8話 村まで送る
俺たちはユーディアが住んでいる村まで送るのだが――。
「あっ、ここにも山菜がある! やった!」
ユーディアは足を止めて山菜を採って収納鞄に入れる。
しかも見つけては俺たちを気にすることなく採る。
こんなことしていれば日が沈んで帰りが遅くなるな。
「そのくらいにしとけよ、たくさん収納鞄に入るからって、日持ちしないろだろ」
「この収納鞄は入れると時間が止まって腐らないようになっているの。その心配はないよ」
マジかよ……。俺が使っているアイテムボックスと同じ仕様なのか。
まだエーニ・ラピスラズリが生きていてこの収納鞄が市場に出回っていればさらに大変なことが起きていた。
いや、このアイテムボックスみたいのが市場に出回ってもいいのか……?
それなら生きているうちに普通に販売している。
この世に出回ってはいけないものだとわかって子どもだけに作ったのかもしれない。
「そうなのか。というか、そんな大事なこと、他人に言って大丈夫か?」
「お兄さんと精霊さんなら大丈夫だよ。私にいろいろと気にしてくれるし」
さっき会ったばっかなのにいいのかよ……。
「それとね、採った山菜はみんなに分けて食べるから全然足りないの。日が暮れても村に戻らなかった理由なの」
両親をなくしてひとりぼっちだというのに、他人を優先するとは。
「無理するなよ、もっと大人を頼れよ」
「そうは行かないの、大人のほとんどが出稼ぎに行っているから、私がしっかりしないといけないの」
訳ありだな。
こんな山奥だから自給自足をして暮らしていると思ったがそうではないのか。
時代が変ったものだ。
「こんな山奥に住んで出稼ぎに行くなんて世の中、大変になったわね」
フローラは俺と同じ事を考えていた。
まあ、一緒に長く生きていれば、考え方も同じか。
「そんなことはないよ、大人たちは大喜びで出稼ぎに行っているから大変だと思っていないよ」
「よくそんなこと言えるわね。自分が働いているかのような言い回しね」
「だって、お母さんと契約している商会のほうに出稼ぎに行っているから当然だよ」
まさか親と関わりのある商会に出稼ぎか。
知り合い紹介ですぐ働くことができて、商会側は人材をすぐに確保できてお互い良い関係だな。
よくもまあ、できた話だ。
「だから安心してね。やっと抜けた! ここからまっすぐいけば村に着くよ」
獣道を抜けると、馬車が余裕で通れる道路に移動した。
こんな山奥にしっかり整備されているとは意外だ。
出稼ぎは本当のようだ。
ユーディアは俺とフローラはの手をつないで引っ張って小走りで進む。
「みんな、遅くなってごめん!」
見えてきた、丸太で作られた柵――門の前にはユーディアと同じくらいのエルフたちが心配そうに待っていた。
その後ろに1人の大人――人間で40代くらいの瘦せ型の黒のベストを着た金髪でオールバックの男がユーディアに気づくとホッとひと安心する。
「「「おかえり、ユーディア!」」」
子どもたちはユーディアに駆け寄って、あっという間に囲まれる。
「みんなお腹すいたでしょ? 今日の分採ってきたから、急いで料理しましょう!」
収納鞄から山菜取り出して渡すと、子どもたちは村の中に入っていく。
「ユーディア、心配しましたよ。日が暮れる前には帰ってくるように何度も言いましたよ」
「だって、お肉ばっかりで飽きるもん! みんな山菜が好きだからわかってよ!」
「はぁ……、わかりました……。野菜多めに注文しますのでそれで我慢してください。ところであなた方は……まさか――」
男は俺たちを見ると目の色を変える。
「冒険者のレオ・セラナイト様と精霊のフローラ様ではないですか!? まさかここでお会いできるなんて光栄です!」
男は俺たちがわかるとお辞儀をする。
俺たちを知っているのかよ……面倒なことが起きそうだ。
「そうだ、俺とフローラを知っていることはこの村の者ではないな」
「はい、申し遅れました。私はヘールズ商会の執行役員を携わっております――アタナト・モンデと申します。以後、お見知りおきを」
ヘールズ商会か、収納鞄を独占している大商会だ。
大商会の人なら俺たちなんてすぐわかる。
「えっ!? お兄さんと精霊さんは有名なの!?」
「そうです。このお方は国王陛下の右腕として活躍している守護者ですよ!」
「そんなにお兄さんすごいの!? 私はすごい人に助けられた!」
「ユーディアに何かあったのですか!? では、国王陛下の依頼でここにいる危険な魔物を――」
「勘違いしているが、ユーディアはゴブリンに襲われるところを助けただけだ。言っておくが、俺たちはもう引退して旅をしている。ちょっと寄り道していただけだ」
「そうですか……ゴブリンに……助けていただきありがとうございます。まさか引退されたのですか……? そんな情報、商会では仕入れていませんよ」
「最近だからな、大商会でもすぐには仕入れられないぞ」
「最近ですか? それなら納得です。本当にユーディアを助けていただきありがとうございます。お礼にとは言ってはなんですが、もう遅いので村に泊まってください」
「それは助かるが、村長に言わなくていいのか? 商会のお前が勝手に決めていいのか?」
「村長は私どもの商会――商館の方へ出張しております。この村を発展させるためにヘールズ様とご相談しております。その代わりとして私が責務を務めてます」
村長が村を出るのかよ……。
まあ、村の発展ならおいしい話だよな。
かなりお偉いさんと良好な関係だ。
「わかった。お言葉に甘えるよ。フローラもいいよな?」
「いいわよ、久しぶりに室内で寝たいわ」
「じゃあ、私の家に泊まって! アタナトさんもいいでしょ?」
「仕方がありません。レオ様とフローラ様なら安心できます。泊めてあげなさい」
アタナトはため息しながら言う。
ユーディアの家にお泊りか……。
ひとり寂しいから誰かいてほしいのかもしれない。
「やった、私の家に案内するよ!」
そう言って再び俺とフローラの手をつないで村の中に入っていく――。