4話 精霊の感覚
街道を外れ東南の方角に進み、けもの道へ――。
フローラに任せているが、まさか山に登るのは予想外だった。
ウサギやイノシシなど生息して獲れるが、おいしい肉ってなんだ?
ここ周辺は俺たちが行ったことのない場所で情報がわからない。
どこで情報を仕入れたか知らないが、ないならないで寄り道したと思えばいいか。
そんなに急いでるつもりではないしな。
ここで収獲がなかったら、平地に戻ってフローラに高く飛ばせて探してもらうか。
すると、ガサガサと落ち葉を踏む音が聞こえ、振り向くと――平地に生息していているより一回り大きい黒いウサギが飛び跳ねて移動している。
ちょどいい、今晩の飯は確保できた。魔法で弓と矢を創り、狙いを定め――。
「レオ、あんなウサギにかまっている暇なんてないわよ。早く行きましょう」
フローラが俺の袖を引っ張ってくる。
「大事な獲物だぞ、もう日が暮れて飯の用意もしないといけない。そんな早く行かないとダメなのか?」
「あと5つの山を越えないといけないのよ。アイテムボックスに入っている肉で足りるし我慢できるでしょう?」
さすがに5つはないだろう……。もっと早く詳しく聞けばよかった……。
待てよ――。
「ちなみにおいしい肉ってなんだ? どこから情報を手に入れた?」
「山しか生息していない白銀の鹿――シルバーディアーよ。最近商人から聞いたの」
おいおい、めったにお目にかからない希少な魔物かよ。
シルバーディアーの肉なんてここ30年は食べていない代物だぞ。
でかい獲物を探しにいっているな。
久しぶりに食べたいのはある。探すのは賛成である。
だが、最近商人と話す余裕なんてなかった気がする。
「最近っていつの話だ?」
「10年前よ。さぁ、狩られる前に行きましょう」
やっぱりな……フローラの最近は最近ではなかった……。
精霊と人の感覚が全然違うのを忘れていた。
1年前ならわかるが、10年前だと生態系が変わっているだろ……。
もう期待しないで寄り道すると思えばいいか。引き返したら機嫌を損ねてしまう。
「多く肉があっても困らないだろ? 長旅だからここでほかの肉も貯蓄したい。シルバームースは山奥に生息しているし誰にも狩れるわけないだろう?」
「それもそうね。いつものアタシの癖がでていたわね。じゃあ見つけ次第狩りましょう」
そう言って魔法でナイフを創り、ウサギ目がけて放ち、額に刺さって仕留めた。
切り替えが早くて助かる。
さて、晩飯も確保できたし休む場所を探すか――。
歩き続けると、川が流れる音が聞こえその方へ向かう。
森を抜けると、小さな滝が流れている――渓流に出る。
川原は平坦で足場は悪くない、今日はここで野宿することにした。
周囲に落ちている木枝を拾い、火魔法を使って焚き火をする。
その火で買っておいた食材とウサギの肉で調理をする。
「野菜を切るのはアタシに任せて、ついでにニョッキも作ってあげる」
まさかニョッキを作る余力があるとは、面倒な奴らにあって疲労が溜まっていると思ったがそうでもないらしい。
作ってくれるならありがたい。
フローラが担当する食材――野菜を渡してお願いをする。
俺は獲れたウサギを毛皮、内蔵を解体して肉にする。
下処理が終わり、鍋に一口サイズに切った野菜、ブツ切りにしたウサギ肉を水で柔らかく煮込んで、茹でたニョッキを加えて調味料で味を調えて、栄養満点のスープが完成した。
皿に盛り付けて、お互い熱々のスープを食べる――肉はホロホロで野菜も味が染みている。フローラが作ったニョッキはモチモチで満足のいく品だ。
辺りは夜になって冷え込む、その中で食べるスープは格別だった。
「宮廷料理人にも引きを取らない味ね。久々の旅食も悪くないわ」
と言いながら口に頬張りながら満足している。
確かに久々の野外での料理だ。王族の契約をしてからほとんど王城で食べることが多くなったしな。
というか料理なんていつくらいだ? 少なくとも1年以上はしていないぞ。
これからは毎日料理をしないといけないが、アイテムボックスで作り置きもできる。
時間があるときにまとめて作って手抜きをすることもしないと。
腹を満たし、後片付けして――温めたミルクを飲みながら焚き火を見て落ち着く。
こんなのいつぶりだ? 王都では忙しくてゆっくり落ち着くことはできなかった。
「レオ、流れ星が見えるよ! ほら!」
フローラが指を差し、俺も夜空を見上げると――もう消えていた。
そういえば星をゆっくり見るのも久しぶりだ。王都では周りが明るくてよく見えなかったな、周りが暗いとこんなにもきれいに輝いている。
何もかも久しぶりで新鮮に感じる。
「なにボーっと見上げているのよ! ほらそこ! 願い事が叶えられじゃない!」
「別にお願い事なんてしなくても、もう叶っているだろう? 自由と言う願い事が」
「そんなの叶った枠に入らないわ! もういいわ、アタシだけお願いする!」
夜空に光が走り――流れ星を見つけてるとフローラは手を合わせてお願いをする。
「これでよし! もう願いが叶ったも同然だわ!」
「願い事を当ててやるよ、フローラのことだから今以上にお金を稼いで裕福な暮らしができますようにとな」
「そんなじゃない!? 確かにアタシはお金は好きだけど、そんなに守銭奴ではないわよ!?」
フローラは顔を膨らませて拗ねてしまう。
「ハハハ、冗談だよ。俺が悪かった本当は何を願い事した?」
「この長旅が無事に終わり、いつまでもレオと仲良く一緒にいますよう必死にお願いしたのがバカらしく思うわ」
まともなお願いだった……。
なんか冗談で言ったのが本当に申し訳ない。
俺は無言で頭をなでる。
「ちょっと、そんなのでごまかさないでよ!」
「いや、たいした美女精霊だなと思って」
「と、当然よ! アタシは世界一の美女精霊なんだから大事に扱いなさい!」
そう言ってフローラは俺に抱きつく。
とうとう世界一宣言をしてしまったか。
マズい、本気で言っているからつい笑ってしまう。
「なぁ、俺といてつまらなくないのか?」
「毎日一緒にいて楽しいに決まっているじゃない。そうじゃなきゃ契約なんてしないわ。レオこそアタシといて楽しくないの?」
「楽しいに決まっているだろ、飽きたことなんて一度もない」
「えへへ、そうでしょう~」
顔を赤くして微笑む。一緒にくっついていてわかるが少し体温が上がっている。
よほど嬉しいみたいだ。
いつもどおりチョロかった。まあ、噓は言っていない。
その後、星空を眺めて時間が過ぎていき――。
「レオ……眠い……テント……」
「はいはい」
フローラは大あくびをして寝そうだった。
アイテムボックスから骨組みをしたテントを出して、魔物対策で周囲に魔法陣――結界魔法を張って安全確保する。
今日はいろいろと疲れたし俺も寝るか。中に入り、毛布をかぶせて一緒に寝る。
こら、俺に抱きついて寝るのではない。
まったく……甘えん坊な精霊だな。