが、何もしないで村を出るのは後味が悪い。
調べてみるか。
「子どもだけだと大変だな。そんな話を聞いたら今夜だけはやめておくか。もし、俺でよければ何か手伝うぞ。もちろん、ユーディアがいいなら」
「えっ!? 手伝うって言うことは一緒にいてくれるの!?」
「旅をしているから少しの間だけと思ってな。大移動するし身繕いしようと思ってな」
「そうなんだ! じゃあ、お兄さんたちがいるときは私の家を自由に使ってね!」
「いいのか? さすがにそこまでお世話しなくも――」
「私がいいって言っているからいいの!」
半ば強引に言うな。
まあ、母親を亡くして話し相手がいないしな。寂しいかもしれない。
「わかった。世話になるよ。よろしくな」
「うん! こちらこそよろしくね!」
笑顔で答えて、嬉しいのか握っていた手が、さらに強く握りしめられる。
泊まてもらえるなら結果オーライか。
「ここが私の家!」
小屋が密集している場所から離れて奥に進むと、2階建ての大きな家が見えた。
ほかの家と比べて立派だ。こんな山奥で場違いな気もするが、儲けていることはある。
中に入ると、自動に明かりが照らされて、広々としてきれいな空間である。
大きな家を1人でしっかり掃除しているのは偉いな。
「普通の宿屋よりいいわ、悪くないわね」
俺たちは無償で泊まるのだぞ、上から目線で言うなよ。
「ありがとう、寝室に案内するね!」
本人は気にしてなく、階段を上り案内される――ドアを開けるとベッドが2つ用意されている寝室である。
「自由に使ってね!」
「助かるよ、ここは両親が使っていた寝室なのか?」
「違うよ、私とお母さんと寝ていたよ」
違うのか? まさか父親のほうは、この家が建てる前に他界していたのか?
これ以上、察しないほうがいいな。
しかし――。
「そうか、ところでユーディア別の部屋で寝るのか? もしかしてベッドは2つしか――」
「私は1階のソファで寝るから大丈夫。大事な客人にはしっかりもてなさいと言われているの気にしないで」
俺たちを優先するとは健気な子だ。
だが、そこまで無理をするつもりはない。
「なによ、あなたもここで寝なさいよ。私たちはベッド1つで十分よ」
「1つ? ってことはフローラちゃんは私はと一緒に寝てくれるの?」
「違うわよ! アタシはレオと一緒に寝るの! 勘違いしないで!」
「そうなの……? お兄さんが窮屈じゃあ……?」
「いつものことだ。慣れているから気にしないぞ。子どもに我慢させるわけにもいかない」
「そうなんだ……。お兄さんが言うなら私も使うよ……」
落ち込んで言っているのはなぜだ?
フローラと一緒に寝たかったのか?
部屋の案内が終わり、外に出て料理している子どもたちを手伝う。
しかし……みんな器用に作ったりしている。
大人がいない分、作れざるを得なかったかもしれない。
「「「手伝ってくれてありがとう!」」」
あまり手伝っていないのに笑顔で感謝される。
感謝させれるほどではないのに……複雑な気持ちになった。
テーブルに料理――パン、川魚の串焼き、山菜の炒め物、きのこのミルクスープを置いて、みんな集まっていただいた。
……かなりおいしいぞ。
普通に店で出せるくらいの美味しさである。
フローラも「悪くないわね」っと言いながらまんざらでもなく食べている。
さっきシルバーディアーの肉を食べたのにおかわりまでするとは……。
自分の身体はお腹壊さないからって、ほどほどにしろよ。
「そういえば、アタナトはいないが食べないのか?」
「アタナトさんは来ないよ、私たちの輪に入るのが申し訳ないらしいの。料理を持っていっても遠慮するから残念……」
こんなおいしい飯が食べられるのにもったいないな。
アタナトに滞在すると言おうとしたが、来ないなら明日にするか。
というか、客人を子どもたちに任せていいのかよ。
村長の代理なら酒でおもてなしするのが普通だろ。
相当俺たちを警戒しているようだ。
まあ、別に俺は気にしていない。
食事を終えて、ユーディアの家に入り、ご厚意で先に風呂に入る。
久々の風呂はありがたい、身も心も落ち着く……。
なぜなら――俺一人でゆっくり入っているからだ。
いつもフローラと一緒に入っていて落ち着かなかった。
今回はユーディアと一緒に入ってくれと言うと――、
「なんでレオと一緒じゃないの!?」
口を膨らませて嫌がっていたが、なんとか説得して了承してくれた。
ユーディアはフローラと一緒に入れるとのことで大喜びしてくれた。
やっぱり寂しいかったのかもしれない。
俺たちがいるときだけ、フローラに悪いがお願いをしてもらう。
2人が風呂にあがり、フローラは口を膨らませて全裸で抱きついてくる。
そんなに俺と入りたかったのかよ……。
いつでも入れるのだから我慢しろよ……。
ユーディアに変な目で見られているぞ。
そして明かりを消して就寝する。
いつもより力を強く抱きしめるのではない……寝づらいぞ……。
数十分後、ようやく眠気が……。やっと寝られる――。
そのときだった――。
「うう……お母さん……、お母さん……いかないで……」
ユーディアを見ると震えて泣いていた。
それも尋常じゃないほどにベッドが揺れていた。
悪夢を見ているのかと思ったが、夜泣きだ。
無理もない……両親をなくし、独り身でまだ子どもだ。
会ってまだ浅いが、人一倍頑張っている。
我慢していることは多いだろう。
俺は起き上がり、ユーディアの近づき、落ち着かせる回復魔法を使い、安定させる。
震えが収まり、泣き止み、落ち着いて眠りについた。
「世話のかかるハイエルフね」
「ずっと我慢していたことだ。大目に見ろよ」
「アタシも孤独を経験しているからわかっているわよ」
「じゃあ、ユーディアのそばで寝てくれないか? かなりフローラを気に入っているから夜泣きはしないと思うぞ」
俺の言葉でフローラはため息つく。
「はぁ~しょうがないわね。今回だけよ。光栄に思いなさい、美女精霊と一緒に寝れるなんてめったにないんだから」
寝ているユーディアに言い、一緒に寝てくれた。
なんだかんだ、昔の自分と重ねて放っておけないだろうな。
夜泣きか……魔法でも一時的に治すことしかできないし、ずっとは面倒を見れない。
とりあえず、俺たちがいるときだけは安心せるとして、この村の怪しいところを探さないといけないな。
その件が終わったら考えよう。