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5話 お目当ての魔物


 ――翌朝。


 目を覚ますと、フローラの姿がなかった。

 外で大はしゃぎしている声がする。

 テントから出ると――全裸になって滝の近くでバシャバシャと浴びているフローラの姿だ。

 朝から冷たい渓流に入るとは、


「風邪をひいても知らないぞ」


「アタシは精霊だからひかないわよ。レオも一緒にどう? アナタもこれくらいの冷たい水でも余裕でしょ? というか浴びてよ」


 なぜ俺が入る前提になっている?

 俺も寒さに耐性があるとしても好き好んで入るわけないだろう。


「遠慮するよ、朝食の準備するからそれまでに体を乾かしておけよ」


「せっかく美女が誘っているのにつれないわね、小僧がいなくてゆっくり浴びることができるのに」


「それは浴場の話だ。水浴びは別だ」


 まあ、王城の浴場で俺とフローラが一緒に入っていると、絶対というほどアレクも入ってくる。

 今思えば鼻息を荒く興奮して誘っていた変態だったな。

 フローラがいないから暴走して民の少女を襲わないことを願う。

 息子(ベオルク)がいるから大丈夫だと思うけど。 


 そのせいで俺はフローラに抱きつかれてゆっくりお湯に浸る余裕がなかった。

 確か極東には温泉が有名と聞いた。楽しみは取っておくことにしよう。


「ちぇ……本当に頑固なんだから……」


 残念そうな顔して俺を見る。

 だから無理して入るわけないぞ。


 その後、朝食を作っているとき、俺を見て無言で訴えきている。

 ダメなものはダメだ。


 朝食が作り終わる頃には浴びるのをやめて、風魔法で体を乾かして服を着て無言のまま朝食を食べる。

 食べ終え、片づけて移動する準備ができると、フローラは背中に乗っかかり、おんぶ状態に、


「案内してくれないのか?」


「するわよ――あっちよ。たまには背中に乗らせてよね」


 行く方向を指を差して言う。

 いつも背中に乗っているだろう。

 しょうがない、機嫌が直るまでこのままにしておくか。


 依頼も何もないしな、思う存分ワガママを聞いてやる。


「わかったよ、今日は好きなだけ乗れ、だが案内はしっかりしろよ」


「うん!」


 元気よく返事して俺の強く抱きしめる。

 そんなに嬉しいのかよ。

 このまま味を占めて明日も同じことにならなければいいが――。



 ◇ ◇ ◇



 ――6日が経ち、フローラが言っていた5つ山を越えたが、シルバーディアーの気配はなかった。

 

 10年前の情報なんてこんなものだ。期待はしてはいない。いなければ場所を移動したか絶滅しただろう。

 別としてほかの食料になる獣を多く狩ることができて大猟である。

 当分困らなく良い寄り道であった。


 だがフローラは――。


「あの詐欺商人、噓をついたわね! 今度あったらただで――ぎゃあ!? なんでクモの巣があるのよ!?」


 見つからず愚痴を言って、よそ見をしていたらクモの巣に引っかかりさらに機嫌が悪くなる。

 どうすることもできない、おい、終焉魔法を発動させようとするな。


「もういい……山ごと吹き飛ばして探してやる……」


「そんなことしたら探せないだろう」


 フローラにまとわりついているクモの糸を取り除き頭をなでる。


「そ、そんなのでアタシの機嫌は良くならないわよ!」


 そう言いながら顔を赤くしてデレデレ状態になり、発動を止める。

 相変わらずチョロくて助かる。

 なでて周囲の崩壊を阻止できるならいくらでもなでてやる。


「今日で見つからなかったら下山するぞ」


「そうね、詐欺商人に騙されたけど、その噓が本当かもしれないわ」


 その情報は本当かもしれないが、時すでに遅し、何もなければここには用がない。

 そろそろ街に行って宿屋でのんびりしたい。


 ここからだと、発展途上の小さな街――エゲインが近い。

 あそこなら俺たちは、有名な冒険者とばれずにのんびり休むことができる。


 さて、フローラが気が済むまで――。


「あっ、この感じ、あっちよ!」


 異質な魔力反応が出てフローラは急いで追う。

 この感じ、覚えているぞ。シルバーディアーの魔力反応だ。

 しかも複数頭も――フローラを追い、平坦な草むら――広い草原に着くと急に止まる。


 そこには白銀の毛を輝かせてのんびり草を食べている数十頭の鹿――シルバーディアーだ。


「たくさんいるじゃない! あとで詐欺商人を見つけて文句を言おうと思ったけど、撤回するわ」


 その商人、10年前だから引退している可能性もあるぞ。年はわからないが、かなり若ければ大ベテランになった可能性もある。


 まさか警戒の強いシルバーディアーが俺たちが近くにいるのに草をのんびり食べているのは予想外だ。

 数頭いるだけで珍しいのに数十頭もいるのはおかしい。

 ここは天敵がいなく、繫殖しやすい環境なのかもしれない。


「さぁ~、収穫のはじまりよ――」


 フローラはテンションを上げて、雷魔法を使い、雷を纏った大きな網(サンダーネット)を上空から落とし、半数以上を捕獲する。

 そして、電流が走り、シルバーディアーは感電して倒れる。


「残りは繫殖のために逃がしておいたわ、10年後が楽しみね……」


 繫殖を考えているのは偉いが、10年後は環境が変わっているかわからないぞ。

 せめて数年後くらいならわかる。

 そのあとに行けるかわからないが、楽しみにはしておこう。


「レオ、ぼさっとしないで解体手伝って」


 あまりにも早すぎて追いついていけない。

 まあ、この数だと早めに解体しないと日が暮れてしまう。


「わかったから急かさないでくれ――」


 俺とフローラは日が暮れないうちに解体を始めた。

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