45話 精霊の神秘
「じゃあ、教会の指示で来たのか?」
「そうだ……男爵の首を取れと……。そしたらまともな地位に配属してやると……」
もうどうでもいいのか、正直に話してくれた。
「命令されたのはお前だけか?」
「わからない……。私がおとりの可能性がある……。こんなに強い奴がいるとはそうなる……」
たまたま俺がいただけだが……。周囲を確認したが、怪しい奴はいない。
おそらく信者の暴動に進展が起こらず少女を起こり込んだはずだ。
このくらい強ければ1人でも十分ではある。
「触れていいのかわからないが、その古傷はなんだ?」
「小さい頃から浄化という名の体罰受けてきた……。言えるのはそれだけだ……」
ユーディアの件もそうだが、子どもに体罰とは想像以上に腐っている。
問題なのが――。
「あのクズども……。いい加減にしろ……」
フローラは膨大な魔力を出して本気で怒っている。
マズい、俺でも止められないほど、理性が抑えきれない状態だ……。
「フローラちゃん、落ち着いて……」
ユーディアは魔力に当てられて膝をついてしまう。
このままだと、何をするかわからない、吸収魔法でなんとか抑えるしかない。
フローラは少女に近づいて額に手を当てた。
少女の体に膨大な魔力を流していくのがわかる。
なるほど、そういうことか。
俺は魔法の発動をやめて見守る。
周囲は高濃度の魔力の影響で黄金色に包まれ、地面には花が咲き始め。
「えっ……? 涙が勝手に……」
少女は温もりを感じたのか涙が止まらなかった。そして古傷が消え、綺麗な肌になった。
本来の姿に完治した。
いつも規格外で本当に驚く。
フローラにしか使えない魔法――精霊の神秘だ。
本人は精霊の最強治癒魔法としか言わないから俺が勝手に名前を付けさせてもらった。
ただ欠点がある――大量の魔力を消費してしまう。
今ので魔力をほとんどなくなったと思う。
「これで安心よ。レオ……疲れた……」
終わるとフローラはだるそうに俺の背中に乗ってきた。
まったく……やるなら言ってくれよ……。
「噓……傷が治っている……。聖刻と言われて一生治らないかと思った……」
聖刻とか、本当に頭がイカれている。
「フローラに感謝しろよ」
「そうよ、アタシに感謝しなさい」
「な、なぜ……私を治してくれた……。お前たちの敵で――」
「アタシが治したかったからよ。古傷は乙女の恥よ。見るのに堪えなかったわ」
「り、理屈がわからん……。けど……ありがとう……」
頭を下げてお礼を言う。
フローラがここまで同情するならこの少女はもう大丈夫だとは思うが確認したいことがある。
「なあ、正直に答えてくれ、人を殺したことはあるか?」
「ない、これが初めての暗殺の命令だ」
「レオ、この子正直に言っているわよ。目を見ればわかる」
確かに真剣な眼差しで言って噓はついていない。
偽りならすぐ見破ることができる。
「お兄さん……」
仕方がない、二人に免じて見逃す方針にするか。
「男爵を暗殺と教会をやめるのだったら見逃してやる。どうする?」
「私は……もう失敗した時点で教会に見捨てられたようなものだ……。けど、居場所なんてどこもない……。どうやって生きていけばいいかわからない……」
自分では判断できるわけないか。ずっと教会で住んでいれば何をしていいかわからないしな。
このまま放っておくわけにはいかない。
「もし、俺が雇うと言ってたら、聞いてくれるか?」
「お前を襲ったのに正気か!? 私は雇われるほど強くないぞ!」
「普通の冒険者より実力がある。文句なしだ」
「ほ、本当に雇うのか……?」
「俺が決めたことだ。悪い話ではないだろう?」
「そ、そうだが……。な、なんでそこまで……」
「レオがいいって言うならいいのよ。あなた、素直に認めなさいよ」
「だ、大恩人に言われたら従うしかない……」
半ば強引にだが、治してくれたフローラには言うことを聞いてくれた。
「お兄さん、この子を雇うってことは一緒に旅をするの?」
「そのことなんだが、さすがに魔族領は厳しいと思う。聖審教会――教会に関わっていた奴は出入り禁止だからな、しっかり説明すれば許可できるが、急な申し出は無理だ」
「じゃあ、どうするの?」
「エゲインの用心棒――男爵の護衛でもしてもらう」
「正気か!? 男爵の命を狙ったんだぞ!?」
「けど、失敗に終わって居場所がないだろ?」
「そ、そうだが……」
「じゃあ、男爵を暗殺する気力があるのか?」
「する気力なんてない……」
「だったら、教会の奴らが出入り禁止のエゲインは安全だ。俺が事情を説明してすれば男爵は納得する」
「そんなうまく行くのか……?」
「こう見えても人脈は多い方だ。この機にいろいろ触れるといいさ」
俺は束縛魔法を解除して少女を自由にした。
「わかった……。お前――あなたを信じる」
「交渉成立だな。名前はなんていう?」
「リネラベール――リネラと呼んでくれ」
リネラベールか……アーシュ大陸――極寒の地でも咲いている花だ。
花言葉は「自由と安心」「永遠の笑顔」だったはずだ。
察してしまった。親が付けた名ではなく、自分で付けた名だと……。




