44話 不審者
不審者の姿が見えてきた――小柄で黒一色コートを着ていた。しかも体が薄く隠密の魔法を使っている。
これから暗殺しますよって、醸し出している。
何をするかわからないし、ここで未然に防ぐとするか。
俺は拘束魔法――球体を創り、暗殺者に投げて捕まえようとするが、横に躱される。
俺の魔力に反応したのか? 小さい魔力を察知するとはかなりの手練れなようだ。
俺の方に向き、腰につけているが2刀の短剣を構えて警戒している。
顔を確認しようと思ったが、仮面をかぶってわからない。そんなことはどうでもいいか。
「お前、聖審教会の奴だな? 悪いが、好き勝手ことを――」
距離があるのに俺の近くに詰め寄っていた。
無言で襲いかかろうとするってことは教会の奴で間違いはないようだ。
けど、おかしいなことにあの連中は神に誓ってとか言いながら襲ってくると思ったが、コイツはそんなことは言わない。
まあ、暗殺者だからそう教わっているかもしれない。
そうなると、コイツは二階級――戦闘の配属とわかった。
切りかかろうとするが、俺は後ろに下がって避けて、再び魔法を発動させようとすると、短剣を投げつけてきた。
気づくのが早いな、発動を中断して避けた。
魔法使い対策は万全のようだ。
ん? 俺の視界に姿がなかった。
気づいたときには遅かった――すでに背後にいた。
刃は俺の首を狙い切りつけようととする――。
しかし、首元で金属が鳴っただけで刃は通らなかった。
安全のために全身を魔力で硬化させて正解だった。
悪いが、普通の短剣くらいでは傷をつけることができない。
隙があるうちに腕を掴んで上に投げ飛ばし、近づいて腹を目がけて蹴りを入れ吹き飛んでいく。
「――ぐあぁぁ!?」
無言だった暗殺者でもあまりの痛さに声が出る。女か。
性別がどうあれ暗殺者は暗殺者だ。
地面に落ち転がっていき、木に当たり止まった。
その衝撃で仮面が外れ、軽装の鎧が壊れる。加減して蹴ったが、壊れるほどの強さではないぞ。
確認すると――黒髪ショートの長い耳をもつ少女――エルフかよ……。これは酷いな……全身古傷だらけである。
しかも壊れた鎧は錆びていて手入れを全然していない状態だった。
本当に教会の奴なのか? よく考えると、暗殺者1人だけというのはおかしい。まだ幼く見える少女を任せるとは……。
腕は確かだが装備が整っていないのはナメている。
周りを確認したが、教会のシンボルである十字架を持っていない。
教会の奴でも常に持っているとはかぎらない。
さて、こいつはどうするか……。訳を聞いてベオルクに渡すせばいいか。
気絶している間に拘束魔法をかける。
『レオ、終わったの?』
『ああ、ちょうど拘束して終わったぞ』
『そう、その後どうするの?』
『それなんだが――』
フローラに訳を話すと――。
『ふ~ん、少女ね。気になるから見に行くわ。ユーディアも行くってさ』
ほかに怪しい奴はいないし、警戒を解いても大丈夫か。
ベリアミスたちは兵士がいるから問題もない。ポチもいるしな。
少し経つと、フローラとユーディアが駆け寄ってきた。
「古傷、酷いわね……」
「私と変わらない子がなんで……」
2人は少女を可哀想に見る。
「お兄さん……この子はどうなるの……?」
「俺に襲いかかった時点で罰則は逃れない」
「そんな……」
「ただ、正直に話してくれるなら刑は軽くなるだろう。ただ、更生できるかは彼女次第だ」
「正直に話してほしいな……」
ユーディアは優しいな。
問題なのがまともに話してくれるかわからない。
俺も正直に話してほしいのが本音だ。
――十数分経つと少女は目を覚ました。
周りを確認して自分が追い込まれていると把握したのか。
抵抗をすることがなかった。
「殺せ……」
一言目がそれかよ……。暴れるよりたちが悪い……。
「もっと言うことがあるだろ? 俺に襲いかかったのはなぜだ?」
「私は失敗した……。殺して楽にしてくれ……」
「そんなこと言うな。正直に話せ、刑が軽くなるぞ。その後はお前次第だが、何度だって人生やり直せるぞ」
「居場所なんてどこにもない……。私を見ればわかるだろ……黒髪のエルフだと……」
「忌み子か……そんなの昔の話だろ。ユーディア、村に黒髪のエルフはいたろ?」
「うん、2人いたよ。みんな仲良く暮らしていたよ。お母さんから黒髪の子は偏見で嫌われていたと言われたけど。昔の人は見た目だけで判断するのは大バカ者だと呆れて言っていたよ」
「そんな話が信じられるか……。黒髪のせいで……」
エルフは突然変異で黒髪で生まれることがある。本当に稀なため、昔は忌み子扱いされ差別されることがあった。
だが、種族だけの問題であり、ほかの種族は差別をしたりしない。
まだ古い思想をもっている親に洗脳せれて生きてきたのか。
いや、待てよ……その古い思想は……。
「おい、お前の親は聖審教会の信者なのか?」
「そう……だ……」
少女は口を震えさせて言う。
最悪な環境に生まれたな……教会はエルフのことには敏感だ。
この少女を忌み子扱いされている……。
親が信者ならおかしくて当然だ。
「酷いわね……」
「そんな……」
フローラとユーディアは同情していた。
同情したくなるのはわかるが、まだ聞けてないことばかりだ。
二人とも俺を見つめないでくれ……全部聞いてから判断するよ……。




