37話 ペット
オリオントが安全だとわかると、俺たちに駆け寄ってくる。
「岩亀ではない……宝石亀――ジュエリータートル……。なぜここに……? 活火山付近の水辺でしか生息できないはずでは……」
「訳あって俺たちが助けてな、この湖に置いたのさ」
「まったくわかりませんよ……。ジュエリータートルは火山岩を食べないと生きていけない希少生物ですよ……」
「じゃあ、この湖は奥底に眠っているのはなんだと思う?」
「か、火山岩があるのですか!?」
「そういうことだ。大昔、火山が流れてきた可能性がある。とは言ってもここでは限りがある。まさかここまで長く生きるとは思わなかった」
「ポチは頑丈だから長く生きるのは当然よ」
フローラは胸を張って言うが理屈になっていない。
この大きさだと湖にある火山岩は食べつくされたはずだ。
「そういえば、夜に岩亀の移動したと数か月に一度は目撃情報がありました。まさか火山岩を探しに行った可能性もあります」
オリオントの発言にポチはうなづいた。
なるほど、定期的に摂取すれば生きられるようになったか。
環境に適したとはすごいな。
「ふ~ん、まあ、いいわ。ポチはアタシのペットだから害はないわ、もし怪我でもさせたら許さないわよ」
「ハハハ……フローラ嬢には逆らえない。わかった、男爵殿に説得するよ」
ちょっと脅しに聞こえるが、納得はしてくれたようだ。
ポチに再会ならその分、街に長く滞在だな。
それはいいが、面倒な奴を片づけないといけない。
信者どもがポチに目を輝かせて向かってくる。
「「「宝石をよこせ!?」」」
俺は周囲に防壁魔法――透明な壁を張ってポチに近づけさせないようにする。
街以前の問題になってしまった。ポチの甲羅――付いている結晶が目当てだ。
ジュエリータートルは一般の宝石と違って純度が高く、高額で取引されている。
目の前に金目の物がいると、怯えていた信者はよだれを垂らして欲するとは……。
おそらく、教会の資金にするつもりだろうな。
金物で自分を認められようとさせようと。
「このシロアリ……アタシのかわいいペットを……金カネかねって……ウッサイ……」
「「「ひぃ!?」」」
フローラは我慢の限界で威圧魔法を使い、信者どもは跪いて頭を押さえて怯えた。
「フローラ嬢……もう少し加減を……」
屈強なオリオントでも膝をついてしまう。このまま抑圧させられるならいいが、また同じことを繰り返す。
……仕方がない、この手は使いたくないが、ポチと街みんなのためだ、最終手段を使わせてもらう。
といってもフローラ頼りになる。
「フローラ、お願いがあるけどいいか? ポチのために聞いてくれないか?」
「何か案でもあるの……? いいわ……聞いてあげる」
耳を傾けてくれるならまだいい方だ。フローラに伝えると――。
「あまりやりたくない……それしか案はないの……?」
「悪いが、ポチのためと思ってくれ」
「わかったわよ……ポチのためにやるわよ……」
フローラはため息をついて空高く飛び、準備をする。
これでうまくいってくれよ。
すると、上空から光の柱が落ちると、信者どもは振り向く。
「「「教皇様!?」」」
40代後半の肥満体で、両手には宝石の指輪、首には豪華な首飾りをつけた奴が――教皇? と気づくと拝んで称える。
まあ、こんなところに教皇なんて来るわけがない――フローラの変身魔法だ。
ここからが問題だ。フローラの演技次第でばれる可能性がある。
「崇高なる信徒よ、神託が下った。我らの神がこの領域に光の裁きを与えると……魔族と関わった者には粛清すると……ただちに避難せよ……」
かなり大きく出たな……。
信者どもは――。
「おお……神よ……我々の意思が伝わったのですね……」
「神から自ら裁きを……なんという慈悲だ……」
「おお……神よ……。我々の神よ……」
意外にばれないものだな……。
フローラは後ろに振り向きその場を去る。
そして信者どもも続いて一緒に去っていく。
「ふぅ……もう二度とあんな姿になりたくないわ……」
「お疲れ、早いおかえりだが、大丈夫か?」
「そのあとに全員に幻覚魔法をかけておいたわ。今頃シロアリどもはここ周辺が焼け野原になったと思い込んでいるわよ」
よくそんな高度な幻覚魔法を使えたな。フローラも日々進化している。
「あの……信者はもう来ないのですか……?」
「もう平気よ。ついでに二度と来ないように暗示もしといたから」
今回はサービスがいいな。これもポチがいるからかもしれない。
「あ、ありがとうございます……。これで平穏な日々になります……」
今回は俺たちが解決せざるを得なかった。
ポチが無事ならそれでいい。あとはカロメンとオリオントに任せれば大丈夫だろう。
まだ俺たちがやることがある。信者どものせいで汚れた湖を浄水しないといけない。
「ポチおすわり、お手、おまわり~」
フローラ、ポチで遊んでいる場合ではない。
清掃してからにしてくれ。




