6話 満喫していたが――
シルバーディアーを毛皮、角、肉、骨、魔石に分け、日が沈む前に終わった。
相変わらずフローラは風の魔法で切り裂いて器用に分けていた。
本当になんでもありな精霊だ。
そのおかげで俺は楽できたけど。
「おにく~おにく~、久々の~銀鹿のおにく~」
フローラは機嫌よく歌いながら、とれたての肉を串に刺して魔法――炎を使って炙っていた。
昼もまだだしちょうどいいか、久しぶりに食べる肉は串焼き――シンプルに塩胡椒が一番だよな。
こんがり焼きあがった肉を俺たちは頬張る。
ほどよく嚙みごたえがあり、臭みはまったくない。ほかの鹿とは比べて脂が乗っている。
その脂はくどくなく、甘みがあってどんどん口に運んでしまう。最高に美味しい。
「はぁ……長年生きて良かったわ……」
フローラはあまりの美味しさに涙をこぼしてしまう。
30年ぶりだからその気持ちわからなくもない。
これが当分食べられるのはありがたい。
さすがに毎日食べるのはもったいない。考えて使っていこう。
だが、今日は獲れた祝いとして思う存分堪能する。
たらふく食べ大満足だ。もう日が沈む頃に、この場所は野営にちょうどいいしここで野宿することに決めた。
アイテムボックスでテントを取り出そうとすると――。
「きゃあ――!?」
突然女の子の悲鳴が響いて聞える。
なぜこんな山奥に女の子の声が? この近くに村があるのか?
そんなことはどうでもいい、魔物に襲われているなら助けないといけない。
とは言ってもすぐ近くにいるわけではない。
魔力反応で確かめても引っかからない。
「これはいつものやつね! これで3899回目の「きゃあ」よ! レオこっち!」
フローラは場所がわかりすかさず飛んでいき、ついていく。
3899回目とか適当なことを言うのではない。
この前は5498回目とか言って正確に数えてないくせに、この状況をいつも楽しむのではない。
ようやく俺もわかる範囲にきた。
少女らしき魔力と数体の魔力――ゴブリンの魔力とわかった。
このままだと攫われてゴブリンの玩具にされてしまう。
「はぁ~、よりによってゴブリンとか最悪だわ。美女の敵は滅べばいい」
美女はともかく、女の敵は間違いない。
まあ、フローラは容姿が良く、欲情されていつも襲われそうになる。
今回は楽しまないで真剣に助けてくれそうだ。
しかし、まだ距離がある。魔法で身体強化させ、山道を駆け抜ける。
見えた、10代前半くらいの青色の長髪ストレート――銅で作られた軽装の鎧を着たエルフの少女がしりもちついてナイフを振って後ろに下がりながら4体のゴブリンに抵抗している。
ゴブリンは舌を出して不気味な顔してゆっくり近づく。
間に合ってよかった。俺たちは急いで魔法で弓矢を創り、ゴブリンの頭に放つ――。
「「「――ギャァァァ!?」」」
頭に矢は貫通し、倒れてしまう。
急な出来事に少女はキョトンとする。
「大丈夫か?」
「え? あ、は、はい……」
俺たちが駆け寄ると紫色の瞳で見つめて呆然とする。
まあ、無理もないか、急に見知らぬ人間が現れたらそうなるか。
「なによ、アタシたちが美女の敵を倒したのよ。お礼も言えないなんて失礼ね」
「あ、ありがとうございます! 精霊さんに……お兄さん……」
「フローラが精霊とわかるのか?」
「は、はい……お兄さんは精霊さんの契約者なんですよね……? は、初めて見た……」
まさか少女が俺たちを見抜くとは少し驚いている。
普通のエルフでも俺たちは魔力が多い人間と認識するだけだ。
よく見ると、少女は異様な魔力を感じる。今まで見たエルフの中で初めてかもしれない。それに若干だが、ほかのエルフより耳が長い。
特異体質なのか? だが特異体質だからってまだ10代前半くらいの少女が俺たちを見抜くはおかしい。
「そうだぞ、よくわかったな。何か見えるのか?」
「は、はい……お兄さんと精霊さんが魔力で繋がっている……。もしかして契約していると思って……」
ここまでわかるのはすごいとしか言いようがない。特異体質で片づけるしかないか。
「まだ幼く見えるが、年はいくつだ?」
「13歳です。まだ成人していないです」
やっぱり未成年か、こんな山奥に少女1人はおかしいぞ。
「もう日が暮れているのに帰らないのか? 近くに村はなさそうだが、親が心配するぞ」
「山菜を夢中で採っていたらいつの間にか日が暮れて……。村はここから1時間くらいはあります。お母さんとお父さんはもう他界しているので心配する方はいないので……」
訳ありか……。話が重くなってしまった。
「悪いこと聞いてすまない……」
「大丈夫です。もう乗り越えましたので」
「そうか、危ないから村まで護衛するぞ。よそ者を信用できればだが」
「いいのですか!? 精霊の契約者のお兄さんなら信用できます! よろしくお願いします!」
精霊がいると絶対的な信頼にはなるか。
けど、エルフにとって精霊は神のような存在だが、今となっては、信仰のようなことは薄くなって珍しいだけの存在になっているはずだ。しかも、こんな幼い子が見抜いて精霊を知っているとは……。
まあ、怪しい子ではないから深く考えなくていいか。
少女は喜びながら、よろけて立ち上がった。
「怪我でもしたか?」
「はい、ゴブリンから慌てて逃げたときに足をくじいてしまって……。普段ならもっと逃げ切るのですが、さっきのゴブリンは足が早くて困りました……。回復薬持ってくればよかった……」
ゴブリンはこの子がかなり好みだったかもしれない。
逃がさないと必死だったかもな。
「魔法で治すからじっとしてくれ」
俺は腫れている少女の足を手を近くに当て魔力――治癒魔法で治す。
腫れがひいて、これで大丈夫だろう。
「あ、ありがとうございます! こんな早く治せるなんてすごいです!」
「フローラと契約しているからな。さあ、急いで村に戻らないとな」
「は、はい!」
契約していなければ魔法なんて使えることなんてできない。
そこらの剣士と同じだ。
そのフローラはずっと無言だがどうした?
「あなた、ハイエルフでしょ?」
「は、え……そ、それは……」
フローラの発言で少女は戸惑う。