25話 下山
3日が経過し、やっと下山できた。久しぶりの平地である。
あとは街道を目指せばエゲインに一直線だ。
「わぁ~、地面がデコボコしてない! 一面、平坦な地面は初めてだよ!」
山育ちのユーディアにとっては珍しい情景だ。
まだこれくらいで驚くのは早いぞ。
これから行くエゲインは最近、魔道具産業に力を入れて工場が増えているとは聞いた。
街に行ったら驚くばかりだろうな。
そう思いつつ、エゲインにつながる石で舗装された街道に入った。
あとは道なりに進めばエゲインだ。とはいってもまだ距離がある。
歩いて1日はかかる。野営なのは確実だ。
ユーディアには申し訳ないが――。
「山と違っておもしろい!」
周りを見て満喫していた。楽しんでいるならいいか。
「はぁ……街道に移動したけど、まだなようね……」
そんなフローラはため息をつく、だからといって勝手に背中に乗るのはやめろ。
またいつもの癖がでたか……。
しばらく歩くと、後ろから馬車が来る。俺たちは端により、道を空けた。
馬車が通過すると、乗っていた冒険者と目が合った。
「止まってくれ!」
馬車は男の声で急に止まる。
あっ、面倒くさいことになる……。
馬車から降りてきたのは俺たちが王都に出ていくときに足止めしようとしていた――フルアーマーの槍を持っているガタイの良い20代前半の男冒険者だ。
「レオさんではないですか!? まだ近くにいたのですね!?」
「ああ、そうだ……。お前は確か……デニーツだよな? 周りから評判が良いと耳に入っている」
「俺を知っているなんて光栄です! 最強の冒険者が……俺を俺を……」
突然泣き始めた。
面倒くさいのに絡まれたな……。ここは早く終わりにしたい。
「言っておくが、俺は王都に戻らないからな」
「わかっています。みんな諦めてましたので安心してください――」
なんだわかってくれているじゃないか。
「――グランドマスターとギルドマスター以外はですね」
前言撤回、あの二人……まだそんなことを……。あいつらが引退するまで王都のギルドに行かないことにする。というか行く必要はない。
「あの二人、懲りないわね……。アタシが美女だからって追いかけるなんて困るわ」
「「それはない」」
俺とデニーツと一緒にフローラにツッコミを入れる。
ただ、精霊の力を使って面倒な依頼を片づけてほしいだけだ。
フローラの容姿は眼中にない。
「ない? じゃあ、あの二人は熟れた女が好きってことかしら? ならアタシの魅力がわからないわね」
自分で勝手に解釈している。まあ、面倒だからそう思っても構わない。
「とにかく、俺たちの旅の邪魔をしないでくれ」
「わかりました。ちなみにこれからどこへ?」
「ここからだとエゲインしかないだろ」
「やはりそうでしたか! 俺たちも護衛の依頼でエゲインに行きます。 もしよかったら、馬車に乗りませんか?」
「いいわね。アタシたち疲れているから乗りましょう」
そう言っているがすでに馬車の中に入った。いつの間に……。
まあ、ご厚意ならありがたく乗る。
俺たちは馬車に乗って、揺られながら進む。
デニーツのほかに乗っているのは、同じフルアーマーのガタイの良い男女である。男はガイレスで女はジュディアンだ。
デニーツと同じ依頼を受けた冒険者である。この二人は俺たちのことは噂だけで聞いていたが、その本人とわかると、驚いて握手をせがまれる。
このくらいなら別に問題はない。
「ところでレオさん、エルフの子と旅をしているのはどうしてですか?」
やっぱり、気になるか。ユーディアに話していいか確認し、村で起きたことを話す。
「そんなことが……。大変だったな……」
3人とも泣いて同情してくれた……。
「レオさんと一緒にいれば絶対幸せになるから、安心して旅をしてくれ……」
「は、はい……」
ユーディアが困惑しているだろ……。言わなければよかったな……。
「俺も聞くけど、お前たち、護衛と言ったな? あの街に物騒なことでもあったのか?」
「はい、実は……エゲイン全体で脅迫されて……街を守るために依頼を受けました……」
「は? 街全体? どこぞのバカ貴族が狙っているのか?」
「違います……。レイさんがさっき言っていた聖審教会の奴らですよ……」
なんの冗談だよ……。あの街は宗教――聖審教会での思想の押しつけは禁止されていて、街に入ることを許されない場所だ。
エゲインならユーディアが安心して落ち着かせられると思ったのに、最悪のタイミングだ。
「一応聞くが、脅迫されている理由は……?」
「魔族がいるからですよ……。最近、エゲインは発展して魔族が増えたらこれですよ……。見ないふりしてればいいのに、狂ったように突っかかってくるのは異常ですよ……」
はぁ……お得意の魔族撲滅か……。もうお腹いっぱいだ……。
よくもまあ、禁止されているところで……和平条約の意味がわからないのか……?
「王族に話したのか? 和平条約に反しているぞ」
「エゲインを管理している。カロメン・ワンセム男爵はもちろん言いましたよ。ですが、最高責任者――ガラマサが細工して上に話が通らないとか……」
あのクズ野郎……邪魔でしかない……。このことはベオルクに伝えておく。
それまでに魔族たちが怒って聖審教会の奴に手を出したら最悪な結果になる。
おそらくそれが狙いだ。はぁ……本当にいい加減してくれ……。




