34話 まだ解決していない
――翌日。
ハーブティーの匂いで目を覚ますと、またフローラが優雅そうにソファに腰をかけてハーブティーを飲んでいた。
「やっと起きたわね。貴族たるもの寝坊は許されないわよ。さぁ、寝ぼけていると冷めるわよ」
そう言って俺の分のハーブティーをコップに注いだ。
また貴族ごっこしているのか。別に貴族マネごと――あっ、俺、一応貴族だってことを忘れていた。
どうせ明日くらいには飽きて普段どおりになるから付き合うか。
「昨日のより清々しい朝だと思わないかしら? 信者の悔しがっている顔を思い浮かべながら飲むモーニングティーは最高じゃない?」
その発言は貴族ごっこでも品がないぞ。
フローラにはまだまだ貴族としての振る舞いは無理なようだ。
「2人とも、ご飯できたよ! 早く下りてきて!」
「ああ、わかったよ」
今日も朝から手伝っているユーディアに急かされながら下りて、賑やかな食堂のカウンターに席につくと、パンとオムレツベーコン、野菜スープが出てきた。
すると、フェリシアは深いため息をした。
「あら、美人がため息なんてアタシと同じで悩みの種があるのね」
自称、世界一美女精霊が何か察したようだ。
というか悩みなんてそんなにないだろう。
「フローラと同じとはわからないが、最近、仕入れ――質の良い野菜があまりなくて困っている……」
「信者の影響で商人が仕入れることができないってことか?」
「そうです。このまま長引くと食堂を一時休止になります。ご心配なく宿泊しているレオさんたちの分は出しますよ」
やっぱり影響が出るか。これは俺でもどうすることはできない。
ベオルクが動くまで辛抱だ。だが街がほぼ封鎖状態は全員が不安だろうな。
「本当に迷惑な連中だ! これ以上商売の邪魔をして生計が立てられなくなっちまう!」
ポモロは配膳をしながら怒って言う。
怒って当然だ。大事な収入源がなくなってしまえば生活も困難になりかねない。
「そんなこと言って、新婚旅行のお金が貯められなくて困っているのだろ? まぁ、ポモロとエレーゼは働きづめで休暇がほしいだろ、この機に愛し合う時間に使ってくれ」
「母さん、人前で言わないでくれよ!」
「お母様……」
ポモロとエレーゼが顔が真っ赤になり、周りは大爆笑だった。
ここは面白くていいな。この空気、悪くない。
オリオントがのびのびとして階段から下りてきて俺の隣には座る。
「よく眠れたか?」
「おかげさまで2週間ぶりに長く睡眠を取ることができました」
昨日、オリオントは俺たちが昼食の時間に心配で起き上がって、どうも寝付けなかったらしいが、俺が報告して、城門に行って確認したら、ひと安心して今度はゆっくりと寝に入った。
「まあ、まだ解決はしていないけどな」
「もちろんです。ですがレオさんが王族に伝えてくれたならもう安心です。あとは時間が解決してくれますよ」
今頃ベオルクはアレクに問い詰めているはずだ。そこから信者を止めに来てくれる。
それで解決すればいいが。果たしてベオルクが率いる騎士たちでも止めることができるだろうか?
あの信者が素直に応じてくれるわけではない。
最終的には俺たちを頼ってきそうだ。
だが、あれ以上増えると別の問題が出てくる。
「魔物の報告はあるのか?」
「いいえ、ございません。もし、騒いでおびき寄せても勝手に倒してくれますよ」
「アタシが沈黙魔法を使って無理やり静かにさせたのだから変な魔物なんて来ないわよ」
「それもそうか」
音に敏感な魔物を呼んで治安を悪くさせる方法もあるが、あいつらにとってのメリットがない。
別の思惑があると思ったが俺の考えすぎか。
状況が最悪なのは変わらない、食べ終わったら街の様子を見て考えるか。
「レオさん、俺と一緒に領主殿に会ってください。兵士から耳に入っていますが、報告しないといけませんよ」
さすがに俺の判断でやってしまったし、言わないといけないか。
街の様子はそのあとにしよう。
食べ終わり、カロメンの屋敷に向かう――。
暇ということでフローラもついて行くことになった。
道中で周りの人が信者の愚痴を言っていたそのなかで――。
「商人から聞いた話だが、あの狂信者ども、湖に食べかすを捨てたり汚物を流しているらしいぞ」
「噓だろ!? 川と湖の生き物に影響するだろ!?」
「まったくだ。俺たちは大切な湖を使って生活しているのに本当に困る連中だ!」
別の問題――公害が起きている。街の生活用水にあいつらはバカなのか?
普通ならわかるはずなのに自分勝手な奴らだ。
あそこの湖は俺も思入れのある場所だぞ。
予定を変更して湖の様子を見に行く。
「あのシロアリども……あそこには大事な場所よ……。どうやら消した方がいいらしいわね……」
フローラも耳にも入ってしまったか。フローラが俺よりも思入れがあるよな。
「終焉魔法はやめろ、まずは水質調査からだ」
感情的になっているフローラの頭をなでて落ち着かせる。
「そ、そうね、まずはそこからね……。だけど……かなり酷かったら容赦しないわよ……」
今回はさすがの俺でも止められそうにない。
まずはカロメンに会ってからだ――。




