3話 面倒は続く
このタイミングで会うのはツイていない。
「ガラマサ枢機卿ではないか。王様に御用か?」
「はい、最近魔族の女が城に泊まっていると耳に入り、ただちに追い払うよう言いに参りました」
なるほど、ゼフィルのことか。
まさか魔族と勘違いしているとはな。まあ、龍と思ってないのが幸いだ。
教会の連中は魔族もそうだが、魔物にも敏感だ。龍なんて災厄をもたらす象徴で魔族と手を組んでいるとバカげた妄想している奴らだ。
タイミングよくゼフィルが帰ったからまだいい。
しかし、その情報はどこで耳にした?
まあ、情報が間違っているし、そこまで気にしない。
「その魔族はとっくに帰ったぞ。無駄足だったな」
「それはよかったです。ですが、魔族を城に入らせたのは納得いきません。神が言っています――神聖な場所に魔族を入らせてはいけないと」
教皇は十字架を両手に握りしめ、目をつぶってお祈りする。
何が神が言っているだ、お前らが崇拝しているのは邪神の間違いか?
こいつらの教え――秩序は気に食わない。はっきり言って反吐が出る。
神の導きとか言い出して無関係な魔族を虐殺した過去があるからだ。
いろいろとあったが、今は魔族と和平条約を結んでおとなしくしているからまだいい。だが、懲りずに魔族は悪だの滅べばいいとか訳のわからないことを言っているのは心底呆れる。
それよりも教皇、フローラが怒っているのがわからないのか?
普通の人でもわかるほど殺気を出しているのに吞気にお祈りしている場合か?
お前なんてすぐ消せるぞ。
時間の無駄だ、今のうちに去るか。
怒っているフローラは微動だにしない、しょうがないから持ち上げて離れようとすると――。
「お待ちください。そういえばレオ様は国王陛下の盟約が解消されましたよね? よろしければ聖審教会と盟約を交わすつもりはございませんか? 愚勇者がいない今、アナタの力が必要です」
愚勇者ねぇ……会ったことないのによくそんなこと言えるな。
教会連中は今後も会うことはないけど。
「勇者の代わりに何をしろと?」
「魔族討伐です。神に誓って――この世の悪を滅ばないといけません。レオ様もその責任があるはずです」
昔のことを知らないくせしてよく言うな、この詐欺師が……。
しつこかったら、ぶん殴るか。
「戯言をほざくな。お前、何を言っているのかわからないのか? 和平条約は絶対だぞ。俺が破るわけないだろ」
「そうでしたね、大変申し訳ございません。ダメもとで聞きましたが残念です」
意外にあっさりだ。こいつ、何か企んでいるのか?
まあ、今の教会の奴なんて弱いのしかいないし、権力もない。
何かしてもほかの奴らが解決してくれるから大丈夫だろう。
「そういうことだ。俺たちは去るぞ」
「ちなみに今後の予定を聞いてもよろしいでしょうか?」
「旅するだけだ。予定があって残念だったな」
「そうですか、では良い旅よ」
教皇はお辞儀をして謁見の間に入っていった。
こいつ、何がしたいのかわからん。時間の無駄でしかない。
最後の最後で戯言をほざいたが、もう二度と会うことはないだろう。
フローラは怒っているがよく我慢してくれた。落ち着かせるために頭をなでる。
「こ、子ども扱いしないでよ! こ、こんなので落ち着かせようと無駄よ! アタシはちょろい女じゃないんだから!」
そう言いながら顔を赤くしてにやけてまんざらでもなかった。
相変わらずちょろい精霊で俺からしたら助かる。
「変な奴はいたが、買い物に行くぞ。早くしないと面倒だ」
「そ、そうね――って急にやめないでよ! 待ちなさい!」
まだ足りないのかよ、本当に好きだな。
今はそんな余裕がないからまた今度だ。
俺たちは城を出て市場に直行する――。
知り合いから野菜、穀物を大量に購入して【アイテムボックス】に入れる。
アイテムボックスは本当に便利だ。フローラと契約して覚えた収納魔法である。
大型の魔物や必需品はもちろん、食材を入れると時間が止まり永久保存ができてとても助かっている。
近年、魔道具として収納鞄が開発されて便利になったが、大金貨3枚と高くて金のある者しか買えなく、一般には出回らない。
アイテムボックスと違って時間が経過して食材は腐ってしまう。あと容量も限られている。
それでも上級冒険者は大型の魔物を運びやすくなるから人気はある。
まあ、俺からしたら無縁だ。
最低限は買えていつでも出発できる。
フローラが肉は購入しなくていいとか言ったが、不安である。
今のところ面倒な奴に会っていない、このまま商店街に行って質の良い肉とパンやパスタを買って十分に備えて出ていったほうが後々困らなくて済む。
予定を変更して商店街へ行こうとしたらダメだった……。
人混みの中に冒険者ギルドの受付嬢がいた。
よりによって、なんで市場にいる……? 休暇なのか?
あそこを通らないと商店街に行けない。
はぁ……しょうがない諦めるしかないか。
あの受付嬢、俺に頼ってくるから本当に困る。
リスクを冒してまであそこを通ることはできない、すぐ俺たちに気づいてしまうからな。
結局フローラに獣探しを任せるとしようか。
受付嬢に気づかれないように市場を後にして門のほうに向かう――。
門の近くまで来た――これで外に出れば俺たちは自由となる。
それにしても周りはやけに人が通っていないのが気になる。門番も見当たらない。
いや、違う……外の無数の魔力――人が待ち伏せしている……。
うわぁ……最悪だ……。
俺が門を通ると、正装した男性2人――冒険者ギルドの総括でグランドマスターのウェップ・ホーマーと王都の組合代表のギルドマスター――ワイナー・ブラッゼに数十人の冒険者が現れた。
おいおい、とんでもないことになった……まさかグランドマスターまでいるとは……。
「レオ殿、国王陛下からのお勤めご苦労様です。これからどこに行く予定ですか?」
「少し散歩をしたくてな、邪魔しないでくれないか?」
「ほう……その散歩とはいつになったら戻ってくるのですか?」
「さぁな、お前には関係ない話だ」
ウェップめ、遠まわしに話かけてくるな、素直に手伝ってくれと言えばいいものの。
「レイさん、お願いです。どこにも行かないでください。私たちにはレイさんが必要なのです。
たまにでもいいのでぜひ、指導者として冒険者を育成をお願いします!」
ワイナーは頭を下げて単刀直入に言った。
指導者は悪くない話だが、面倒なのは変わりない。
「私からも――上位の魔物が現れたらその討伐をお願いしたいです。報酬もお約束します。我々にとって悪い話ではないと思いますよ」
なぜかついでに魔物討伐もしてくれとか軽すぎないか?
そんなの前よりもハードワークになるぞ。
「お前な……俺たちに頼りすぎだ。少しは自分たちでなんとかしろ」
そう言うと後ろにいる上級冒険者は「いかないでくれ」「俺たちはまだ弱い」「指導お願いします」など駄々をこねる。
おい、そんなんだから成長しない。まったく呆れる……。
「はぁ……うるさいわね……レオ、こんな奴らほっといて行こうよ」
「そうだな、準備はできているか?」
「もちろんよ」
俺は風魔法を使い足に纏わせる――。
フローラと一緒に高く飛び――冒険者が逃がさないと塞いでいたが軽々と飛び越えてそのまま走り去る。
「いつかわからないが、またな」
「ま、まってください!?」
ギルドマスターは慌てて言い、冒険者は捕まえようと追ってくるが、もうすでに遅い。
いくら足の速い奴がいても魔法で速度を上げいれてば勝ち目はない。
数分が経ち、みんなの姿が見えなくまで走った。
「ふぅ……懲りない連中ね……。これでアタシたちは自由ね」
「そうだな、これから俺たちは誰にも縛られることなくのびのびと旅ができる。ちょっと備えは不足しているが」
「肉ならアタシに任せて! ところで旅の目的はないの?」
「目的か、最初は極東――出雲を目指す」
「一番遠い島国に行くのね。そうなると、少し道を外れるけどいい?」
「別にすぐに行くわけではないからいいぞ」
「なら安心だわ、とびっきりおいしい肉がある場所知っているからついていきて!」
場所を知っている? いつからそんな情報を仕入れてきた?
まあ、その情報を信じてフローラに任せよう。
少々慌ただしい出発となったが、面倒事は回避したからよしとする。