24話 まだ始まったばかり
薄暗い森の中にテントを張ってユーディアを毛布をかけて寝かせる。俺は木の枝を集めて火を焚き、食事の準備だ。
フローラには近くにいる魔物を倒すようにお願いした。結界魔法で安全にさせたとはいえ、ユーディア魔物が近くにいるのは落ち着かないだろう。
俺たちは気にしないが、まだ慣れない環境で慣れろとは無理な話だ。
本当ならもっと安全な場所に野営したいけど、フローラのせいで予定が狂ってしまった。
まあ、旅にトラブルは付き物だ。みんな無事なら怒りはしない。
「う……ここは……テント……野営……? 食事の準備!?」
ユーディアは慌てて起き上がり、テントから出てきた。
「まだ、体がだるいだろ? ゆっくり休んでくれ」
「それはダメ!? 私が料理を担当するって決めたの! 迷惑をかけるからそう決めたの!」
「優先するのは体力回復だ。街に入るまで動くから無理は禁物だ。旅は担当はなく、動ける人――できる人に任せるのが基本だ。そういうことだ。わかってくれ、旅をしている先輩の言うことは聞いてくれよな?」
「むぅ……」
顔を膨らませて拗ねる。まだまだ意地を張る子どもだな、旅をしてそのうちわかると思う。
「じゃあ、明日の朝食は任せたぞ」
「わかった……」
ともあれ、底をついていたユーディアの魔力は半分は回復して、体調も良くなっている。
明日は予定どおりに移動できそうだ。
「戻ったわよ~。あら、ユーディア起きたのね。ほら、イノシシも狩ってきたわよ。レオ、これもお願い」
フローラはアイテムボックスから解体したイノシシの肉の塊を出した。
これは香辛料を使って串に刺して焼くとするか。
完成した――チーズ入りのパン、イノシシの串焼き、トマトと豆のスープだ。
「悪いな、山菜料理じゃなくて、これからは少しは我慢してくれよ」
「もうお兄さんったら、私は健康のため山菜を食べていただけで我慢できるよ」
「あら、そうなの? てっきり山菜好きのマニアだと思ったわ」
「もう、フローラちゃんも、私はバランスの良い食事ならなんでも食べるよ!」
冗談を言いながら、食事をする。そういえば、俺たち以外と旅するのは久しぶりだな。
賑やかで良いことだ。おいしくいただいて、後片付けをしてのんびりしていた。
「ねぇ、お兄さん、なんで極東に行くの? お母さんから聞いたことがあるけど、あそこはよそ者には厳しく、昔はよそ者を入れさせないために国を封鎖していて最悪な場所だと……」
エーニから聞いた話だとだいぶ昔の噂だな。
しかも間違っている噂だ。
「その情報は間違っているぞ。よそ者には厳しいイメージだったのは、国内の派閥――内戦があって巻き込まないように国を強制的に逃しただけで、封鎖――鎖国はその内戦の影響で終わるまで外国人は入国をさせていなかっただけだ。極東人は基本は優しく、人情があるぞ」
「そうなんだ……。お母さん……噓つき……」
「いや、俺も最初はその噂を信じていたよ。極東人に会うまではな」
「知り合いがいたの?」
「ああ、その知り合いがベオルクと一緒にいた女騎士――アオイの先祖だ」
「だから詳しいんだ。知り合いの話を聞いていたから行きたくなったってこと?」
「まあ、そんなところだ」
「お兄さん、もし、極東の旅が終わったらどうするの?」
「そうだなー、魔族領の北に位置する。アーシュ大陸に行ってオーロラを見たいかな。ただ、あそこは魔族でも厳しい極寒の地で危険大陸にされている。事前にトワに許可をもらわないといけない」
「じゃあ、その次は?」
やけに質問してくるな。
ああ、そういうことか。俺の旅が終わったら一緒にいられないと思っているのか。
「レオ、アーシュ大陸が先なの!? ゼフィル――龍の里は!?」
「おいおい、先に龍の里に行ったら遠回りになるだろ……。効率を考えろよ」
「アタシたちに効率なんて必要あるの? 時間なんて無限にあるから関係ないでしょ?」
「あのなー、時間があるからって面倒はごめんだ。ほかに行きたい場所が出てきたらどうする?」
「いいじゃない。そのときはそのときよ」
「ほかにも行く場所が……よかった……」
安心したのかホッと息を吐く。まあ、思っているほどかなり長い旅をする。
だが――。
「ユーディア、気が済むまで一緒にいてもいいんだぞ。たとえ俺たちが目的――旅をしなくても。まだユーディアの旅は始まったばかりだ。時間はたっぷりあるからじっくり考えてくれ」
「……うん!」
一瞬、固まったが、満面な笑みで返事をしてくれた。
とりあえず不安は取り除けたようだ。まだ旅をして初日だ、悩んでも仕方がない。
「そういうことだ。明日も早いからそろそろ寝るぞ」
俺はテントに入ろうと……2つ用意したテントが1つにだけになっている。
さては――。
「フローラ、もう1つのテントはどうした?」
「アタシが片づけたわよ。テントなんて1つで十分よ」
「それは男女別で用意しただけだ。フローラとユーディア用に」
「なんでよ、アタシたちに男女という概念はないわよ。ほら、アタシが中を温めたのだから入ってよ。というか入りなさい」
まったく……いつもそうだ……。少しは恥じらいを感じろ……はぁ、しょうがない俺は外で寝るか。
「お兄さん、私は別にいいよ。一緒に寝よう」
「ほら、ユーディアも言っているでしょ!」
はぁ……二人して……わかったよ……。
二人して甘えん坊で困った……。




