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29話 標的にされる理由


 いろいろとあったが、フローラとユーディアを宿で休ませギルドに向かう。


 住宅街から商店街に入り奥に進むと、酒屋に足を止めた。


「まさかここが冒険者ギルドなわけないよな?」


「そのまさかです。エゲインの冒険者ギルドはここになります。まだ冒険者が集まらないのでご理解ください」


 王都のギルドと比べてはいけない。ほかのところでもこじんまりとした建物のギルドはある。

 扉を開けて中に入ると、酒を飲んで賑わっていた。その中に少数だが鎧を着た冒険者も飲んでいる。


 奥にはボードに依頼の張り紙もあり、ギルドというのは本当のようだ。


 40代くらいの黒髪でオールバックのバーテンダーがオリオントに気づくと、お辞儀をする。

 カウンターの奥の部屋に入っていく。

 中は机の上には書類が置いてあり、オリオントの作業部屋だとわかった。


 木のソファに座り、バーテンダーが来て紅茶を出してくれる。


 俺たちは紅茶を飲んでオリオントの話を聞く。


「まずは、王都から来てくれてありがとう。依頼内容はわかっていると思うが、街の護衛だ。あの信者に街を入らないように見張ってくれ」


「それはいいのですが、数が多すぎます。なぜあれほど増えたのか知りたいです」


 デニーツの問いにオリオントは紅茶を飲んで深いため息をつく。


「私も正直驚いている。ここ最近で倍以上に増えたのはおかしいと思う。増えた理由としては領主殿の令嬢に関係している」


「カロメンの娘――ベリアミスが何かしたのか? 昔会ったことがあるが、幼くても礼儀正しい子でやらかすことはしないと思うが」


「ベリアミス嬢は何もしてはいない。ただ、彼女は妖艶な容姿をして貴族から人気があり婚約申し出が多い。けど、全部を断り貴族から恨みを買わられて標的にされている」


「貴族と聖審教会のなんの関係があるのですか? 接点が見当たらないです」


「教会の連中とつるんでいる貴族が仕組んだことだ。どうせ金を出してこの街を貶めようしているだろうな」


「レオさんの言うとおりです。まさか信者を動かすとは思いませんよ……」


 まさかベリアミスが狙いとは思わなかった。金を使ってまで手にしたいのか?


「情報はそれだけか?」


「はい、できればのことですが、レオさんにも依頼をお願いしたいです。報酬はもちろんあります」


「俺は依頼は受けないぞ。ただ、街に侵入したら手伝う。それでいいな?」


「あ、ありがとうございます!」


「ほかにも詳しくカロメンに確認をしないとな。案内してくれるか?」


「そうしたいのですが、領主殿はこの件で疲れているので明日の方がいいかもしれません」


 カロメンはかなり神経を使って大変だしな。配慮は大事だ。


「わかった。明日案内頼む」


 とりあえず事情はわかった。宿に戻ってゆっくりしよう。


 すると、ドアからノックが聞こえて開いた。

 さっきのバーテンダーと思っていたが、魔族の青年だった。


「工場長、お取込み中申し訳ないが、工場でトラブルが発生しました。大至急お願いします」


「わかった。すぐ行く、先に行ってくれ」


「は? お前、工場長もしているのか?」


「正確にはしていたと言えばいいですかね。辞めても工場長が根づいてしまい、今でも呼ばれています。それにギルドはまだ小さいので時間があれば工場の手伝いをしています」


 規模が小さくてもギルドマスターをやって工場の手伝いって、ハードワークだな……。

 前よりも忙しくなっていないか?


「まあ、無理はするなよ」


「お気遣いありがとうございます。では私は工場に向かうので解散としましょう」


 オリオントと分かれて宿に戻る。


 中に入ると、フローラとユーディアがカウンター席に座ってビーフシチューを食べていた。


 もう夕食の時間か。


「レオ、遅いじゃない。こっちよ、アタシたちはもう食べているわ! フェリシア、レオにも同じのお願い」


 フローラが手を振って呼んでいた。俺も隣の席につくが、ユーディアは――。


「お兄さん……どれだけの人を救ったの……? 私……こんなすごい人と一緒にいてもいいの……?」


 まだまだ整理がつかないようだ。というか周りの魔族にいろいろと聞いたのでだろう。

 落ち着くまでそっとしておこう。

 

「フローラから聞きました。この子、大変でしたね。ほら、ユーディア、レオさんは確かにすごいけど、普通の人と変わらないよ。一緒にいて、煮たり焼いたりなどして食うはずないよ」


「それ励ましになるのか?」


「私としては励ましているつもりです」


 そういえば、フェリシアは天然なところがあるのを忘れていた。

 美人だけどそこがちょっと残念である。


「あの……お待たせしました……。ビーフシチューになります……」


 フローラとユーディアを案内してくれた魔族の子――エレーゼが食事を運んでいるのだが、顔を赤くして体を震えながら俺の前に置く。

 

「悪いね、エレーゼはあのとき、聞いてなくて、私が和平条約を結んだ英雄様と話して緊張しているのさ」


 ああ、二人を案内していなかったしな。


「お母様……それは言わないでください……」


「ところでフェリシアをお母様って呼んでいるんだ?」


「この子はポモロと婚約を結んだのさ。だから私は義母になった。あれは忘れないね。プロポーズの言葉は――」


「母さん、その話はいいから仕事してくれ!」


「お母様……やめてください……」


 ポモロは顔を真っ赤にして大声で叫び、話を中断させた。

 周りはもう大爆笑だった。


 一般でも人間と魔族が結婚か……もうそういう時代になったか。

 良い世の中になったな。


「あら、人間と魔族が結婚するのは良い世の中になったわね。小僧は…………うん、魔族までとはいかないけど、長生きはしそうね。お似合いのカップルだわ」


 フローラにお墨付きもらえるとは。

 確かに魔力――フェリシアの遺伝をして長生きはする。


 人間と魔族の結婚は、寿命の違いで諦める人もいた。

 一部例外はあるが、俺は「愛」があれは関係ないと思う。


 この二人はわからないが、寿命違いで諦めるのは古臭い考えかもしれない。 


 まあ、良い世の中になったには変わりはない。

 俺が思っている以上に時代は変わっている。

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