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23話 限度がある


 魔族領を目指すと言ってもかなりの距離だ。ここからだと1ヶ月以上はかかる。

 そんな急ぎではないし、本来と変わらないのんびりした旅になる。

 

 街で連泊したりするから2ヶ月以上になるだろう。

 

 急いでもユーディアの選択を急かすようになるだけだ。

 まあ、その期間でまとまるわけではないが、じっくり考えられると思う。


 とりあえず山を下りて、近い街――エゲインを目指す。

 

 とは言いつつ……魔物が多い……。


 灰色の図体がでかいオーガに、木に擬態して襲いかかろうとするトレント、しかも豚頭の人型――オークの集団が不揃いな家を作って住処にしていた。


 まだ村から出て3時間くらいだぞ……。まさか逆の方向に害を及ぼす魔物がいたとは……。一歩間違えれば村を襲われるほどの距離だ。

 よく子どもたちだけで過ごせたのが不思議である。いや、大人たちがいなくて対処できなく無法地帯になったか。


 おそらく……あのロリコン野郎は潮時だったかもしれない。

 襲われる前に子どもたちを奴隷商に引き渡して村を用済みにする予定だったはずだ。


 これが本当かわからないが、結果的に助けられたのは大きい。


「まったく、ザコがうじゃうじゃして面倒ね」


 フローラは呆れながら魔法で疾風の槍(ゲイルランス)を放ち、一網打尽にする。

 俺たちからしたらそこまで脅威ではない。ただ……俺の背中に乗ったままだ。

 俺より先に魔物を倒すのは助かるが、状態が良くなったのなら降りてくれ。


「フローラちゃんすごい! 強い魔物を倒すなんて私できないよ」


「このくらい当然よ。ハイエルフのあなたなら練習すればこれくらいは余裕で使えるはずよ」


「私……魔法得意じゃない……。大人に教えてもらったけど、全然ダメだったの……」


 ユーディアが魔力があっても得意不得意はある。

 ハイエルフはわからないが、エルフだって魔法が苦手な者もいる。


「それは教えた奴が悪いだけよ。ユーディアが覚えればトカゲくらい余裕で吹っ飛ばせるわよ」


「トカゲか……やっぱり私はそのくらいしか倒せないか……」


「フローラが言っているトカゲは龍だぞ」


「龍が倒せるの!? 私が!?」


「そうよ、あなたが魔法を覚えないなんてもったいないわ」


 フローラがそこまで言うとは、確かにユーディアは魔法の素質は十分ある。

 魔法を覚えるのは損はないがユーディア次第だ。

 俺としては何かあったとき助けられないから防御魔法は覚えてほしいのが本音ではある。

  

「けど……旅しながら覚えられるかな……?」


「ユーディアが覚えたいときでいいから、無理は禁物だぞ」


 さすがにいきなり覚えてくれは酷だ。心に余裕がない。

 覚えるのは先の話になる。無理やり自分に鞭打っても壊れるだけだ。


「何言っているのよ、今すぐ覚えるのに決まっているじゃない。ちょうどいい魔物がいるわね」


 その魔物を感知した――遠くのには、木々の間をズルズルとすり抜けて移動している巨大な黄色いヘビ――バジリスクである。

 どこがちょうどいい……。魔法を覚えていない子に冗談を言っているよな?


「むりむりむり!? こんな強い魔物で練習は無理だよ!?」


「練習? 実践に決まっているじゃない。アタシが教えるから大丈夫よ」


 本気で言っていた……。

 いや、ユーディアならできるかもしれない。


「無理だって! フローラちゃんの基準がおかしい!」


「はぁ~駄々言ってないで、気づかれないうちにやるわよ。ほら、背中貸して――」


「えっ? 背中?」


 フローラは背中に手を当て、魔法――魔力を流し込む。


「えっ、何? 頭の中からさっきの魔法の構造が……」


 普通の人なら頭の処理が追いつかずに失敗するが、ユーディアは無事成功したようだ。

 そう、同調魔法(シンクロ)をかけたのだ。


 フローラが疾風の槍の情報を流して覚えさせている。


「これで使えるようになったわ。ここからが本番よ」


「体が勝手に――」


 そして、体も動かせる。ユーディアの周りに荒々しく風が吹いて、手を前に出して魔法が発動する。

 【無詠唱】か……。やっぱり魔法の素質は十分すぎるほど持っている。

 さすがハイエルフだ。


 吹き荒れた風がユーディアの近くに集まり、魔力を帯びた槍の形状に変わった。


「荒っぽいけどまずまずだわ。さぁ、一発で仕留めちゃって――」


 その発言で疾風の槍を放ち、木々を薙ぎ倒してバジリスクの頭部に直撃し、貫通して体は暴発してバラバラになった。

 噓だろう……同調で覚えたとはいえ、威力が桁違いだ……。

 それも大型の魔物の残骸がないほどの……。


 ユーディアは将来、大魔導士になれるぞ……。

 その本人は真っ青だった。驚くのも無理も――。


「あれ……力が……」


 ユーディアの体をよろけて倒れようとするが、俺が支える。

 どうやら魔力切れして気絶したようだ。


「う~ん、もうちょっと同調すれば魔力を無駄にできなかったわね。でも体で覚えさせるには楽だわ」


「無茶言うな、素質があるとしてもまだ素人だぞ。同調するならもっと手軽な魔法にしてくれ例えば防御魔法とか」


「最初に防御魔法を覚えたって、魔力が切れてやられたら意味ないじゃない。最初は攻撃が大事なんだから、ほら、とある偉大な精霊が言っていたわよ――攻撃は最大の防御ってね」


 その偉大な精霊とか勝手に話を作るな……。

 本当に脳筋な精霊だな……。


「とにかく、同調で覚えさせるのはいいが、ペースってもんがあるだろ? 基礎から覚えさせろ」


「はぁ~、しょうがないわね。わかったわよ。基礎ね、基礎、しっかり叩き込んだらさっきと同じくらいのを覚えさせるわよ」


 何かと不安があるが了承してくれた。

 ふぅ……危ないところだった……。フローラは限度っていうものを知らない場合がある。

 

 前に俺がしつこく言ったから、今は素直に聞いてくれるが、言わないと好き勝手やってしまう。

 もうちょっと察してほしい。


 しかし……ここまでユーディアが強いと、利用される可能性がある。

 あまり目立たないように教えないとな。


 ユーディアを休ませたいし、この辺りで野宿にしよう。


 ユーディアをおぶって、安全な場所を探す。

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